稲妻 | ナノ




「あ、」

 朝。今日もやっと日の暖かさに目が覚めた。イナズマジャパンのジャージに着替え、食堂へ行こうと扉を開けると、そこには基山くんがいた。

 僕は比較的朝に弱いほうだから起きる時間が遅い。逆に(僕の知る限り)とくに朝には弱くない基山くん。その基山くんがまるで今起きたような眠そうな表情で僕の部屋の前を通り過ぎようとしている。……珍しいな、昨日何かあったのかな?

「やあ、吹雪くん。今日も遅かったね」

 ふふふ、と笑いながら基山くんが言った。基山くんの丁寧で柔らかい言葉遣いは、なんだかほっとする。

「朝には弱いんだよ。こんな時期になっちゃうと寒くて余計に布団から出られなくなっちゃう」
「北海道生まれなのに?」
「ずっと居ると、こっちの気温に慣れちゃうから」

 基山くんはそうなんだ、と言って目元を擦る。ぐしぐし、という効果音が一番しっくりくるような擦りかたで、なんだかいつもの大人っぽい雰囲気とのギャップに少しドキリとした。思わず笑みが零れる。

「? どうしたの」

 僕が笑ったことに気づいたのか、きょとんとした顔でそう言った。

「んーん、別に。基山くん、そろそろ食堂行かない?」

 基山くんはどこか納得しない表情のまま、相槌を打った。

 やっとのことで扉の前から離れた僕たちは、食堂までの数分間を歩くことにした。

 今日は暖かいね、あ、どうしたの、鳥がいるよ、ほんとだ、二匹だから恋人同士かな、そうかもね。なんて、他愛もない話を延々と繰り返していた。しかしそんな内容でも十二分に満足してしまうのは、それが基山くんだからなのか。そういえば基山くんは今日なんで遅かったのかなあ。

「今日? ああ、昨日少しだけ夜更かししちゃったんだ。緑川がゲームがクリアできないって俺の部屋に乗り込んでくるもんだから」

 ふふ、と基山くんは思い出し笑いをした。

「そうなんだ。僕も呼んでくれたらよかったのに。僕ゲーム見るの好きなんだから」
「やるぶんには壊滅的だけどね」
「ははは、酷いなあ」

 食堂につくと、すでに皆はご飯を食べ終りそうなところだった。

 僕が遅れてきたことにはさすがに今更驚きはしなかったけれど、基山くんが遅れてきたことには皆驚いていた。そのなかで緑川くんだけが、少し申し訳なさそうに残り少しとなったご飯をつついている。おそらくさっき聞いた昨日のことが原因だろう。

 キャプテンに「珍しいな、ヒロトが遅れるなんて。どうしたんだ?」と聞かれたけど、基山くんはごめんね、とだけ言ってそれ以上は何も言わなかった。

 基山くんも居心地の悪そうな緑川くんに気づいたのか、僕の肩をちょんと叩いて合図をしてきた。

「見て、緑川が」
「そうだね。緑川くんには悪いけど、面白いな」

 顔を見合わせて静かに笑った。今日はいい朝だったから、きっと練習もうまくいくだろうな。

 二人きりの朝食は思ったよりも盛り上がって、結局練習にも少しだけ遅れてしまった。



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緋燈さんに捧ぐ!

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