▽響と麗





(響×麗)





広く青い初夏の空を、向かい風を受けながら進む。先程まで雨が降っていた所為か、身体にあたる空気はひやりとした湿気を孕んでいた。
ふと見下ろした森の一角によく知る仲間の姿を見つけて、ゆっくりと旋回してその場に留まる。
多くの木々に囲まれても見落とすことのない鮮やかな紅に、響は思わず口角を上げた。

「麗、」

呼びかけて彼女の背後に降り立てば、おそらくは気配に気付いていたのだろう、驚く様子もなく振り返る。

「響も散歩、」
「まぁね。麗は、」
「私は風花を探しに」

またどっか飛んでっちゃったみたい、と云って、麗は呆れたように肩を竦めてみせた。

「今日は結構風が強いからね」
「ほんと、あの子の放浪癖もどうにかして欲しいんだけど」

冗談めかした云い様に、二人顔を見合わせて笑う。
再び強く吹き抜けた風が、響の長い髪と麗のやわらかなスカートを揺らした。この分だと、風に乗ったまま随分と遠くまで流されているに違いない。

「じゃあ空から探そうか」

この広い森を歩いて探すのは大変だろうと手を伸ばせば、驚いたような瞳が此方を見返した。

「……えっと、いいの?」
「どうせ散歩の途中だし、俺も飛びたくなるんだよね、この空」

にこりと笑んで云えば、遠慮がちに伸ばされた手が開いた掌にのせられる。自分より小さなそれを握って引き寄せると、嗅ぎ慣れた華やかな香りが鼻孔をくすぐった。
そのまま抱え上げると華奢な肩はすっぽりと腕の中へとおさまった。途端、強くなる香りに眩暈がする。

「えっと……、じゃあ、行こうか」
「……うん、」

地面を蹴った瞬間強くなった腕を掴む力に、何となく、決まりが悪くなって遠くを見る。

「……とりあえず、風下に向かうよ」
「……そうね、よろしく」

一度意識した常よりも近くから届く香りは響の思考を搦め捕って離さず、口数の減った相手に余計にぎくしゃくしてしまってどうしようもない。
とにかく早く探し人が見つかることを祈りながら、青く晴れ渡った空に翼を羽ばたかせた。









響と麗。
自分たちには少し近すぎる