稲妻 | ナノ




「あ、…やば」

 今日は風丸と花火大会に行く約束があったんだった。前々からポスターを見て行きたいなあ、と思っていた割りと規模の大きな花火大会だ。風丸に行かないか、と誘われたときは快く了承した。

 集合時間を決めたのは俺のほうなのに、遅れてしまってはしめしがつかない。でも風丸は真面目だから、5分前にはもう来るんだろうな。

 なるべく急いで準備をして家を出た。下駄のかろんかろんという音を響かせながら、慣れない足元に戸惑いながらも走った。

― ― ―


 案の定、風丸は俺よりはやく集合場所についていた。

「ごめん、遅くなっちゃって…」
「ははっ、いいよいいよ。それより速く行こう。そろそろ始まるみたいだし」

 風丸も今日は浴衣を着ている。きれいに染め上げられた浴衣の色が、風丸の白い肌と、さらさらと流れる空色の髪によく映えている。俺も浴衣を着てはいるが、風丸のようにきれいに着こなせていない気がする。まあ風丸は元がいいから仕方ないような気もするが。

「リュウジ、タコ焼き食おうぜ」
「うん、食べよ食べよー。……あ、やっぱり俺焼きそばにしよ」
「ん?」
「だから半分こにしようよ。だったら一石二鳥だろ?」

 風丸はうん、そうだな、と言った。そしてじゃあ後で金魚すくいのそばに集合な、と別れた。

 焼きそばの売ってある屋台は幸いにも金魚すくいのすぐそばにあってすぐに買うことができた。200円払って焼きそばひとつと割り箸を二本貰う。

 金魚すくいの屋台はやはり少しだけど混んでいた。これじゃあ風丸が来ても見つけてもらえないかもなあ。肩と肩がぶつかって、すみませんと謝る。うう、これだから人が多いのは苦手なんだ。仕方なく近くにあった植木の花壇に腰をおろした。向こうが気づかなくても、こっちが気づけばいいわけだし。

 目の前を通り過ぎる人の涙をぼうっと眺めながら風丸を待っている。5分、10分とゆっくり時間が流れていった。おかしいな、ときょろきょろ辺りを見回してみる。いくらなんでも遅すぎやしないか? あ、風丸美人だからさらわれてたり、とか。……いや、風丸に限ってそれはないだろう。大丈夫、あと5分もすれば。

 ざわ、ざわ。もうすぐ花火の打ち上げが始まるようで、ぞろぞろと人の波が同じ方向へと流れ出した。やばい、な。

「かっ……風丸!」

 いい加減不安になり、思わず立ち上がって風丸の名前を叫んだ。待たされるのは、待つのは、きらいだ。

「かぜっ……」
「リュウジ」

 突然聞こえた後ろからの声に振り向くと、風丸がいた。

「……あれ?」
「ごめんな。思ったより屋台混んでて……捜しただろ、リュウジ」

 苦笑いで話す風丸の手には約束のタコ焼きがあった。俺の手にある焼きそばはすっかり冷えてしまっている。ああ、もう、心配したんだからな!

「リュウ……」
「……ばか、ばかぜまる」
「ははっ、ばかぜまるってなんだよ」

 風丸の肩にぽすんと頭を置いてぶつぶつ言ってみれば、やはり風丸は得意の苦笑い。背中を「泣くな」と撫でられる。泣いてなんかないし泣くつもりもないよ。ただちょっと心配になっただけだ。

「ほら、花火始まるから行くぞ」
「ばかぜまる」
「わかったから」

 ひゅう、という高い音が耳に届く。あっと思ったときには、ぱあんと綺麗な光の華が頭上に咲いていた。

 綺麗、だな。思わず嘆息をはいた。遠くから聞こえるきゃあきゃあという甲高い声は聞こえない事として、となりにいる風丸を見る。風丸もどんどん打ち上げられる大きな華に見惚れているようで、視線を上に向けたまま目をきらきらと輝かせている。

「すっ…凄いなリュウジ! こんなに大きな花火を見たのは初めてかもしれない」

 ぱあっと笑顔を見せて子供のように喜ぶ風丸はとても魅力的だった。大人っぽい大人っぽいと思っていたけど、こんな子供らしいところもあるんだ。なんか特別だなあ。

 はっと何かを思ったのか、風丸は顔を手で覆って、俯いた。

「ご……ごめん」
「え、なにが?」
「恥ずかしいところを見せてしまった」
「あははっ、いいよいいよ! 珍しくて新鮮だったし。それに可愛かったしね」

 にっこりと笑って言ってみれば、風丸は少しむっとして、恥ずかしいからやめろと呟いた。

 それから暫く打ち上げられる花火を見つめていたら、気づかない間に風丸と俺の手が繋がっていた。あ、と思わず口にだす。

「……風丸、手」
「気にするな」
「……うん」

 綺麗な花火と、暖かい掌と、風丸と。それから、優しい笑顔。

 俺今幸せ、なのかも。



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ポニテ組が可愛くてしゃあないです。夏は色々なネタが溢れていて楽しいですね!

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