「しょう…、どうしよ、またフられちった……」
「は、え、…また? 懲りないよね龍も」
幼なじみの龍はこうしてフラれる度に私のもとへ来て、愚痴る。
基本的に昔から遊び人な龍は、真剣に告白して付き合う、なんて事は滅多にしない。いつも何となく声をかけて、何となく遊んで、それから手をふってサヨウナラだ。
その龍が、真剣に悩んで告白してフラれては私のもとへ来る。一人の女にここまで執着するのは私の知る限り初めての事で、正直私も初めの頃は戸惑っていた。
だが次第にそれにも慣れていき、今ではフラれた龍を慰めるのが私の習慣になっていた。
そして今日が通算24回目の慰めの日である。
「…ねえ龍ちゃんよ。そろそろ彼女……――、あれ名前何だっけ?」
「梶原結衣」
「そう、梶原さん。梶原さん、龍の事ウザったくなってんじゃない?」
24回も告白されていてウザったくない訳がないだろう、そう思い龍の頭を撫でながら言葉を投げ掛ける。
「…大丈夫だもん。ウザったくねえもん、あっさりさっぱり薄しょうゆ味だもん。笑はこってりとんこつな」
「何サラっと私の事侮辱してんの。…いや、まあ、良いんだけどね。あくまで私の個人的意見からのアドバイスだし? 梶原さんと私の考えは違うと思うし。ただ、私は24回だと流石にウザったくなるよ」
個人的意見というか、むしろ世の中の大体の女子高生の意見を代表して言ったようなもんだけど…。まあそこは言わないでおこう。
「やっぱそうかなあ…」
あ、やばい。これはやばいぞ。……龍、泣くかも。
「っあ、でもさ。梶原さんは実は嬉しくて、でも恥ずかしくて思わずふっちゃったとか! だから、ね?」
「…24回も?」
やばい龍が完全に卑屈モードにログインしてしまった。どどどどうするよ私!
「…っうん!そう!梶原さんはもの凄い照れ屋さんなんだよ、俗に言う“ツンデレ”? 今はツンの時期だからね。もうすぐデレ来るから!大丈夫だから!」
なんかツンデレの使い方間違った気がする。
「…そうかな…」
少し瞳に光が戻ったのを見て、全力で頷いた。
「…そうかな…、そう……、そうだよな!うん、梶原さん照れ屋さんぽいもんな。よっしゃ! “デレぬならデレさせてみせよう梶原さん”だな! 俺頑張るわ」
「おうよ! 頑張れ龍、応援してるよっ」
あれ、今の名言じゃね? などと呟きながら家へと帰る龍の背中を見送ってからため息を吐く。
―――私、龍よりバカだ。多分。
「…今のは名言じゃなくて迷言だろ」
もう一度、ため息を吐いた。
*「…ょうっ、笑っ!」
「うひょわあ!?」
自分でもこれはないだろうと思う程の叫び声をあげ、振り向くと予想通り龍が居た。
これだけ頬を上気させ息をあげてまで私のもとへ来たと言う事で、なんの話だかはすぐに分かったが…。
「どうしたの、龍」
一応問うてあげた。
「しょうっあゲホッレ期来ウエっゴホて、じわっはあっゲホ、ケホ言じっケホッゲホッ」
息が整わないまま喋るのでなんのこっちゃである。
そのまま喋らせても面白かったのだが、可哀相なので「息整えてからでいいよ」と声を掛けた。
息が整ったところでもう一度。
「結衣ちゃん遂にデレた! デレさせることが出来たんだ、俺! ありがとな、笑!」
あ、“梶原さん”から“結衣ちゃん”に変わってる。
「俺、結衣ちゃんと付き合う事になった!」
満面の笑みで伝えられた。
「良かったじゃん、龍! 遂に報われたじゃんっ。凄いよ龍、大切にしなよっ」
「おう、勿論! …ありがとな笑、本当にありがとう」
潤んだ瞳で有難うと伝えられて、少し戸惑ってしまった。
「笑のお陰だよ。ずっと良い友達で居てくれな」
「…当たり前じゃん!」
手を振りながら彼女のもとへ駆けて行く龍の背中を見送ってから帰路についた。
歩きながらぼんやりと考える。
有難う、という言葉も時に残酷なものになるという事を初めて知った。
―――私が龍の事を好きだって気付きもせずに。
「はあーあ、」
今月に入って、何度か目のため息を吐いた。そして、
「…残酷だ」
自分を笑った。
>>いい友達ずっと友達、残酷すぎて笑えるword by 確かに恋だった