ダストボックス【特殊パロ】
※こちらは最近二次創作で増えつつある、Dom/Subユニバースという特殊な設定を使ってみたダストボックスです。
所謂SMのような関係性で(Dom→S、Sub→M)、甘かったり、ヤンデレだったりと使いかってのいい感じのアレです。
小説内でも説明はしていますが、詳しくはピクシブにてお調べ頂くと分かり易いです!
お試し感覚で書いてみました。
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ここ最近、ニュースやワイドショー、週刊誌などでよく話題に登るようになった言葉がある。
【ドミナント】と【サブミッシブ】
一昔前はそれをサディストとマゾヒスト、つまりSMなんて言葉で表していたこともあるそうだが、その頃はまだ、その性質を持つ者は異質とされていたそうだ。
だが現在ではそうした性質は、人間であれば誰もが持つ本能として当たり前のものとして認知されている。
ドミナント、通称Dom(ドム)と呼ばれる者は、その名の通り強い支配欲を持っている。だがその欲は単に相手を支配すれば満たされるものではなく、その支配対象から揺るがぬ信頼を得ることが一番重要なのだという。
つまり、ドロドロに褒めて甘やかし、驚異となるもの全てから守ってあげたいと言う過剰なまでの加護欲から生まれる支配欲なのだ。そしてそれを受け入れられる器を持つ者こそがサブミッシブ、通称Sub(サブ)と呼ばれる者たちである。
彼らはDomに尽くし構われ、褒められ支配されることに強い喜びを感じる。Domに心地よく支配される為であれば、酷いお仕置きすら甘受してしまうほどに。
人間であれば誰しもが持つ欲として認知されているDom/Subではあるが、それにも人それぞれ度合いがある。その度合いはレベルTからXまでの段階に分けられており、大抵の者がレベルTからUの軽度とされるものであり、Dom/Subの性質などあってないような者たちだ。そして問題なのは、レベルWからレベルXの重度と診断される者たちである。
重度の者は常にその欲求に駆られており、あまり長い間満たされない状態が続くと体調を崩したり、酷い場合は欝を患う場合もあるという。そのため、国は積極的にDom/Subのパートナー探しの場を提供している。
国の機関が動くほど、現在Dom/Sub性の存在は世界的な問題となっているのである。
◇
一緒に帰ると約束した弟を玄関に残し、教室に忘れ物を取りに戻ったことが凶と出た。
目的の部屋より一つ手前の室内にて、聞き覚えのある言葉が聞こえた。
『Kneel(ニール)』
その言葉を聞いて、一瞬背筋に悪寒が走った。続いて聞こえてきた耳障りな笑い声に、いま教室の中で何が起こっているのか悟ってしまう。
本当は一ミリも関わりたくない。けれど、ケタケタと笑う声の合間に聞こえる啜り泣く声が、俺に無視を決め込めなくさせた。
「最悪だ…」
ハッと小さく溜め息をつく。ここで時間を食えば、玄関で待っている弟の機嫌が悪くなる。そうなると困るのは俺なのだ。けれど、矢張り無視することはできない。
痛む頭を抱えながら、俺はその教室の扉を勢いよく開けた。
何をやっている、なんて言葉は吐く必要もない。目の前には、予想通りの光景が広がっていた。
床に蹲るようにして座る少年が一人。その周りを、三人の少年が取り囲むようにして立っている。
「あ…? 誰だよお前、ウチのクラスの奴じゃねぇだろ。教室間違えてんぞ」
立っている少年の一人が不愉快そうな顔で俺に言う。
「そんなの分かってる」
「はぁ? 何だよ、まさか正義のヒーローでも気取りに来たか?」
「誰だって、そんなの見過ごせるはずない」
「馬鹿言うなよ、俺たちはSubちゃん≠喜ばせてやってるだけだぜ? 見ろよ、嬉しすぎて震えちゃってる」
また、耳障りな笑い声が響いた。
