稲妻 | ナノ




 どっかの国に囚人を鏡の前に立たせて、「お前は誰だ」って自分に向かって言わせ続ける拷問がある。そうするとわけがわからなくなって、発狂してしまうんだとか。これは聞いた話だから真実かどうかは解らないのだが。

 ならば、ええと。この状況は何だ。目の前に俺そっくりの人間が「どうしたの、ぼうっとしちゃってさァ」なんて言っている、この状況は。

「誰だ、お前」
「はァ? わかんねえの?」

 確かに、何度見ようと俺そっくりなのだ。目を擦ってみても瞬きを何度しても。俺独特のモヒカンも、釣り上がった翠色の目も、声も。

「俺はお前だよ」

 違う、違う違うそうじゃない! だって俺は確かにここに居るんだ。お前は誰なんだ。俺じゃない、俺そっくりの誰か。

「違ェよ、だから言ってんじゃん。……俺は、」

 不動明生、だ。そう言ってひゅ、と俺に顔を近づけてきたかと思えばそいつは「丸くなったな、お前」と呟いた。その目は酷く冷たく、瞳の奥が真っ暗で目の前の俺でさえも映したがらないようだった。

 こわい、瞬時にそう思った。お化け屋敷でも、ホラー映画でも、心霊番組にも動じなかったこの俺がだ。ああ、確か子供の頃に借金取りのやつらを見たときのような感情と似ていた。

 自分のことが怖いとは、どうすればいいのだろうか。

 そんな俺には構うことなく、目の前のやつは饒舌に話し続ける。

「なぁんかよく分かんねえけどさァ、最近は鬼道ちゃんとも仲良くやってるみたいだし? チームのメンバー達ともちょっとだけど打ち解けてきたみたいだし。なあ、お前そんなんだったっけ。強いんだよお前は!」

 仲良くなんかないさ、打ち解けてもねェし。俺はずっと俺のままだ。変わったとすれば、あの円堂守とかいうキャプテンの所為、あのチームの所為だ。……優しすぎんだよ、あいつらはさァ。

「お前は望んでたんだろ」

 ああ、そうかもしんねェな。だって、だって俺は。

「俺はさァ、誰にも従わずに、心を開かずに、一人で! やって来てんだよ、俺は! なのにお前は、なんでっ………」

 よく見れば、そいつは真帝国のユニフォームを身につけている。ああ、これは俺が……だったときの。



…………………………
短い!真帝国の不動と今の不動。そしてアトガキも短い。お粗末!

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