稲妻 | ナノ
触れたらぱらりと壊れてしまう、がらす細工のような繊細さを、彼女は強気のなかに孕んでいた。
「うちな、FFIの間にちょっとだけ怖い思いしてんで」
ベッドのすぐ側に座り、するするとりんごの一本剥きを進めながら、リカがぽつりと話しはじめた。さすがは料理屋の娘だなあなんて思いながら「なあに?」と軽く相槌をうった。柔らかく差し込む夕方の日の光はリカと積まれたりんごを照らし、そよそよと吹き込むうっすらと冷たい風は、カーテンとリカの青髪を揺らしていた。
「なんかな、天空の使徒っちゅうやつらに、花嫁やゆうて連れ去られてん」
今度はももの皮を剥いている。どうやらリカはお見舞いにと皆が持って来てくれた果物をすべてそのまま食べられる状態にしてしまおうとしているらしい。冷蔵庫に入れてしまえば暫くはもつだろうから別にいいんだけど。
「まあ円堂たちが助けに来てくれたし、セインはええ奴やったし。今んなったら面白い経験したなあくらいなんやけど。せや、エドガーがむっちゃ頑張ってくれたんよ。足壊してまで、レディーがなんたらやって。ちょっと惚れてまうかと思ったわあ」
ちくんと痛む心は、まあ無視ってことで。そっか、さすがエドガー、英国紳士。俺には真似出来ないかなあ。ていうかセインてなんだろ。
「まあ、うちにはダーリンだけやけどな」
そっか、ありがとう。そう言うとリカはどういたしまして、とよく解らない答を返した。あ、今度は梨か。みずみずしい音が耳に心地好い。
「ちょっとだけな、ダーリンが迎えに来てくれへんかなあって期待もあってん。いやホントにちょっとだけやねんで? うん、病院におることも…知っとったし。ダーリンが秋のこと好きなんもわかっとるし。やから、…」
「……なんでもない、ごめんな。あ、りんご食べさせたるわ」
そう微笑んだリカが切なくて、抱きしめようと思ったけれど、触ってしまえば壊れそうで、それに生憎俺の体はまだうまく動かなかったから、おとなしく口に運ばれたりんごをしゃくしゃくとかみ砕いた。
∴狡くてごめん