▽瑪瑙×ファス(if企画)





(愛鳥週間企画2014)


はじめて他人と会うというのは、大概の場合、ひどく緊張するものである。
自らの意志とは関係なく逸る鼓動に一層落ち着きを失くして、ファスは思わず未狭の後ろに逃げ隠れた。

「ファス、相手に失礼だろう。出て来なさい」

呆れ混じりの未狭の声は勿論聞こえていたが、急に隠れてしまった自分を凝視しているであろう蒼い目を思うと、顔を出す勇気は出そうにない。
……蒼い目?

「悪いな瑪瑙。見ての通り、人見知りなんだ」
「問題ない。突然来て悪かった」

慣れてしまえばどうってことないんだけどね、と自分をフォローする未狭の声に勇気づけられて、もう一度そろりと彼の方を盗み見る。
間違いない。ファスの思い違いでなく、彼の瞳は優しい蒼い光を携えていた。
空の青とも、海の青とも違う、深い翳りを帯びた、綺麗な蒼だ。

「やっと出て来たか」

未狭の声に気付けば随分と身を乗り出してしまっていたようで、ファスは慌てて瑪瑙から目を逸らした。
当然あの瞳は見えなくなってしまったが、今更視線を戻す勇気もなく、つまらない地面に視線を逃す。
必死に揺れる草の葉の数を数えていた所為で、その声に気付くのが少し遅れた。

「珍しいか?」
「……え?」

自分に向けられたものだと気付いて顔を上げれば、またその蒼に惹きつけられる。

「随分と熱心に見詰められたものだと思ったが」
「あ、ごめんなさい。綺麗だったから、つい」
「この地方に君の種族はいないようだからね。ファスも会うのは初めてだろう」
「え?うん」
「そうか」

微かに険を含んだ声音に怒らせたかと不安になるが、未狭とのやり取りを見る限り、何かしらの原因が他にあるのだろうということは察しがついた。
それが何かは分からないが、兎にも角にも、この蒼が、自分は甚く気に入ってしまったようだ。
この蒼が自分を映すということが、嬉しくてたまらないと思うほどには。

「あの、」
「何だ」

いつの間にか、最初の緊張はどこかへ吹き飛んでしまっていた。
代わりに己を支配するのは、興奮と、歓喜。

「また、会いに来てもらえますか?」
「は?」
「あ、やっぱり会いに行きます。会ってください」

驚いたように見開かれる蒼に映る自分に満足して、弾む足取りでその場を去る。
また未狭の呆れたようなため息が聞こえたような気がしたが、それには気付かないふりをして大地を蹴った。











「なんだったんだ、あれは……」
「いい子なんだけど、少し気分にムラがある」
「それにしても随分な変わりようだろう」
「随分と気に入られたようだな。まあ仲良くしてやってくれ」


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愛鳥週間2014
瑪瑙←ファスなのかファス→瑪瑙なのか。
瑪瑙の若干のコンプレックスなんてものともしないただの気分屋です。
未狭曰く慣れればどうってことない。