稲妻 | ナノ




 吹雪が、苦手だった。
 苦手、というよりむしろ嫌いに近いくらい。

 速さだけが自慢だった俺を軽々と追い抜かしていって、俺の存在価値を奪っていった吹雪が。そのうえディフェンスもオフェンスも完璧にこなしてみせる、あいつが、嫌いだった。

 そりゃあ色々問題もあったけれど、イナズマジャパン入りしてからも吹雪は両方をこなすことができているのだ。実力だけが全てであるこの世界では、俺は確実に吹雪の下をいっているんだろうなあなんて、勝手に考えて沈んで、勝手に吹雪を嫌いになったりもした。

 しかしそれは既に過去の話しであり、異なる点はいくつも出てくる。例えば俺は今、吹雪のことを嫌いではないとか。むしろ今の時点では嫌いより好きに近いということ、とか。

 しかし明確に「好きだ」と言うことは出来ない。だってまた何かがあって嫌いになるかもしれないし、現に今も俺は、横を軽やかに走り去っていく吹雪は嫌いなのだから。

 好きな吹雪が俺の中にいるだけで、嫌いな吹雪だって確かに俺の中にいるのだ。

「風丸くん?」
「っ……ああ、吹雪」

 笑ったときに下がる眉とか、低く甘めの声とかは、好きだ。「風丸くんたらあまりにもぼーっとしてるんだから、」にっこりと笑ってそう言う吹雪に思わずごめん、と謝ってしまった。別に俺が何をしたというわけではないのに。あ、ぼーっとしてたんだっけ。

「だからね、ここで僕たちのタイミングが崩れて――」

 吹雪はグラウンドを指さしながらすらすらと説明していく。一通り説明し終わってから「はやく完成するといいね」と、またきれいに笑った。

 俺たちが練習しているのは、二人組で行うシュート技。吹雪はスピードが必要だ、と言ってくれたけれどほんとの所はどうなのだろうか。

 もしかしたら今こうして、練習しても練習しても完成しないのは俺の所為なのかもしれない。俺のスピードが足りない所為かもしれない。タイミングがずれてしまうのも、俺の所為かもしれない。

 考えれば考えるほど悪い方向に考えてしまうのは俺の嫌な癖だ。こうして勝手に自分を追い詰めて、潰れて、また人に迷惑をかけるんだ。いや、既に何度失敗しても練習に付き合ってくれる吹雪に迷惑をかけてしまっているのだが。

次走るために屈伸をしていると、「風丸くんの所為じゃないよ」吹雪がふと呟いた。

「………え」
「風丸くん、また自分を追い詰めようとしてるでしょ。わかるんだからね、僕には」

 慰めるようではなく、まして怒るようでもなく、普段と変わらぬ調子で前を向いたままぽつりぽつりと話し出した。

「風丸くんも知ってるでしょ。アツヤのこと」
「……ああ」
「だからどうこうって話しじゃないけど、自分を責めるのは良くないよ。とくに風丸くんは、そうしてしまう傾向が強いから」
「……」
「一回、足を揃えてグラウンド一周してみよっか」

 にっこりと笑って、早く早くと俺の手を引っ張る。吹雪はよく笑うなあ。それもきれいに。俺には真似できないや。

 笑う吹雪は好きだけど、嫌いだ。
 自分の汚さを、再確認してしまうための鏡になるから。



…………………………
吹風でした。わかりづらいけど吹風でした。吹風でした。大切なことなので三回言いました。

わたしのなかでは吹風はラブラブ〜なイメージはないです。ベタベタしない。

こっそり瑛ちゃんに捧げます

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