▽長文5題

(極×静華)





主の遣いで訪れた街外れの発電所は、想像以上の喧騒でもって静華を招き入れた。
足を踏み入れた瞬間に耳につく機械音に、此処が忘れ去られたまま未だに“生きた”施設だということを知る。
人の訪れなど滅多にない場所である。棲みついたものの気配はそれ故に濃厚で、いくら温室育ちの静華と云えど、自然と身体中の神経が張り詰める。
久方ぶりに訪れる場所である。さてどちらに向かおうかと思案にくれたところで、よく知る大きな気配が近づいてくるのを感じた。
先程まで感じていたざわざわとした息遣いが、波が引くようにさっと潜められる。
畏怖による、静寂。

「戻ったのか」

久しぶりに見るその姿と声に、心臓を強く掴まれたような気がした。
視線でもって奥へと案内しようとする彼を制してその場で用件――しずくの旅の無事としばらく近くに滞在する旨を伝えると、発電所を後にしようと外へ出た。
見送るつもりなのか、この場所の主――極も、隣を歩くようにして共に外へと出る。

「……変わりないか」

建物の外へと出てからふと投げ掛けられた質問に、静華は首を傾げて隣の長身を見上げた。
しずくのことなら先程伝えたはずだがと答えあぐねていると、違う、と呆れたような声が降ってくる。

「お前のことだ」
「あ……、うん、見ての通り」
「そうか」

短い返事に会話はそこで途切れ、居心地の悪い空気が辺りを覆う。
どうするべきかと途方にくれ始めた頃、ようやく極が沈黙を破った。

「このまま帰るのか」
「うん、あまり遅いと心配かけるから」
「送ろう、」

そう云って大きな翼を広げようとする彼を止めようと、慌てて口を開く。

「いいよ、一人で帰れるから……っ」
「今から歩くのは大変だろう」
「大丈夫だよ、」

いつの間にか日は既に傾きかけており、確かに自分の足では日没までに宿地へ戻れるか不安なところではあった。
しかし。

「ただでさえ極は目立つんだから……、それに、こんなの」

まるで自分だけが特別に扱われているかのようで。


「……よくないよ」


……嬉しすぎる、ではないか。




「……そうか」


そう呟いてマントを翻した彼の背中が建物の中へと消えるのを見送って、静華は小さく息を吐いた。







――02.こんな想いには気付かないで下さい、気付くべきではないのです









2009.06.05.