稲妻 | ナノ
マモルと今週末に遊ぶ約束をした。遊ぶ、とは言ってもイタリアエリアの紹介をしてほしいと言うから一緒にイタリアエリアを回るだけなのだけれど。
何を着て行こうか。クローゼットの中身を漁る。この間買った新品のスニーカーを履いて、そうだ、パンツはいつも履いているお気に入りのやつにしよう。上はどうしようか。無難にTシャツでもいいけど、ううん、マルコやジャンルカあたりに借りてもいいかな。アンジェロにはさすがにサイズの問題があって借りられないなあ。
マモルはどんな服を着てくるのだろうか。他のジャパンメンバーの私服はちょくちょく見かけるけれど、マモルの私服は見たことがない。当日にもジャージを着てきたら笑いものだね! まあそんなマモルも好きなんだけど。
そこまで考えて、ぼふんとベッドにダイブする。ふかふかのベッドが俺の体を柔らかく受け止めてくれた。アイボリーの毛布ににやけの収まらない顔を埋める。練習の後シャワーを浴びずにうっかり寝てしまったりしてしまって、汗臭さも感じる毛布はお世辞にもいいにおいとは言えなかった。
― ― ―
「……オ、フィディオ!」
「……ん、んーっ…?」
うっすらと目を開けると、そこには見覚えのあるくりくりの赤毛少年――もといマルコがいた。
マルコはやっと起きた、とベッドに膝立ちだった状態から軽やかに床へと降りた。
あのまま俺は寝てしまったようだ。あれから恐らく二時間は経っているだろう。時計を見るともう短針は十一を指している。
「お風呂、空いたから入りなよ。お湯冷めちゃうから早めにね?」
「ああ、ありがとう。…ねえマルコ」
「ん、なに?」
「もしもデートをするとしたらどんな服を着ていく? マルコはセンス良いから聞いてみたくてさ」
マルコはううん、と唸って「このパンツならこれでも良くないかな?」とクローゼットから一枚のTシャツとパーカーを取り出した。うん、やっぱりマルコに言ってみて正解だったな。色の合わせかたのセンスが半端じゃないや。
「ありがとう、マルコ!」
「どういたしまして」
「これで明日、変に心配せずに遊びに行くことができるよ。ありがとう」
「いいっていいって。……エンドウと遊びに行くんでしょ?」
「ああ! やっと約束を取り付けられたんだ。マモルはいつも予定がぎちぎちでね。まあそんなところもマモルのいいところなんだけど」
ふふ、と笑ってみせるとそれに合わせたようにマルコも笑みを浮かべた。「よかったじゃない、楽しんできなよ」それだけ言ってマルコは部屋を出て行った。あれ? 少し悲しそうな顔をしていたのは気のせいだろうか。
マルコが出ていくのとほぼ同時に、入れ代わるようにジャンルカが入って来た。
「やあジャンルカ。お風呂なら今から入」
「……フィディオ、気づいていないのか?」
「? …何をだい?」
意味がわからないまま返答をすればジャンルカは頭を抱えてため息をはいた。だって意味がわからないんだ、仕方がないだろう?
「泣かせておいて、気づかないとは。…なんて鈍感な、いや、『恋は盲目』ってやつかい?」
「え、ジャンルカ。待って、意味がわからないんだけど」
「まあいいさ、マルコは俺のもの。……そして世界中の女の子も俺のものさ!」
「はは、意味のわからないことを言い出したと思ったら……相変わらずジャンルカはジャンルカだなあ」
「お褒めの言葉ありがとうございマース」
「褒めてないよ」
ジャンルカはくるりと背を向けて「早く風呂に入れよ」と言ってすたすたと出て行ってしまった。うん、だからお風呂には入るって。
マルコの表情の意味も、ジャンルカの言葉の意味もわからぬまま時計の針はてっぺんを越えていた。
あ、もう『明日』だ。早く寝ないとマモルとの待ち合わせの時間に遅れちゃう。その前にお風呂入んなきゃなあ。
…………………………
円堂←フィディオ←マルコ←ジャンルカみたいな。でもマルコとジャンルカだったらジャンマルよりマルジャン派です。何を言ってるんだ私。