▽しずくと翠波(と勇士) ある晴れた日の昼下がり。 初めて訪れた研究所の一画で、しずくは珍しくも頭を抱えていた。 目線の先には、まだ幼さの残る1ぴきのポケモンを抱えた勇士の姿がある。 「なぁ、いいだろしずく。連れてこーぜ、」 先程から頑として譲ろうとしない勇士に、しずくは何度目かになるため息をついた。 「駄目だよ、勇士。勝手に連れていけるわけないでしょ」 博士だって困ってるから、と付け足して、彼女は自分の隣で苦笑する白衣の男性に視線を向けた。 世話になっている博士の紹介で訪れた研究所であったが、気さくな態度で自分たちを迎えてくれた彼に迷惑をかけるのは申し訳ない、と、しずくは祈る気持ちで勇士と、彼の腕に抱えられたポケモンに視線を戻す。 元来おとなしい性格なのだろう、ミズゴロウという種族らしいその子は、勇士の腕の中に収まったまま、じっと此方を見つめていた。 まだ幼いながらも利発そうなその瞳に見つめられて、しずくは思わず何も云えなくなる。 「さあて。どうする、お前は」 苦笑したオダマキ博士にそう尋ねられると、黒い瞳が弾かれるように博士の方を向いた。 おそらくは自分に選択権があるとは思っていなかったのだろう。 研究所で共に生まれた仲間たちは、それぞれトレーナーと旅に出たと聞いた。 だとしたら、この子にも同じように世界を見せてあげたい、としずくは思う。 もちろん勇士のように強硬な手段に出る気はないけれど、この子が望むなら、きっと、それは楽しい旅になる。 「……行ってみたい、」 遠慮がちに紡がれた小さな声は、確かにしずくと勇士の耳に届いた。 「よっし、そうこなきゃな。俺がしっかり面倒見てやるよ」 「よろしくね、翠波!」 ある晴れた、旅立ち日和の昼下がりの話。 ------------------------ ホウエンにて、翠波との出会い。 ここから勇士の光源氏計画が始まるわけです← |