稲妻 | ナノ
今日の練習も終わり、何もすることがなくなった。カチカチという音が静寂のなかに小さく流れる。風介は部屋のベッドに寝転がり、なんとなく受信メールボックスを眺めていた。
― ― ―
ついこの間のことだ。クララからメールが届いた。「好きな人ができた」と、珍しく絵文字が散りばめられていたりして。そのときは「よかったじゃないか」と軽くあしらったが、あのクララが絵文字、しかも音符のマークを使うなど相当なことだ。もはや恐怖の域に達する。あとから、からかっておけば、と少し後悔した。
そもそも人を好きになる、とはどういうことなのだろうか。わたしにはいまいち理解ができない。そもそも、わたしにはそんな経験が一度として無いのだ。エイリア学園にいたときは「ジェネシス」の称号を奪い合うことに必死だったし、チームメイトの女子だってわたしの目には恋愛対象として映っていなかった。ファイヤードラゴンに入ってからは尚更だ。チームには勿論女子はおらず、好きになる対象は居なかった。居なかった。
…居なかった、はず。
最近つきん、と心臓が痛くなることが多くなった。何かの病気…なのか。わたしは今、突然の自身の変化に戸惑っているところだ。
「風介? 何してんだ」
「っ、……晴矢か」
突然の声に驚いてキョロキョロと部屋を見回すと、声の主は扉の前に立っていた。晴矢だ。扉に凭れている赤は、どこか眠そうにそう言う。背中を向けたまま「別に、関係ないだろう」そう言えば「そうか」と言って頭を掻きながらどこかへ行ってしまった。
カチャン。
扉が閉まる音と同時に、晴矢のために起こしていた体をベッドに倒した。
「……痛い」
全身の血はどくどくと脈打つように流れ、頭に上っていく。そのせいで熱くなった頬を両手で覆った。そして何より
心臓が、いたい
ほう、とため息を吐くとさらにつきん、つきんと心臓が痛んだ。わたしはどうすれば。
とりあえずほてった頬を冷やそうと窓をあけた。つんと冷たい空気が鼻に当たって、徐々に熱は冷めていく。それでもまだ心臓はどくどくとうるさく、いっこうに鳴り止む気配は見受けられなかった。
「これは……――?」
…いや、だめだ。
仮に認めたとしても報われることはないだろう。わたしは男だし、無論あいつだって男なのだ。世間一般には認められないことだろう。
しかしこれが、もし、もしも。俗に言う……コイ…というものならば。
「気づいた途端に、シツレンとは、な……」
とんだお笑いものだ。気づいた途端に「諦める」という選択肢しかないなんてこの世に存在するのだろうか。ほんとに、笑えてくる。
∴だって、初恋は叶わない