▽物書きさんに贈るバトン

(勇士×翠波)




「翠波、」

いきなり後ろから呼びかけられて振り向くと、上機嫌の勇士が手を振ってこっちを見ていた。
いつも鋭い光を湛えている赤い瞳が、楽しそうに緩められている。
彼は同じ主の元で旅をする仲間で、……恋人だ。
瞳を見ればわかる彼の機嫌に、なんだか俺まで嬉しくなる。
もっとも、銀や銅が云うには、俺といる時の勇士は何もかも緩んでいて、見るに堪えないらしいのだけれど。

「どうかした?」
「しずくが今日はもう休むって云うからさ、」

出かけよう、と云って笑う勇士の一つに結った長い髪を、吹き抜ける風が掬うように揺らす。
手入れしているところなんて見たことがないのに、鮮やかな赤い髪は乱れることなく彼の背に戻った。

「いいけど、どこまで?」
「あんま遠くまで行く時間は無いからな、街歩くか」

勇士は人の街が好きだ。
研究所にいた頃には、博士と一緒に買い物に出掛けることも多かったらしい。
街を歩いて、気が向けばしずくから預かったお金で買い物もする。
こういう時だけは、彼も俺と同じ研究所育ちだということを実感することができた。

「じゃあ行こうよ」

久しぶりの二人きりでの外出に嬉しくなって、彼の先に立って歩き出す。

「翠波、」

再び名前を呼ばれて振り向こうと思った瞬間、後ろから抱き締められて息が詰まった。
身体中で感じる体温に、思考も何もかも、真っ白になって立ち竦む。
心地好い彼のあたたかさが、それだけでなくなったのはいつからだったろうか。
もう付き合い始めてずいぶん経つというのに、恋人という関係にまだ慣れることができない。
……心臓が、五月蝿い。

「あー……かっわいいなぁ、まじで」

固まる俺の頭の上で勇士が何か云った気がするが、聞き取る余裕も聞き返す余裕もなく、ぎゅっと目を瞑った。
と、こめかみの辺りに濡れた感触を覚え、思いっきり身体を引く。
しっかりと回されていた腕は、抵抗なく簡単に外すことができた。

「な、な、なに、急に、」
「いやだって可愛いんだもん、お前」
「……!」

きっと今の俺は、勇士の髪に負けないくらい真っ赤になっているんじゃないだろうか。
火照った頬を少しでも冷まそうと、自分の手の甲を押し当てる。
彼の一言一言は、本当に心臓に悪い。
そう思いながら視線を向けると、勇士は眉を顰めてこっちを見ていた。
意外な表情に困惑して眉根を寄せれば、その思いが伝わったように言葉が返ってくる。

「お前さ、他の奴の前でまでそんな表情すんなよな」

独占欲丸出しのその言葉に、静まりかけていた心臓がまた大きく跳ねて乱れ出す。
声もなく口を開閉させるだけの俺を見て、勇士は満足げに笑ったようだった。



(誰のせいだと、思ってるんだ!)





6.まずは軽く、一人称で相手を会話文織り交ぜつつ説明して下さい





勇士×翠波。
一人称なんて書かないせいでとても苦戦したうわあん

(090801)