稲妻 | ナノ




「鬼道、誕生日おめでとう」
「佐久間? ……ああ、そうか」

 そうだ、今日は俺の誕生日だった。

 昔から、「誕生日」という行事が嫌いだった。自分が歳を取るのを恐れているわけではない。ましてや自分が生まれたことを憎んでいるわけでもない。ただ、嫌いだった。

 金持ちの家に引き取られた所為か、昔から財閥とか、社長とか、そんな人間と関わることがよくあった。俺は鬼道家の跡取りとしてパーティー等に連れ回されることもまた、多々あった。俺は引き取ってもらった身だし、まだ子供だったということもあって父に言われるままに笑顔を振り撒き、媚びを売っていた。幸い(?)当時の俺は人当たりの悪いほうではなかったので、色々な人間に可愛がってもらうようになるまでそう難はなかった。そこで知り合ったその人間(主に女)らが何処でどう知ったのか、毎年俺の誕生日の日に決まってプレゼントを大量に送ってくるのだ。それこそ小さい頃はそのプレゼントの山を素直に喜んでいたし、父や母には「将来は安心ねえ」なんてなぜか褒められていたから、誕生日は喜ぶべき日だと、しっかりそう認識していた。

 小学校4年生の頃からだっただろうか。俺はそのプレゼントの山に嫌気が差しはじめた。物心もついてものをわかるようになると、そのプレゼントがとても高価なものだと気づく。高価なものが嫌なわけではないが、重い。どうしても大きなものをもらってしまった、大切にしなければ、と思ってしまう。それに、もらうたびにお礼の手紙を書いたり、お礼を言いに行かなければならなかった。それが何より苦痛だった。

「今日誕生日なのか、鬼道?」
「ああ、そうだが」
「しまったな。何も用意してねえや」

 俺と佐久間のやり取りを聞いたのか、円堂がひょいと話に割り込んで来た。割り込むとは言うものの、さすが円堂。嫌み一つなかった。円堂は何故か心底困ったような顔をしてううんと小さく唸った。すると不意にぱあ、と笑顔になってごそごそとポケットを探りはじめた。やっぱり円堂の百面相を見ているのは飽きない。ころころと変わる表情はいくつあるのだろうか。きっと百なんてものじゃ足らないのではないか。佐久間はいきなり割り込んで来た円堂に戸惑いを隠せないようだが。

「はい、こんなもんで悪いけど。誕生日おめでとう!」

 手渡されたのは、綺麗な包装紙にくるまれた小さなチョコレート(もしかしたら飴かもしれない)二つだった。赤色と青色があり、不意に自分のマントのことが頭に浮かんだ。だからといって、どうとかではないのだが。

「……ああ、ありがとな」

 決して高価なものではないけれど、俺の中での価値は、今まで誕生日に貰っていたどんなものよりも高かった。小さいが暖かいプレゼントに思わず頬がほころんで、それからじんわりと世界が滲んだ。



…………………………
鬼道さん誕生日ネタ。×じゃないよ+だよ。リハビリ文になっちゃったから、そのうち加筆修正したりすると思います。

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