稲妻 | ナノ
「俺はいつ死ぬのかな」
「は?」
思わず口にくわえていた飴を落としそうになった。それ程に唐突すぎる言葉だったのだ。何? ヒロト死ぬの。
知らないよ、そんなの。そう言ってやればヒロトはそうだよねえ、と笑って、俺の持っている飴の袋に手を伸ばした。暫くごそごそと漁って、取り出したのはメロン味。律儀にいただきます、と言って袋を開けて口の中へほうり込んだ。
「おいし?」
「うん。あ、こっちおいで。髪結んであげるから」
そういえば、先程解けて下ろしっぱなしにしていたのを忘れていた。大人しくヒロトの目の前に座って、髪が結い上げられるのを待つ。ヒロトは絡まってしまった髪の毛を丁寧にほぐして、手際よく頭の上のほうで結わえた。ヒロトに髪を触られるのは好きだ。優しくて気持ちがいいから。
「出来た。赤いゴムにしてみたんだけど」
「ほんとだ」
「俺のモノだ、って印つけたみたいだね」
「何を今更。印なら沢山つけただろ」
ヒロトは俺の言葉に「そうだっけ?」とけらけら笑った。そうだよ、ばか。鎖骨のあたりや太ももなんか、ヒロトによって色々な場所につけられた『印』は、赤く自分の存在を主張している。絆創膏貼ったら目立つんだぞ、これ。ぎりぎり隠れるところだからいいものを、どう考えてもバレバレなところにつけられたときは本当に殺してやろうかと思った。
「ねえ、みて。溶けた」
「何が」
俺の思考を遮るかのように喋りだしたヒロトは、ぺ、と舌を出して溶けて小さくなった飴を見せつけてきた。既に飴は半分ほどの大きさになっている。
「ほんとだ。早くない?」
「そうかな? …ね、緑川が溶けたみたいだね」
恐らくメロン味の緑色が俺の髪の色に似ていたからそう言ったのだろう。
「こうやって、俺の所為で溶けて死んじゃえばいいのにね」
「俺に死ねと」
「まさか。死ぬときは、だよ」
「……そうだな」
じゃあヒロトも、俺の所為で溶けて死んじゃえよ。勿論「死ぬときは」。
…………………………
10〜11月の拍手文でした。