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血より濃き咎のイロ ***


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※ご注意※

あからさまなグロ描写はありませんが、
血や暴力の表現が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

中途半端にDSユニバース設定が入っているので痛い&`写があります。


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 薄暗く、湿気った空気の充満する地下牢。
 石積みの壁に繋がれた腕は無様に吊り上げられ、膝をついてうなだれるその姿はどこからみても囚われの身。
 どうして、こうなってしまったのか…。ほんの数日前までは、三流ではあるが大学に通い、例え自分がSubmissiveという特殊な性を持っていると診断された後でも…まだ、友人とくだらないことで笑い合えていたはずなのに。

 病的に色の白い、まるで少女のような出で立ちの少年が宙を仰いで呟く。

「なぜ、お前なんかが生かされているんだろうね? いくら兄さんの言うことでも、こればかりは理解しがたい」
「……俺も一応、お前の兄だと思うんだけど」

 長い睫毛に縁どられた猫目が、この世の嫌悪を全て集めたような色に変わった。

「誰がお前なんかを兄だと思う!」
「理央(りお)」
「僕の名を気安く呼ぶなッ!!」
「ぐっ!!」

 理央の隣に立っていた、やたら見目の良い男に脇腹を思い切り蹴られ、思わず息が詰まる。涙を浮かべて咽る俺を、理央はまるで虫けらでも見るような目で見下ろした。

「所詮お前は僕らの食糧なんだ。それ以上でも、それ以下でもない。……家畜と同じさ」
「王、そろそろお時間です。見つかれば不味いことに」
「いいか、いつか必ず兄さんも過ちに気付くはずだ。その時は僕が! お前を嬲り殺してやるからな!」
「王、」
「分かってる!」

 美形な手下に促され、俺に背を向けた理央。その姿に王≠フ風格は微塵もない。それもそのはず…本来王になるべき者は、別にいたからだ。

「……眞央(まお)」

 確かに兄弟として育ってきたはずだった。
 料理は好きなのに、鍋をよく焦がすおっちょこちょいな母と、歌うことが好きなのに、絶妙に音程が外れる陽気な父にたっぷり愛され、みんなですくすくと育ってきた。でも、数日前。突然そんな日々が目の前で崩れ落ちたのだ。

 カツーン、カツーン

 静寂を保っていた冷たい空間に、ゆったりとした足音が響く。脱力していた躰に思わずびくりと力が入った。閉ざされた鉄格子のその先に見える、石階段にぼんやりと明が灯る。荒くなる呼吸をなんとか抑えながらも、視線はそこへ釘付けになった。
 ゆっくり、ゆっくりと近付いてくる足音とともに見えたつま先。やがてそれは俺の目の前にまで辿りつき、スラリと伸びた長い足の持ち主を仰ぎ見た。

「…眞央」
「ただいま、太央(たお)くん」

 鉄格子越しに、ゆったりと微笑んだ美丈夫。人当たりもよく、何をやらせてもとびきり優秀だった次男の眞央は、成長とともに畏怖の念を抱くほど美しく育った。
 三男の理央も、眞央とは種類の違う美人に育ったが、眞央の美しさはその比ではなかった。
 唯一三人の共通点であった黒髪も、眞央の髪はまるで黒曜石のように艷やかで。両親にとっても、自慢の息子だっただろう。

「今日も一日、いい子で待っていられた?」

 殴っても、揺すっても、ビクともしなかった鉄格子をするりと抜ける眞央。その光景にいまだ慣れない俺は、呼吸を乱した。

「まだ俺が怖い?」
「…自分が何をしたか、忘れたのか」
「よく見て、太央くん。今までずっと可愛がってきた弟と、どこも変わらない」

 眞央の冷たい指先が俺の頬を優しく撫でる。だがその指がどんな非情な行いをしたのか、俺は知っている。
 いつものように大学から家に戻った俺が、何を見たのか。何を、失ったのか。
 玄関に入ってすぐ、異変に気付いた。薄暗くて、妙な鉄臭さが部屋中に充満していた。見てはいけない、入ってはいけないと頭の中で誰かが警告するのに、俺の足は何かに突き動かされるようにリビングへと向かい、そこで見たものは――――

「何が一緒だ! 父さんと母さんを、お前は!」
「それは、生みの親か育ての親か、どちらの話?」
「眞央っ!!」

 腕を戒める鎖がガシャンと音を立てる。怒りと悲しみで視界が歪んだ。

「普通に…暮らして来たじゃないか…なんでこんなっ」
「時が来たんだよ、太央くん」
「そんなの俺には分からない!」
「分からなくてもいいよ。結果は変わらない」
「眞央っ、やめ…んっ!!」

