花冠にまつわる説話




朝早くからしずくと共に出掛けたメイに頼まれて、鉄はユキを連れて町外れの公園を訪れていた。
ユキの世話役を任されるのはこれが初めてのことではない。
最初こそ警戒する様子を見せたが、敵でないとわかれば、幼子が同族の自分に気を許すのは早かった。

「テツ、これ」

そう云って、ユキが目の前に小さな花を差し出す。


「俺にもくれんの、」

確認しながら手を伸ばせば、大きく首肯した後、握り締めた花を手渡された。
それに礼を云えば、満足したのだろう彼は、また少しはなれたところで器用に花冠を編み始める。
その様子を横目に見ながら、鉄は先程から全く動こうとしない足元の塊へと意識を戻した。

「で、お前は何でここにいるんだよ」
「んー、休憩?」

いつの間にか至極当然のように自分の膝に凭れて横たわっているのは、朝出掛けた筈の仲間の姿で。

「久しぶりに鉄とゆっくりしたいなぁ、と思って」

帰ってきちゃった、と云ってのける銀には、最早溜め息しか出てこない。
ユキを預るたびに繰り返される注意事項の一つに不用意に銀に近付けないこと、という項目が含まれていたような気がするが、未だその約束は守られたことがなかった。
近付けないようにするも何も、毎度あちらからやってくるのだから退けようがない。
いやその前に、仲間から危険物扱いされているこいつもどうなんだ、と思いながら彼の方を窺えば、どことなく恍惚とした表情で座る幼子を眺めていた。
その様子に、つい不穏な発想が脳裏を巡る。

「……喰うなよ?」
「え、なに?」

思わず口に出た台詞に疑問の形で返されて、鉄は己の発想の馬鹿馬鹿しさに頭を振った。
なんでもない、と云えば、特に追究することもなくまた視線を元に戻す。

「メイにあげるんだ、あれ」
「だろうな、」

懸命に花を繋げていく様は傍から見ていても微笑ましいもので、思わず口角が上がるのを感じる。

「テツも貰ったじゃない」
「一本だけどな」

勿論親代わりとして普段からユキと共にいるメイと同等の扱いは期待しないが、ああして頑張っている姿を見せられれば、羨ましいという気持ちは隠しきれない。
と、考えたところで、銀の質問の意図が見えて苦笑する。

「なんだ、羨ましいのかよ」
「……」

返事の代わりに頬を膨らませてみせる銀がおかしくて、鉄は小さく笑いをこぼした。
先程より少し離れた場所へと移動したユキはと云えば、此方のことなど視界に入っていない様子で、黙々と花を摘んでは手元の輪へと加えていく。
それに倣って手元の花を一輪摘み取ると、未だ膝に凭れたままの姿勢の銀の目の前へと落とした。


「ほら、それで我慢しとけって」

意外そうな表情の彼に言葉を添えてやれば、手に取って暫らく眺めた後、此方へと差し出してくる。
その表情がすっかり普段通りに戻っていることに呆れながらもその黄色い花を受け取れば、のそりと身体を起して座り直した。

「ん、頂戴」
「……ほら、」
「じゃなくて頭、」

そう云われてようやく行動の意味を理解して、鉄は仕方なく手元の花を彼の髪へと差し込んだ。
長い髪の上でどうにか場所を得て飾られた花にそっと指で触れて、銀が満足そうに笑む。


「ありがとう」
「どういたしまして」


その様子になんとなく気恥ずかしさを覚えて視線を外せば、丁度ユキが花冠を持って立ち上がるところであった。

「おや、終わったの、」

同じように其方を見た銀の声に頷いて、ユキが此方へと駆け寄ってくる。
その手にしっかりと握られた黄色の花冠を、早く渡したくて仕方ないのだろう、しきりに町の方を伺っている様子に、二人は思わず顔を見合わせた。

「それじゃ、センターに戻って帰りを待とうか」
「もうそろそろ帰ってくる時間だろ」

立ち上がった途端に腕を絡めてくる銀を引き剥がして幼子に手を出せば、空いた方の手でしっかりと握り返してくる。

「……ずるいなぁ」
「ぼやくなよ」

恨めしそうに呟く台詞に呆れつつ彼を見ると、言葉とは裏腹に、表情はユキと同じくらい満足そうなもので。
意外そうに見る鉄に気が付いたのか、銀が意味ありげに口角を上げる。

「今日は思わぬ贈り物を貰ったからね」

あとで皆に自慢するよ、と続けられた言葉に、鉄は己の行動を深く後悔するのだった。








***



鉄銀とユキ。
自慢すると云いつつも、本気でちょっぴり嬉しかったりする銀様はきっと誰にも云わないと思います。
頭に付けっ放しの花の理由を訊かれても、「ひみつ」とか云って通しちゃうんだろうな。
それを近くで鉄が阿呆らしいとか思ってる。

071107

























 
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