▽鉄×銀













慣らされてしまったのだ、と、鉄は思う。



「てーつ、どうかした?」

催促するような声に我に返ると、いつの間にか杯を置いた銀が不服そうな表情で此方を覗き込んでいた。

「いや、……何でもない」

その距離の近さに動揺しつつも何気ない風を装って言葉を返すが、どうやらそれに勘付いたのだろう、不服そうな表情が一転、含みのある笑みへと変わる。

「じゃあ、俺のことだけ見てくれる?」

誘うような文句とともに伸ばされた腕に抗わず、引き寄せられるままに唇を寄せれば、朱の色をした瞳が静かに伏せられた。


慣らされてしまったのだ、と、鉄は思う。


長い口付けの合間に漏らされる艶めいた吐息にさえ高揚する気分に内心眉を顰めながらも、回した腕では彼の身体を引き寄せていて。

「……相手してくれるの?」
「……、」

答えなんかわかりきっているだろうに、秘めた声で囁く問い掛けに返せる言葉はいつも無い。
自分でもよくわからないうちに、すっかりと彼の術中に嵌ってしまったのだ。
だから……




慣らされてしまっただけなのだ、と。






(彼は自分に言い訳をする)

















2007/05/29

鉄銀。色事が書きたい。