▽氷牙×響(企画)





(氷牙×響)
※鳩受け企画




大きな水しぶきを上げて川に飛び込んだ友人は、泳いでいる時が一番いきいきとしている、と響は思う。

「なんだ、泳がないのか」
「俺は此処でいいや」

川の浅瀬で立ち止まった響にそうか、と呟くと、氷牙はまた水中へと姿を消した。
川面に出来た円い輪が、陽光を映してきらきらと光る。
息継ぎの為に立ち上がったその姿に、思わず感嘆の息が漏れた。

「どうかしたのか、」

それを耳聡く聞き付けて此方へと声を掛ける彼に、苦笑しながら理由を告げる。

「なんか、どうしたらそんな色気が出るのかなぁ、ってさ」
「はぁ?」

思ったことを素直に口に出せば、氷牙は呆れと驚きの入り交じった声を上げた。

「そんなん俺じゃなくて銀にでも聞けよ」
「まぁ聞いてどうなるものでもないし、」

気にするなと告げて話を終わらせると、彼もその話題への興味を失ったかのようであった。
足を避けて通るかのような水の流れを、何とはなしに眺めている。
特に表情を作っているわけでも無いのに、一つの仕種だけで絵になるというのは些かずるい。
魅き付けられるようにその横顔を見つめていると、ふいに振り向いた彼と目が合った。
一瞬呆れたような表情をした後、次の瞬間には何か思い付いたかのように口角が上がる。

「だったらさ、」

徐に此方に近付いた彼に、ぐいと引き寄せられる。

「俺に堕ちてみる?」

存分に色を含んだその声に、響は思わず息を飲んだ。
首の後ろに回された指の冷たさに、びくりと身体が震える。
その様子に小さく笑って、彼は耳元に唇を寄せた。


――本気にさせんなよ、


そう囁いて耳たぶを喰む唇は、冷たい指の主と同じだとは思えぬ程の熱を帯びていて。

「……っ、」

悪戯に耳の後ろを強く吸った後、氷牙は何事も無かったかのように離れて水中へと消えた。

「詐欺だ……」

色事になど全く興味の無いふりをして、自分の魅せ方を随分と把握しているじゃあないか。
未だ熱の残る耳を抑えながら、それでも彼の姿を追ってしまう自分を棚に上げて一人ごちた。







・・・・・・・・・

鳩総受け企画その一。
氷牙の色気は無自覚の色気ー…と唱えながら書いてたはずがどうしてこうなった。←
我が家の色担は云わずもがな例の狐ですが、一番の美形は実は家鴨だよ、という豆知識。


20100810