「翼を持つ者、は……ね」
ふいに、今まで話していた自分の言葉を遮るようにして発せられた銅の台詞に、勇士は眉根を寄せてため息をついた。
相変わらずの無表情からは何を読み取ることもできやしないが、どうやら今までの話など全く耳に入っていなかったらしい。
本来なら怒るべきところであるが、あまりにも毎度のことすぎて、そんな気力はとうに失せてしまっていた。
話の途中でうたた寝を始めたときわは、いつの間にかより良い寝場所を求めて岩山の方へと移動していた。
器用に掘られた横穴の奥に、微かに彼の気配を感じる。
彼の勝手さも今に始まったことではなく、これもまた、今更咎める気にはなれなかった。
そんな勇士の方へ視線は向けないまま、銅がゆっくりと言葉を続ける。
「いつだって、あの空に恋い焦がれているんだよ」
そう云ってほう、と漏らされた吐息に含まれる熱に、珍しいこともあるものだと目を見張る。
いつも途切れがちに言葉を紡ぐ銅であったが、勇士やときわの前であれば時折こうして饒舌になることがあった。
しかしそれでも、熱っぽく何かを語る姿を見たことは、そう何回も無いように思う。
「勇士は、ない? そういうの」
「さぁ……わかんねぇな」
彼にとっての空とは自分にとっての水であろうかと考えてみるも、自分にとって水とは常に近くにあるものであって、焦がれる、という言葉は当てはまらないように思えた。
水中でしか生活できない者たちならばわかるのだろうか、しかし、銅は別に空でなくては生活できないわけではない。
むしろ、陸地で羽根を休め、睡眠をとるところは、勇士と大して変わらない。
突き放したような物云いに気を悪くした素振りも見せずに、銅はそうか、と呟いて空を見上げた。
その瞳は確かに恋する者のそれのようで、ふと、他の仲間たちのことを思い出した。
彼らも空に恋い焦がれているのだろうか。
「……そりゃあいつらも報われない」
ふと口をついて出た台詞に、銅は何のことかとしばらく答えあぐねているようであったが、やがてぽつりと口を開いた。
「……それは、仕方のないことだよ」
噛み締めるように呟かれた言葉に、銅の想いの深さを知る。
もし自分が彼らの立場だったら、空に嫉妬さえしかねない。
「それじゃ好きなだけ飛んで来いよ」
「うん、……でも今は」
「ん? あぁ、」
ふと気付けば、森の空気は重たい湿り気に支配されていた。
降りてくる水分を待ち侘びるかのように、地面がじんわりと熱を帯びる。
濡れるのが嫌だからと、銅はときわのいる岩山の方へと行ってしまった。
だんだんと息苦しくなるような湿った空気に、熱に浮かされたような感覚を覚えながら、恋い焦がれる、という言葉を思い出す。
もしかすると今自分は、確かに恋い焦がれているのかもしれない。
いつ落ちてくるとも知れない灰色の雲を眺めながら、勇士はそっと口元に笑みを浮かべた。
雨を待つ。
いっそ狂おしいほどに、
ジョウト組その2。勇士と銅。
何気に連作ぽい。
2009/03/24