歌い終わった桃たちと別れ,響と麗は並んで川辺の菜園を目指していた。

目当ての木の実を見つけて摘み歩く途中,聴こえてきた小さな歌声に耳を澄ます。

ぽつりぽつりと聴こえてくるその旋律は,先程まで桃が歌っていた歌だ。

思わず動きを止めてその声の主を見ていると、振り向いた彼女と視線が合った。



「桃がよく歌ってるから、覚えちゃった」



云い訳のようにそう云って、麗は小さく肩を竦めてみせた。



「続きは?」

「歌は得意じゃないもの」



それきり止んでしまった歌の続きを促せば、苦笑しながらの答えが返ってくる。



「そんなことないと思うけど」



そう告げたのは、全くの本心であった。

聴こえてきた旋律は微かであったが、未だに響の耳に残って軽やかな風を伝える。

それ故に彼女の言葉に驚いたのだが、どうやら麗は世辞と受け取ったらしい。



「桃の歌聴いたばかりだし、ハードル高すぎるわ」



冗談めかして笑ってみせると、また手元の木の実に意識を戻した。



木々の間を吹き抜ける風が、黙々と木の実を摘むふたりの髪を揺らす。

香る甘いにおいは木の実のものか、それとも彼女から香るものなのか、思わずそちらに視線を向けると、気付いた彼女と視線が合う。



「それより、響が何か歌ってよ」

「俺が?」

「だって、あまり聴いたことないし」

「俺はメイほどいろんな歌を知ってるわけじゃないから」

「じゃあさっきの歌は?」



突然話を振られて断るが尚も云い募られて、響は諦めて小さく息を吐いた。

それを肯定と取ったのか、麗がとたんに笑顔を見せる。



「じゃあ思い出してみるけど、桃のパートは麗が歌ってね」

「下手でもいい?」

「此方こそ、期待に添えるかわからないけど」



そんなやり取りをするうちに照れくさくなるのはいつもお互い様で、顔を見合わせて小さく笑う。

やがて流れ出した歌声はどこか照れくさく、それでいて楽しそうな響きをまとって風に舞った。













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