馬と家鴨の一コマ



















「姫生、」



自由時間に訪れた森の中で、鮮やかな朱を見つけて声を掛けた。

振り向いて、此方の姿を確認した姫生が、嬉しそうに目を細める。

纏う穏やかな空気がそうさせるのか、本来なら此処にあるはずのない朱の炎は、不思議と違和感無く森に溶け込んでいた。

一緒に旅をしてきてもう随分と経つが、姫生が声を荒げるところは未だ見たことがない。



「あれ、氷牙だけか。矢澄は?」

「雷たちと出掛けたよ」

「三匹で?」



訝しげに眉を顰る姫生の心情が手にとるようにわかって苦笑する。

いくら危険の少ない森とはいえ、恐いもの知らず、という言葉そのものの雷と一緒なのだ。

心配するなというのは無理な話だ。



「いや、メイたちが一緒だよ」

「それなら安心だな」



納得したように呟く姫生に頷くことで返して、森の奥へと歩き出す。

ごく自然な動作で、姫生も隣に並んで歩き出していた。

さりげない気遣い、というのだろうか。

彼の近くはとても居心地がいい。



「どこまで行くの、」

「昨日通った川だよ。折角だから泳いで来ようと思ってさ」

「それじゃ、俺も行こうかな」

「泳がないだろ?来たって暇なんじゃないか」



そう、居心地はいいのだ……大抵は。



「まぁ泳ぎはしないけど、水辺の涼しさは有り難いかな。それに、氷牙の泳ぎ見てれば全然暇じゃない」



綺麗だよな、思わず見惚れるくらい、なんて眩しい笑顔で続けられてしまえば、それが冗談で云っているわけではないとわかってしまう分、対応に困って眉を顰めるしかない。



「お前さ……」

「ん?」

「いや、何でもない」



自分に素直なのは美徳だが、彼のこの云い回しは、もはや素直という言葉では片付けられないように思う。

恋人ができれば少しは抑えるようになるかとも思ったのだが、残念ながらその予想は外れたようであった。

この分だと恋人の前でもこの調子なのだろうと考えて、会ったことのない彼の想い人に少し同情する。



「……ありがとう」



小さく呟いた言葉はしっかりと彼の耳に届いたようで、目の前でにっこりと笑う姫生に、苦笑することしかできなかった。



























‥‥‥‥‥

バトンで一人称に苦戦しまくってた時の副産物。

違和感あるのは無理矢理一人称にしようとしていた名残です orz



素敵な恋人ができた記念に、とりあえず姫生が書きたかったんだ!(笑)







(090907)



















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