稲妻 | ナノ




 不動くんに、告白された。
 いきなりの出来事すぎて、「え、」とか「あっ」とかしか言えなかったけど、その時は断る理由もとくになかったから「いいよ」って言った気がする。不動くんの顔はまっかで、りんごみたいだった。つり上がった緑色の瞳は、ぽたりと雫が落ちてきそうなほどに潤んできらきら輝いていて、いつも悪態をつくうすい唇の口は真一文字に結ばれていた。不動くんじゃないみたいだった。今思えば、私はその時の雰囲気や、不動くんの纏うオーラに流されてしまっただけかもしれない。あの時は守くんが好きだった気もするし。そうじゃなかった気もするんだけど。でも不動くんの言葉に嘘は無かった。私は嘘とか、そういうものにはわりと敏感なほうだから、本当に嘘だったら私はそこで「いいよ」なんて言わなかっただろう。

 私が返事をすると、一瞬花のような笑顔を見せた。すぐに消えてしまったけれど。ああ、不動くんってこんな風に笑うんだ。思わずきゅんとして、気づけば私のほっぺたも不動くんとおそろいのまっかなりんごの赤になっていた。

 これが、私たちの馴れ初め。今思い出してもきらきらとした良い思い出。あの時は中学2年生だったから、3年も前の事になるんだなあ。すっかり歳をとってしまった気になって、隣でテレビに夢中になっている不動くんを見た。テレビの色が変わるたびに不動くんの鼻の頭も少しずつ色を変えてみせた。不動くんはずっと変わらない。しいて変わった箇所を上げるとすれば、短く伸びた後ろ髪。前髪と同じで少しくせのついた髪の毛が、くりんって。中学生のころにはなかった髪の毛が、今はある。でも、本当に、それ以外は何も。私が一年かけて見つけた癖もちゃんとそのまま。

 私が一番最初に見つけたのは、不動くんがいらいらしている時の癖。付き合いたての頃はお互いがお互いをよく理解しきれていなくて、よく怒らせてしまったのだ。そのたびにやっているのだから、間違いないだろう。不動くんはいらいらすると右の耳たぶを触る。だから高校生になって開けられたピアスの穴も、右には開けられていなかった。……いや、はじめは両方開けていた。でも右耳をよく弄って、開けたての頃にピアスに触れると穴が痛むからって、右だけ取っちゃったんだ。私は常々こう思う。さわる耳が左じゃなくてよかったね、って。

 そしてもう一つ、不動くんが照れてるときの癖。不動くんは照れると右斜め下に視線をやって、両手を所在なさ気にポケットへつっこむ。一見なんでもないような、よくありそうな癖だけれど、そうであればあるほどいいの。私がその癖を見つけた価値(って言ったら変だけど)が上がるから。彼女である私じゃないと見つけられない特別。

 たったそれだけだけど、私はつかの間の優越感のようなものに浸ることが出来た。不動くんは私の癖、知ってるのかな。

「不動くん」

 にっこり微笑んでみた。ほら、また目線が下に下がった。私だけのとくべつ。これからもまだ、知らない不動くんの癖とか、ツボとかが見つかるんだろう。そしてそのたびに私は、小さな幸せの泉に浸ってこころのピンクを充電するんだ。なんて幸せな日々。これからも不動くんと過ごしていけたらいいなって思う。

 私は気づく。私は確実に不動くんに惚れてしまったらしい。あの始まりの瞬間よりずっと、不動くんが大好き。

 なーんて、ね。

あなたと恋して知ったこと



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不動×冬花企画、puzzle様へ提出させていただきました。

101210 佐倉

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