 無理やりに眞央へと顔を向かさせられ、唇を奪われる。

「ンッ、んんっ! はっ、んぅうっ!」

 ねっとりと、喰らい尽くすようなキスをしつこく受けて、息も絶え絶えになった頃…漸く解放された。

「今日も一日、変わりなかった?」

 まるで恋人でも見るような目で俺を見つめる眞央。その視線にゾッとして、目を逸らした。

「なにもない」
「太央くんは、嘘が下手だ」
「ッ、ひっ!?」

 ビッ、と不快な音を立てて纏っていたTシャツを引き裂かれる。曝け出された首元から腰にかけて、一度じっくり眺めた眞央の指先が、視線を追うように肌の上を流れた。

「ここは、」
「ンッ!」
「異常なしだね」
「あっ、んぅ…くっ」

 首筋から流れた指が、悪戯に胸元の飾りを引っ掻いた。先ほどまで普通だったはずの眞央の指先が、いつの間にか鋭く尖った爪に飾られている。引っ掻かれたそこは薄らと血が浮かんでいた。
 本来なら痛みを感じるはずのそれは、だがなぜか、俺の劣情を酷く煽る。

「あっ、ぁあっ! やっ、眞央! やめっ、ひあぁっ!」

 鮮血に誘われるようにそこへ口付けた眞央が、粒を舌で転がし、容赦のない強さで吸い上げる。その全ての痛みが、俺の下半身を完全に成長させた。

「感度も良好だ」
「はっ…ぁ、」
「でも嘘はいけない」
「眞央…ぅあッ!」

 気が紛れ、忘れかけていた傷。先ほど理央の付き人に蹴り上げられた脇腹を、眞央が思い切り掴んだ。

「ぁああぁあっ!」
「来た時から、部屋が臭ってた」
「うぅ…ぅ…」

 脇腹から手を離した眞央が、指をパチンと弾いた。音と同時に檻の中へ突如現れた、理央と付き人。

「に、兄さん…」
「やあ、理央」

 にっこりと笑む眞央とは対象的に、ふたりの顔色は随分と悪い。何が起きたのか、瞬時に理解したようだった。

「ここには入るなと、散々言い聞かせたつもりでいたけど? その上、太央くんを傷つけるとは」
「にいさ…」
「理央」

 かわいそうなほど、理央の肩が跳ね上がった。

「私の言いつけは絶対だ。破ればどうなるか、分かっていただろうに」

 眞央が手を持ち上げ、指を重ねる。

「兄さんっ!」

 再びパチンと弾いた音と共に、理央の隣にいた男の躰が一瞬で真っ黒な灰へと化し、ひらひら舞い落ちる。

「あぁあああぁあぁあぁあああぁぁあぁッ!!」
「理央、次はないからね」

 更に鳴らされた指の音で、今起きた全てのことがウソだったかのように檻から綺麗に消えて無くなった。崩れ落ち泣き叫ぶ理央も、灰になったあの男も、全部。
 今ここにあるのは、俺と、眞央。それだけ。

「お前…なんてことを」
「情夫一人くらいなんてことないさ。直ぐに別のを見つけるだろう。しかしあの子にも困ったものだね。せっかく王の座を譲ってやったというのに…全く向いていない」
「眞央が王になれば済んだ話だ。理央はお前を慕ってる。ただそれだけだろ」
「確かに可愛い存在ではあるが特別≠ナはない。代わりはいくらでもいる」
「眞央!」
「王になれば、面倒事が増えて自由が減る。それでは困るんだ。それよりも太央くん。この傷をあの男につけられたとき、もしかして感じてしまった?」
「…な、なに?」
「あなたがSub性であったことは嬉しい誤算だったけど、少々難点もある。この傷で、感じたのか、と聞いている」
「ンあぁあ!!」

 脇腹の傷を再度掴みあげられ悲鳴をあげる。それを見た眞央が、ぺろりと舌なめずりをした。

「吸血鬼にはDom性を持っている者が多い。そう、俺を含めてね。だから狩りをするときは、できるだけSub性の人間を探すんだ。最高の気分をお互いに味わえるからね」
「単なる、餌だろ」
「食事だって楽しんだほうが良いに決まってる。そうでしょう?」
「お前にとって、俺は都合のいい餌ってことか」
「太央くん、それは違う」

