チョコレートはいかが?









「灰牙、」

「どうかしたのか」



名前を呼ばれて振り返ると、そこにはどこか真剣な面持ちのメイの姿があって、灰牙は寄り掛かっていた木から身体を起こして彼を見た。

その視線の先で、此方に歩いてきたメイが、灰牙の正面へと腰を下ろす。



「やっぱり灰牙もチョコ欲しかった?」

「……誰から、」

「僕からだけど」



一体何事かと思えばそんな問い掛けで、灰牙は思わず溜めていた息を吐いた。

思えば今日はバレンタインデー、主からチョコを貰ったのはつい先程のことである。

しかし、まさか自分のパートナーがそんな行事に興味を示すとは思いもしなかった。

それをそのまま告げると、それはそれで、とか何とか呟いた後、何事か思案するように瞳を閉じる。

そして。



「……やっぱチョコよりこっちの方が嬉しいよね?」



確認するかのように問い掛けながらもしっかりと首に回された腕に、灰牙は呆れた様子を隠さずにメイを見返した。



「……結局こうなるのか、」

「今夜はお好きにしてください、ってことで」

「いつもとどう違うんだ?」

「気分、かなぁ。それともチョコの方がよかった?」



それは意外だと云わんばかりの云い方に返す気力も失って、目の前の頭をぐいと引き寄せる。

唇が触れる直前の距離で、開かれたままの瞳を覗き込むと、焦茶の瞳が僅かに眇められた。

その仕草が気に入って目尻に口付けると、擽ったそうに息をこぼす。



「折角だから貰っておこうか」

「どうぞ召し上がれ」



途端に楽しげに細められる瞳に自身も頬を緩めながら、静かに捧げられた唇を塞いだ。




















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どうしても当日に終わらないバレンタインテキスト。

30分遅刻はセーフということで。





(100214?)


















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