稲妻 | ナノ




※学パロ?




 昔から、ずっと一緒だったはずだった。何をするにも一緒で、そりゃ喧嘩をすることだって少なくなかったけど、それでもわたしは晴矢に一番近い位置にいたはずだった。

 だから、怖かった。
 わたしが知らない間に、ほんの少しだけ離れていた間に、どんどん晴矢が遠くなってしまう気がした。(ただクラスが少し違っただけなのに。)いや、遠くなった。晴矢はだれか知らない人と話している。だれか知らない人と遊んで、笑っている。それは悪いことではない。むしろ普通、なのだが。(高校生にもなってずっと一緒に居るなんておかしいし。)それでも、やっぱり、いつも隣に居たやつがいないと寂しい。晴矢のことは嫌いだけど。

 下校の時間も、一人で帰ることが多くなった。もともと友達というものを作りたがらなかったわたしは、晴矢が居なくなった今、一緒に帰る人が居なかったのだ。別に一人が嫌なわけではないけど、寂しくないわけでもない。晴矢は昔から太陽の様な笑みで周りを明るくし、ときにひょうきんな行動で周りのものを笑わせたりしていたためか友達が多かった。だから晴矢は、わたしがいなくなっても構わないのだ。

「風介、教科書貸してくんね」
「また忘れたのか、君は」

 晴矢はよく忘れ物をする。そしてわたしに借りにくる。表面上は呆れたような態度だが、心のなかは例えるならば花畑だ。クラスが離れたって結局はこういう深い底で繋がっているのだろうか。そんな淡い期待を仄かに感じながら、机から教科書を取り出して貸してやった。

「5時限目までには返せよ」
「ああわかってる。もうチャイムなるから行くな。サンキュー、風介」

 2時限、3時限。刻々と時間は刻まれてゆく。早く早くと願うけれど、わたしの願いなんか余所に時間はゆっくりと一秒ずつ確実に進んだ。待っていると遅い、昔晴矢が言っていた。わたしはその時「時間に早いも遅いもあるか」と馬鹿にした(ような気がする)けれど今なら身に染みるようにわかる。晴矢の言っていたことは、確かなのかもしれない。

 4時限目終了のチャイムが鳴って、昼休みになった。学校に来る途中に買ったクリームパンとメロンパンを頬張りながら、晴矢が来るのを待った。ばくばくと大口で食べてしまいたいのを我慢して、少しずつ齧った。晴矢が来たときに、なるべく自然に話せるように、だ。

 しかし待っていても晴矢は来なかった。30分かけて二つのパンを食べたわたしは既に腹一杯になっていて、これ以上なにもすることがなくなった。あと10分もすれば、5時限目が始まってしまう。意を決して晴矢の居るだろうC組へと向かった。

「すまん風介、忘れてた!」
「……いや、構わん」

 晴矢は焦った様子で机から教科書を引き出して、わたしに手渡した。「ほんっとごめん!」一生懸命に謝る晴矢を無下にするわけにもいかず、しかし何も言うことも出来ずに、わたしはそのままその場所から立ち去ってしまった。

「っちょ、風介!!」

 晴矢はおろおろとわたしを引き止めようとしたのだが、わたしはその手を払った。……この態度は酷いかな。でも、晴矢に忘れられていたという事実が悲しかった。仄かに燈った期待は実にあっさりと消えてしまった。晴矢が教室へ戻ったのか、声が聞こえた。

「なあ晴矢ぁ、今の誰」
「……幼なじみだけど」
「あいつ、一回見たことあるけど中々かっこいいよな。なあ、俺らとつるまねぇかな」
「はあ!? 何言ってんだよ。あいつはダメだ」

 げらげらと、下品な笑い声が聞こえた。恐らく晴矢の机の周りに座り込んでいたやつらだろう。あんなやつらが晴矢とつるんでいると思うとぞっとする。それよりも、

『あいつはダメだ』

 晴矢が言った言葉が引っ掛かった。わたしはもう、晴矢がいる世界に入れてすらもらえないのかと、小さな絶望感を感じた。

 もしも晴矢がわたしを忘れてしまうのなら、嫌ってしまうのなら、

 いっそ、溶けてしまえ、と

 そう思った。



∴いっそ溶けてしまえ



 恐らく居眠りの所為で皺くちゃになった教科書のページと、歴史人物の肖像画に描いてあった落書きが、わたしの高ぶった感情を和らげた。

(結局はすべてあいつ、が)



…………………………
南涼というより涼南に近い気がする。

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