 ちゅ…、と眞央が俺の首筋にキスを落とす。

「あなたは、俺の全てだ。生まれた時から、太央くんを手に入れることだけ考えて生きてきた。あなたを人として産み落としてくれた親に感謝しているんだよ」

 眞央の話によれば、俺たちの本当の両親は吸血鬼と呼ばれる魔物で、三人の中でただ一人、俺だけが出来損なって人間として生まれてしまったらしい。
 本来なら即殺されるべき存在だった俺は、しかし両親の慈悲によって記憶をすり替えられた人間のもとに預けられ、人として生きることになった。
 ちゃんと吸血鬼として生まれた弟ふたりは、俺とは別の世界で、離れて育つはずだった。けど…、

「感謝はしていたんだよ。でも、一緒には暮らせないだなんて馬鹿なことを言うから」
「殺したのか…」
「一緒に暮らせたでしょう?」
「眞央…」
「大前提として、同族でセックスはできても互いの血を飲むことはできない。ただ、吸血行為は性行為と同じくらいのエクスタシーを得られる。そんなものを、太央くんが俺以外のどうでもいい人間に与えるなんて…許せるはずがない」
「あっ!」

 前髪をつかみあげられ、喉がむき出しになる。そこへ、ゆっくりと眞央が舌を這わせた。

「あなたが人で良かった」
「眞央っ、」
「知ってる? 本当は、一番肌が柔らかい場所から血を吸うんだ。こことかね…」

 眞央の手が、ズボンの上から足の付け根を撫でる。

「皮膚の分厚い首から吸えば、あまりの激痛で快楽を得る前に失神してしまう。でも太央くん、あなたはSubだから」
「はっ、ぁ…あぁああっ!」

 言うが早いか、曝け出された首筋に眞央の牙がつぷりと突き刺さる。じわじわと肉に食い込んでいくその感覚は、痛くて…でも、それが最高の快楽へとすり替わり、限界まで腫れ上がっていたそこがついに、破裂した。

 じゅる、と音を立てて首から顔を離した眞央が笑う。

「イっちゃった?」
「はっ、はっ、ぁ…う…」
「本番は、これからなのに」

 笑われて、悔しいはずなのに…。俺の躰は昨夜与えられた痛みと快楽を思い出し震える。

「本能のままに生きれば良い。あなたが求めるものは全て、俺が残らず与えてあげるから」
「ンぁあぁあぁあっ!!」

 腰から流れるようにズボンと下着をぬって差し込まれた眞央の指が、尻の間を滑り躰の奥深くを貫き…俺は、悲鳴のような喘ぎ声を上げた。



 ◇



 目を覚ますと、知らない場所にいた。
 今までいたような薄暗い檻の中ではなく、アイボリーに包まれた広く明るい部屋だ。躰も、石畳のような冷たいものの上ではなく、ふかふかなベッドの上にあった。

「漸く目が覚めた? 部屋は気に入った? ベッドの寝心地はどう?」
「こんなものがあったら、檻と変わらない」

 どこからともなく現れた眞央に、鎖に繋がれた腕を持ち上げ見せると、彼は一瞬驚いたような顔をして、やがて破顔した。

「自覚がないのも困ったものだけど…Subとしては生まれたてのようなものだから、仕方ないのかな」
「どういう意味だ」
「太央くんは、繋がれて酷い扱いを受けたほうが感度が良い」
「なっ、な…!?」

 檻の中で弟に散々いたぶられて、それでも気が狂ったように喘ぎ続けた自分を覚えているから、言い返す言葉がない。羞恥に震え、唇を噛み締めうつむいた俺の機嫌を取るように、眞央が隣に腰掛けた。
 慰めるように俺の髪を撫でる。

「太央くんが絶対に逃げないと分かったら、外してあげる」
「そんな日が来ると思ってるのか」
「世界は段々と変わるものだよ、太央くん。今この時みたいにね」

 眞央が俺の頬に手を添えた。

「Subにとって、Domの存在は絶対だ。その上あなたには吸血の快楽も植え付けてあるから、いつか必ず、自ら俺を乞う時がくるだろう。そうしてあたなが本当に俺のモノになるその時を…今か今かと、楽しみに待っているから」

 そっと近づく顔を、避けることは容易かった。なのに、どうして受け入れてしまったのだろう。

「愛しているよ、兄さん。誰よりもあなたを」

 いつものねっとりとした、想いの絡みつくようなキスを受け入れながら、俺は…既に大きく変わってしまった世界にそっと、瞳を閉じた。



END




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