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なんて平和な非日常

※過去からグランがやってきた




ハードな練習が終わり、今日も一日があっという間に終わろうとしていた。時計を見ると針は丁度九時を指している。時間が過ぎるのは本当にあっという間だった。それからみんな相当疲れている様子である。いつもなら夕食を食べ終えるたらそのまま暫く食堂で駄弁っているはずなのだが、綱海や立向居それから円堂たちも流石に今日の練習は疲れが身体にきたようで、部屋に戻って各自思い思いの休息を取っている。さて、そろそろ俺も部屋に戻るとしよう。この汗でべたついた身体を一刻も早く洗い流したい…って……んん?


「なんだ、この音」


音が鳴り響く。まるで地を慣らすような音が足の裏から振動する。食堂の出口へ向かって独りで歩いていた俺の正面、廊下の奥のほうから慌しい足音が近づいてきた。


「ひぃぃっ……助けて!助けて!誰かぁぁ!」
「緑川?」
「!?風丸ううううう!」
「うっわあああああっ!」


助かったといったように俺をみつけた緑川は顔を輝かせた。緑色のポニーテールを揺らしながら、全力疾走で駆けてきた緑川はそのまま勢いにまかせ思いっきり飛びついてきた。転んだ、それはもう盛大にだ。全体重が衝撃となって俺に向かってきたのだ。尻と背中が痛い。俺の上に跨る緑川は黒い大きな目に涙を浮かべ助けてくれ助けてくれと連呼しているんだが…一体何事だろうか。


「どうしたんだ?廊下を走るとまた久遠監督に怒られるぞ」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!助けてくれよ風丸うううう!」
「緑川、何があったんだ?落ち着いて話せ」

「緑川!いた!見つけたぞ緑川!」
「逃げても見つかるのは時間の問題だよ、レーゼ。」
「ひぃぃ!きたぁぁぁ!」


現れたのは二人の少年。どちらも見覚えがあった。真っ赤な髪に碧色の瞳、そして透き通るような色白の肌を持った少年がふたり。ふたりを見て同時に俺は緑川が逃げていた理由を理解する。


「………緑川」
「……なに?」
「もてる男は辛いな」
「嫌味だよね?嫌味なんだよね?喧嘩を売ってるんだよね!いいさ買ってやる!その喧嘩、高値で買い取ってやるよ!」


ぎゃあぎゃあと忙しなく叫ぶ緑川のすぐそば、すなわち俺のすぐそばまで少年たちはゆっくりとした足取りで歩み寄ってくる。それはもう不気味なオーラを漂わせながら、ゆっくりと。取り敢えずこのままじゃ俺にも被害が生じるだろうと判断した。俺の上に跨っている緑川をどかすと俺は立ち上がった。だがまた俺の背後に隠れる緑川。コイツは…!


「緑川ぁぁ」
「レーゼぇぇ」
「ひ!ひぃぃぃ!寄るな近づくなぁぁ!この変態共!うわあああ助けて神様仏様風丸様ぁぁぁ!」


あっダメだ…また我を見失っている。錯乱して暴れる緑川。だが、多分少年ふたりはそんな緑川の反応を見て楽しんでいるだけだから、変な言動をしたところでこいつらが喜ぶだけだぞ。緑川は弄くると面白い反応するもんなぁ。俺は小さく溜息を吐くと、今の素直な気持ちを吐き出した。


「自業自得だ緑川、お前が二股なんか掛けるから」
「ちょ!違う違う!二股じゃないって。俺そんなに尻軽じゃないから。おれ、おれ」


べそべそ泣きじゃくる緑川は本当に面白かった。そんな彼のすぐ真っ正面、俺のすぐそばでそっくり…というか同一人物であるふたりに視線を向ける。ひとりは基山ヒロト。俺と同じイナズマジャパンのメンバーひとり。頼りになるが何を考えているかわからない人物。それでもうひとりのほうはというと浮世離れした少年であった。俺達が昔対峙していた。相対する側にいた際に基山ヒロトが作っていた仮の姿である。そんなふたりの肌は起伏がなくて人間味がない。色が白いのだ。それでも性格や口調は流石同一人物といったところだろうか。


「ねぇ、いい加減にしてよ俺。緑川が怯えてるじゃないか」
「何言ってるんだい?俺じゃなくて君に対して怯えているんじゃないの?そんなこともわからないんだね未来の俺は」
「うるさい宇宙人。爆発しろ」
「あっはは!本当にヒロトは面白いこと言うなぁ!」
「なんだかんだ言って、なんか仲良さそうだよな」
『 な に が ? 』


おおっ…まさかシンクロまで…流石同一人物。ふたりの少年は俺に視線を向けた。俺は抱きつき、しがみついてくる緑川を多少鬱陶しく思いながらも、何か変なことに巻き込まれたなあと溜息を吐く。もっと早く部屋に戻るべきだったなと今更ながら後悔した。そんな中、基山ヒロトもといグランは肩をすくめクツクツと目を糸のように細めて心底楽しそうに嗤った。相変わらず不気味に笑うやつだ。


「まぁね、そりゃ仲良いよ?仲良くもするさ、俺は基山ヒロトと同一人物なわけなんだしね。そのせいか今ではヒロトのことを愛おしく思えるし、興味もあるし…ね?」
「俺の顔で気色の悪いこと言わないでくれるかな宇宙人…!」
「何度でも言ってあげるよ、愛おしいよヒロト」
「りゅう!せい!ブレードォォ!」


もの凄い勢いでボールが飛んでいく。それを笑顔で受け止めるグラン・それを見てさらにぷるぷる震えているヒロト。なんというか、非常に異様な光景だった。というかグランは一体どうやって過去から未来であるこの世界にやってきたのだろうか。謎だ。全てにおいて謎である。つうか、エイリアンと戦う時点で謎ばかりだったから正直こんなの謎でもなんでもないけどな。ああこの生活してから耐性ついたなぁ俺。


「大丈夫か?緑川?」


俺はいつの間にか肩車していた、この事件の中心にいるはずの少年を見上げる。彼も疲れきったといったご様子で、ぐったりと項垂れていた。よいしょ、そこでようやく緑川を降ろして、飢えた野獣の如く口論をしているふたりの少年の傍へ置いてやった。悲鳴をあげ、助けを求める緑川からゆっくりと遠ざかり、申し訳ないが俺は手をふりながら去っていく。いちおう励ましの言葉を口にしつつ慈悲の念をこめて。


「じゃあ、がんばれよ」
「ハァアア?!がんばれじゃないよ!ちょ、ちょっと…この状況をなんとかしてってばぁ!風丸!風丸うううう!ううう風丸の薄情者ぉぉおおお!」



なんて平和な非日常



…………………………
お…大山…さん…!
ヒャッハーァありがとうございました!わたしなんぞのためにわざわざ大山さんの労力を削って…わたし大山さんのためなら…空も飛べます…!誰も得しないけど

本当にありがとうございました!!りゅう!せい!ブレードォォ!


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