短編 | ナノ


「嫌い、大っ嫌い」
「うん」
「死んじゃえ」
「うん」

 幼なじみ、…なんて言われるのも嫌なんだろうなあ。この子は小さいころからの馴染みで、千奈美ちゃんという。

 わたしたちは、幼なじみは仲がいいなんて誰が決めたの、都市伝説なの? と言わんばかりに仲が悪い。365日ある一年間のなかで、喧嘩をしなかった日なんて片手で数えても指が余ってしまうほどだろう。

 でも、千奈美ちゃんは私のことを嫌いだっていうけど、わたしは嫌いじゃない。

 だって幼なじみだし、小さい頃からなんだかんだ言いながらずっと一緒だし。ほら、「喧嘩するほど仲がいい」って言うでしょう。わたし、あれ信じてるから。

 喧嘩なんて心を開いてる人とじゃないと出来ないと思う。ていうかわたし、あんまり心開いてないと話すのも嫌だし。心開いてるからこそ、思ったこと言い合えるんだよね?

 いつだったか、クラスメイトに

「千奈美ちゃんと幼なじみなんだよね?」

と、聞かれたことがある。うんそうだよ、なんで? と聞けば「喧嘩ばっかりだし、一緒に帰らないし、千奈美ちゃんなんて嫌いだって言ってるし」なんて言われた。

 いつも一緒にいるのが幼なじみだなんて知らなかった。それが実際本当の情報なのかはわからなかったし、特に仲もよくなかったから信じなかったけれど。

 というか、なんだかんだ言っているけれど、結局は千奈美ちゃんのことがすきなのだ。あ、恋愛感情じゃなくて、友達として、人間としてだ。千奈美ちゃんのことがすきだから、大切にしたい。いちばん、いちばん、大切にしたいのだ。嫌いになんてなるわけない。私のなかでいちばんだいすきなのだから。

 だから「嫌い」なんて言われても、「うん」って返せるし、ましてや「わたしも嫌い」だなんて言わないし思わない。

 最近はそのわたしの態度に千奈美ちゃんも焦ってきているようで、喧嘩のときの言葉も時たま吃ったりする。やっと伝わってきてくれたんだなあ、嬉しいな。

 そしてわたしたちはまた、喧嘩をするのだ。しかし今日の喧嘩は少しだけ違った。

「……嫌い」
「うん」
「……なっ、んで」
「……」
「なんでこんなに言ってるのに、嫌いになんないの!? ねえ、おかしいんじゃないの、ゆうきっ……」
「……千奈美ちゃん、久しぶりに名前呼んでくれたね」
「え、…」
「わたし今日誕生日なの、……嬉しいな。5年振り?」
「ゆう、き…」
「ふふ、いいの、千奈美ちゃんは。わたしのこと、嫌いなままでいいんだよ。ゆっくりゆっくり、すきになってくれればいいの」
「……ゆうき、由稀」
「ん? なあに、千奈美ちゃん」
「あたし、嘘だよ。由稀のこと嫌いじゃないの、嫌いじゃ、ない」
「……千奈美ちゃん」
「ごめんね、由稀。ごめん」

 ぎゅう、と抱きしめられる。わたしの肩で泣く千奈美ちゃんは凄く凄くかわいかった。

「ごめ、んね、由稀っ……」
「いいの、千奈美ちゃん、ありがとう」
「…ゆうき……」
「これからはずっと、ずうっと一緒だよ」
「うん、うん……。……お誕生日おめでとう、由稀」
「……ありがとう、」

 あーあ、最高のプレゼントだよ、千奈美ちゃん。



…………………………
(アトガキ)一見幸せそうな、ふわふわした光景。そのうしろにある気味の悪さが伝われば嬉しいです。私の文章で伝わるのかな。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -