短編 | ナノ


君の事を例えるならば、花と花とを気まぐれに行き来をする、蝶々のような。


「なあ、陽介。これ食う?」
「ん? ああ」
 ひょいと俺の視界の中にクッキーが現れた。それを頬杖をついていない方の手で受けとり、口の中へ放り込む。甘い味が口の中に広がった。「どう? うまい?」聞いてくる晃に「うん、うまい」と返すと、目の前に大きな向日葵が咲いた。嗚呼どうしてこいつは、こんなにも可愛いのだろうか。

「これ、俺が作ったんだ。女みたいだって、他のやつらには笑われたけど」

 だから形が汚かったんだな、それでも俺はいいけど。「陽介はこういうの笑わねえでくれるから、好き」こんな何気ない一言ひとことが俺の心の中を掻き乱しているって、晃、お前知ってっか?

 俺は晃が好きだ。
 友達的な意味でも、その、恋的な意味でもだ。ホモだって? ああ認めてやるさ。俺はホモだ。だって好きなんだから仕方ないだろう? 別に女が嫌いな訳じゃない。以前にも女と付き合った事だってあるし、恋人同士でやることもやった。それと同じなんだ。“気がついたら好きになってた”。少女漫画なんかではよくある話しじゃねえか。普通に女を好きになるように、俺の心は極々自然に、俺を含む誰にも気づかれないようにそっと揺れ動いていた。
 気づいた時には、“普通”とは違って罪悪感を初めに覚えたさ。俺は幼なじみをこんな目で見てたんだ、ってな。でもな、ダメなんだ。解るだろう、好きなんだよ。友情を越えた恋愛感情の意味で。やがて俺は罪悪感を心の隅に追いやった。好きなんだから仕方ない、と開き直って。気づかれないように、気をつけて過ごしていれば晃の傍に居れるんだから。だから当分の間は気づかれないよう、そっと好きでいることにしよう。

「なあ陽介、聞いてんのー?」
「え、あ、聞いてない。ごめん」
「……まあ、良いけどさ。そう、それでな……――」

 晃の声が、音が、なにか呪文のように俺の耳に染み渡っていく。心地好い音の響きが耳から頭へ伝わり、そこで響き渡る。適当に相槌を打ちながら話を聴いていたら、ピタリ、声が止んだ。
 どうやら誰かが晃の事を呼んだらしい。晃は「悪い、行ってくるね」そう言って呼ばれた方へと急いだ。裏庭だってよ、告られんじゃねーの、うっせえなあひがむんじゃねえよ、別にひがんでなんかねえし! どうやら晃の事を呼んだのは女子らしい。ふーん、晃告られるんだ。微妙な心境。出口をくぐる前に晃がこちらをもう一度向いて「すぐ戻るからね」と言った。


 そしてまた俺の視界から消えた。
 ひらひらとひらひらと。転々と、人と人との間を動き回る晃は、まるで花と花とを飛び回る蝶々のようだと、思った。

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