▽レグリレ (レグリレ) 「Merry christmas」 久しぶりの訪問者は、一日遅れのサンタクロースでもトナカイでもなく、真っ赤な鼻の幼なじみだった。 MERRY MERRY CHRISTMAS 久しぶりの再会だと云うのに挨拶もそこそこに投げて寄越されたのは、綺麗に包まれた黄色い小箱。 何かと思い包みを開ければ、現れたのはポケモン用の小さな手袋だった。 「それ、ピカチュウのだから」 当然のようにそう云いながら、グリーンはレッドの向かいに胡座を描いて座り込んだ。 主の意を汲んだウインディが、彼の後ろに伏せて包み込むように身体を丸める。 自分へのプレゼントではないのかと視線で訴えれば、 「そんな小さい身体でお前に付き合ってこんなとこいるんだ、可哀相だろ」 という素っ気ない返事。 釈然としないながらも手袋を取り出してピカチュウの手に嵌めてやれば、不思議そうに自分の手を眺めた後、甘えるようにグリーンへと擦り寄って行く。 相変わらず随分な懐きようだとは思うが、こんな雪山に何度もやってくるのは彼ぐらいであったから、当然と云えば当然なのかもしれない。 一通り撫でてもらった後、ピカチュウは結局彼の隣に落ち着くことにしたようであった。 図々しく尻尾で暖をとろうとするピカチュウをそのままに、ウインディは満足そうに目を閉じている。 「あったかそうだね……」 「いいだろ、」 普段は慣れてしまって寒さなど感じないが、ふさふさとした毛並みに埋もれる一人と一匹の様子を見ていれば、羨ましくもなるというもので。 思わず発した言葉は、自慢げな笑みを浮かべたグリーンの一言に一蹴された。 ピカチュウはというと、ちらりと此方に視線を向けたものの、移動する気は無いらしい。 ウインディだけが此方を気遣うように身体を起こしかけたが、グリーンの構うなという手振りに再びその場に寝そべってしまった。 あぁ、ピカチュウは自分よりもあんな心の狭い男を選ぶのか。やはりグリーンからはポケモン用のフェロモンか何かが出ているに違いない。 そんなことを考えながら向かいの様子を眺めていると、心の狭い幼なじみはいきなり大きなため息をついた。 「……お前ね、」 「……?」 「見てるこっちが寒いんだよ、っつか羨ましいならこっち来いっての!」 怒ったようにそう云いながらも最後はまるで早口のようで、思わず呆気に取られて彼を見た。 ほら早く、と思い切り腕を引かれて、気付けば彼の腕の中。 「クリスマスくらい帰ってくるかと思えば連絡も無しで」 抱き込むというよりは縋り付くような体勢で、幼なじみは更に言葉を重ねる。 「一晩待った俺が馬鹿みたいだろうが」 「!」 一日遅れのサンタの理由を知って、レッドは目の前の背中にそっと腕を回した。 云いたいことはたくさんあったが、どれも口に出した瞬間に嘘になってしまいそうで、なかなか言葉にすることができない。 「……メリークリスマス、」 やっとの思いで口にしたのはそんな陳腐な台詞だったけれど。 「……馬鹿か、お前は」 もっと何かないのかと笑うグリーンの顔が見れたのだから、きっと間違いではなかったはずだ。 (ところで、俺の分のプレゼントは?) (俺が来ただけじゃ不満だっての?) =+=+=+=+=+=+= まさかのレグリレ。 仲が良ければどっちでもいいの (091228) |