稲妻 | ナノ




※風丸女体化
※リュウ=緑川♀




「あ、そうだ」
「え?」
「とりっく…おあ? とりーと! 風丸、お菓子くれっ」

 なんとも英語とは言い難い英語を噛み噛みながらも言い、円堂がにこりと笑いながら右手を差し出してきた。それにしても急だな…私の家に来てもう1時間も経つぞ?

 今日は俗に言うハロウィンというものだ。まあ残念ながら私はハロウィンが何のための行事かは知らないけれど。「trick or treat」…お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ、だっけ、確か。何だか悪戯をするには理不尽な理由だけど、小さい子がやるぶんには可愛いもんなあ。円堂は、その、……うん、可愛い。ダメだな私、彼氏馬鹿かな。

 ちょっと待って、と鞄の中やポーチの中をごそごそと探る。確かこの前コンビニに行ったとき『ハロウィン限定商品!』という謳い文句に惹かれて買っちゃった飴さんがあったはず。かぼちゃ味だかなんだか、色んな味が入ってて結構おいしかったんだ。

 円堂は目をきらきらとさせて私の目の前で正座をして座っている。まるでわんこだ。別にベッドにでも座ってくつろいでもらってても構わないんだけど。ていうか円堂はハロウィンをお菓子を貰える行事と勘違いしているのではないか。

「……あれ?」

 そんなことを考えながら鞄のなかを一通り探し終わった。飴さんが居ない。

 私リュウ達にあげたら喜ぶだろうなって鞄からはださなかったはずなんだけど。学校かどこかに忘れて来たのかもしれない。まぁ無いなら仕方ないかな。

「ごめん円堂、今無いや」
「えー? …そっかぁ」

 酷く残念そうにうなだれるものだから、思わずきゅんと来ちゃったじゃないか。

 居間のほうに煎餅でもなかったかな……。行事的に煎餅でもいいのかは微妙だけど、円堂ならなんでも喜んでくれるだろう。そう思い立って部屋のドアを開けにかかる。

「ちょっと下にないか見てくるよ。あと、ついでに飲み物とか」
「んーん。いいんだ」
「……そうか?」

 まあ円堂がいいって言うなら、とドアノブに伸ばしかけていた手を下げ元の位置に戻った。取りに行く手間も省けたし。

「はい、じゃあ風丸。とりっくおあとりーとって言って」
「え?」

 座った途端に円堂から思わぬ言葉をかけられた。なんで私が言うの、円堂お菓子もってんの。「早く早く」と円堂がやたらと急かすので早口で応えた。

「と…、trick or treat」

 あ、よかった。噛まずに言えた。そして先程の円堂の真似をして右手を開いて突き出してみた。すると円堂は

「よく言えました」

とにっこりと笑った。言えなかったくせに何で上から目線なんだ、まあいいんだけど。

 円堂はごそ、と自分のパーカーのポケットを探ってチョコレートを二つ取り出した。黒猫とカボチャのイラストが描かれたハロウィン用の包装紙で可愛らしくラッピングされている。

「ちょっと溶けちゃってるけど、これでいい?」
「もちろん」

 元々貰う気なんてなかったのだから、溶けていようが溶けていまいがどちらでもいい。見るにこのチョコレートはビターチョコレートだ。円堂にしては珍しいな、いっつもミルクチョコレートなのに。もしかして私が甘いもの苦手だから?

「…かぜ、まる」
「ん? なに」

 円堂がやたらそわそわしている。そんなにチョコレートが食べたいのか。しかしひとついる? と聞いてみたが「えっいやっいいよ!」と全力で否定をするのでそういうわけではないらしい。

 ひとつチョコレートを口に放り込む。ほろ苦い味が咥内に広がった。

「っかぜまる!」

 振り向けば円堂の顔が目の前にあって、頬に唇が優しくちょん、と当たった。え?

「…えんど」
「かっ風丸がお菓子くれなかったから! い、悪戯し……いや無理無理無理俺には無理だ!」
「……円堂? どうしたんだ円堂なにかあったのか!?」


 話を聞けば、どうやら基山とリュウの差し金らしい。未だにキスもまともに出来ていないことに痺れを切らした基山が作戦を練ったのだとか。ダメだな、基山は円堂をちゃんと分かってない……いきなりこんなハードル高いこと要求して出来ると思ったのか?

 とりあえずリュウはいいとして、基山とはよく話さないといけないな。

「……そういうことか」
「ごめんな、風丸」

 しゅん、とまるで子犬のようにしおれた円堂の頭を撫でた。そして円堂の頬にキスをした。

「ゆっくりでいいんだよ、私たちは」
「……風丸顔まっか」
「……円堂もだろ」

 二人目をあわせて笑った。



…………………………
poco a poco = 少しずつ
綴り間違えてたらごめんなさい〜

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