悩める昼下がりの一幕







自分の座る木の根元から聞こえてきた盛大な溜め息に、銅は心持ち眉を顰めた。

木の根元に陣取っているのはいい加減付き合いも長い仲間の一人で、主に与えられた名を勇士という。

特に云うべきことも無いと思い沈黙を守っていると、力任せに木の幹が殴られた。

それに合わせて揺れる枝から一度離れて揺れが収まるのを待ちながら、銅は仕方無さそうに呟いた。



「……やめてよ馬鹿力」

「お前が綺麗にこっち無視するからだろうが」



理由くらい聞け、と怒鳴るその理不尽さに思わず肩を竦めると、折角座り直したばかりの木をもう一度揺らすことで抗議してくる。



「あぁ、もう……関わりたくないっていう、この空気が見えないの、」

「お前のその無表情から一体何が伝わるってんだよ」

「理不尽だ……」



そう云うとまた睨まれたので、これ以上揺らされるのは木にも迷惑だと判断して地上へと降りる。

遠慮というものを知らない勇士の隣に腰を下ろして、銅はわざとらしく溜め息を吐いて見せた。

此方のことなど微塵も考えない彼の性格は今に始まったことではないが、それでもここ最近同じ話ばかり聴かされている此方の身にもなって欲しい、と、銅は思う。



「で、今日は……愚痴?それとも、惚気?」

「迷惑そうに云うなよ」

「だって迷惑……、」

「悪かったよ。まぁいいから聴け」



悪かったといいつつも全然悪びれる様子の無い勇士に、銅は心の中で溜め息を吐いた。

それでも、少し前まで勝手気ままに遊び歩いていた彼が一人の相手に悩む様は新鮮で、興味を惹かれないと云えば嘘になる。



「聴くも何も……結局は勇士が欲求不満になりそう、って話じゃないの」

「……お前、いつもぼけっとしてる癖に結構直球で云ってくれるよな」

「違うの、」

「違わないけど」



聞けばそう開き直っては見せるが、欲求不満云々の前に、おそらくは接し方がわからないのだろう。

かつて彼が相手にしてきた奴らとはあまりにも勝手が違いすぎて戸惑っているのだろうということは、用意に察することができた。



「そういう相談なら銀にでもすればいいのに……」

「あいつに相談したところでからかわれて終わりだっての」

「じゃあときわとか……」

「本気かよ。あいつにしてみりゃ贅沢すぎる悩みだろ」

「だからって、」



相談事なら別に相手がいるのではないかと持ちかけてみれば、ことごとく却下されて返答に困る。



「どうせ暇だろ、お前。話ぐらい聴けよ」

「聴いてどうなるの、」

「俺の気が満たされる」

「う、わ。すごい理不尽……」

「黙って聴いてろ」



どうせ端から有益な答えは期待されていないと見て、銅は溜め息を吐いて木の幹に背を預けた。

こうなればただの惚気話、右から左に聞き流すのが得策である。

それでも。



「結局は……幸せなんじゃない、ねぇ」

「何か云ったかよ」

「別に、」



羨ましいな、と銅は思う。

一人の相手をここまで想えることに対してか、それともここまで想われている相手に対してかはわからないが、こうして悩むことのできる関係が、素直に羨ましいと思う。



「……お腹すいた、」

「お前せめて聞いてる振りくらいしろよ」



悩める友人の小言を聞き流しながら、銅は静かに瞳を閉じた。

目が覚めたときまでに、彼の話が終わっていることを祈りながら。

















***



勇士と銅。なんだかんだ仲良しなジョウト組。

ついでにもう一人ときわも加わります。どうしようもなく自分勝手な3人組だな…。



071106


























 
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