▽矢絣×鉄(if企画)





(愛鳥週間2014)



思わず動きを止めた矢絣の視線の先で、組み敷いた相手の切れ長の瞳が訝しげに細められた。

「……何だよ、」
「否、なんつーか、こんなあっさり押し倒せると思わなかった」
「そりゃ悪かったな」

じゃあ退けよ、と云って鉄が両腕に力を込めるのを感じて、矢絣は慌てて手首を掴む両手に体重をかけた。

「っふざけんなよ誰が退くか」
「……ったく、面倒だなお前」

心底面倒くさそうに呟きながらも力を抜いたところを見ると、どうやら機嫌を損ねたわけではないらしい。
そのことに少し安堵しながら、矢絣も少しだけ力を緩めた。
何と云っても、この青年はひどく扱いが難しいのだ。
体勢だけ見れば明らかに此方が優位に立っている筈なのに、これ程までに落ち着かない気分になるというのは一体どういうわけなのか。

「殴られなかったってことは、犯っていーんだろ、」

そんな心情を見破らせまいと、わざと乱暴に言葉を紡ぐ。
眉を顰める鉄の表情から何か読み取るほどの余裕はなかったが、真っ直ぐに此方を見据える視線にぞくりと背筋が粟立った。

「調子に乗んなよ。云い訳だけは聞いてやるって意味だ」
「んなもんねぇよっ。馬鹿じゃねーのアンタ」

云い訳という言葉に腹が立って云い返した瞬間、彼の自由な足が動くのが視界に入った。
反射的に翼を広げて跳び退った先で、蹴り上げられた足が風を切る。

「残念だったな。餓鬼に掘られる趣味はない」

ムカつくのは、彼が自分を聞き分けのない子供のように扱うことで。

「餓鬼じゃねーよっ」

それ以上にムカつくのは、そんな彼の態度にさえ一喜一憂してしまう己の心だ。

「くそったれ、」
「何とでも云えよ」

ようやく落ち着きを取り戻した心の隅で、背を向けた彼の手首に残る赤い痕が一生消えなければいいのにと馬鹿なことを考えた。















***

矢絣(ヤガスリ/ファイアロー♂)と鉄。
書きながら改めて自分は鉄に夢を詰め込みすぎだと思いました。
反省はしない。