『Kneel(ニール)』とは、DomがSubを従わせるための第一声の様なものだ。強い力を持ったDomにその言葉を言われると、それよりも力の弱いSubは服従の証に床に、Domの足元にぺたりと座り込んでしまう。それはもう、支配される者の本能としか言い様がなく。兎に角ガクリと力が抜けるのだ。
当然それは本来Subにとって、その後の褒め≠貰うための服従であり、まして、こうして晒し者にする為に使う言葉ではない。DomとSubは対等で無ければならず、どちらが過ぎても喜びどころかただの苦痛となってしまう。
彼らは、それを分かっていて敢えて使っているのだ。
「こいつ、重度のSubなんだよ」
「レベルUの俺たちを、毎日物欲しそうに見やがってよぉ」
「仕方ねぇから遊んでやってんだよ」
そこまで言ったところで、俺の堪忍袋の緒が切れた。
「お前ら、いい加減にしろよ」
正直、三対一で喧嘩に勝てるほど俺は強くない。いや、一対一でも無理だ。けれど、今も苦痛に涙を流し服従のお座り≠させられている少年を見過ごすことはできなかった。
手っ取り早く一番近くにいた少年に殴りかかる。が、当然ながら動きの鈍い俺の拳など簡単に避けられてしまう。その上、振り上げた拳が相手に捕まった。
「あれぇ? こいつ、Subじゃね?」
ドクリと俺の心臓が跳ねる。
身体的な特徴があるわけではない。だがどうしてか、DomとSubは本能的に互いを見分ける事ができた。
「あ、ホントだ。こいつSubだわ。でもこいつ、多分レベルTだぞ」
「うわ、Sub度うっす! 服従できるかな?」
「やってみる? はい、Kneel☆」
服従を促す言葉に、一瞬体がぴくりと反応する。が、ただそれだけだった。
「何だよ、全然ダメじゃん。やっぱ度が薄いとつまんね〜」
「でもSubはSubでしょ、無理矢理座らせちゃおうよ」
「痛ッ! やめ、離せよ!」
腕を捻り挙げられ、DomもSubも関係なくねじ伏せられそうになった、その時。
「…何やってんの?」
場違いなほど透明な声が教室に響く。
「か、要…」
不機嫌そうな顔をして教室の入口に立つのは、俺が玄関に残してきた弟、要だった。
「遅いと思って来てみたら、何やってんの?」
スラリとした長身の美形が近付いて来る。
「はぁ? 何だこいつ」
「…おい、こいつ湯下要じゃね?」
「え、湯下って、あの湯下?」
弟の要はその冷たい美貌とずば抜けた頭脳で、入学して早々に学年など飛び越えた学校内の有名人となっていた。
「それ、俺の≠ネんだよね。返してくれる?」
「はぁ? 急に来てなんなんだよお前」
「いいから、返して?」
「な…ッ、ッ、」
再び口を開きかけた一人が、要と目を合わせた途端腰を抜かす。
「俺は、返してって言ってるの。意味、分かる?」
残りのふたりも、要と目を合わせただけで次々と腰を抜かし倒れ込んだ。三人が弟を見る目は、どう見ても怯えたそれだ。
「良かった、一応Domとして力の差は分かるみたいだね。だけど…よくも千尋に痕をつけてくれたね。今回は見逃してあげるけど、次は俺、何するか分からないよ」
要の声に、Domの三人が一斉にヒッ! と小さな悲鳴を上げた。
「それにしても君たちは可哀想だ。本当のSubの魅力を知らないんだもの」
そう言って要は、掴まれ赤くなった腕を擦る俺に近づいて来る。
「自分のモノになったSubってね、本当に可愛いんだよ?」
要の手が俺の頬を優しく滑る。それと同時に、俺の背筋を嫌な汗が流れた。
「千尋、Kneel」
カクン。
先ほど全く折れなかった俺の膝が簡単に折れて、ぺたりと要の足元に座り込む。
「ん、いい子」
要を見上げた俺の髪を優しくかき混ぜる指の感触に目を細めた。全身がその感覚を喜んでいるのが分かる。もっと、もっと撫でてと細胞が騒ぐ。褒めて欲しくて、構って欲しくて、思わず瞳が潤んだ。
外野がゴクリと喉を鳴らす。
「千尋は普段レベルTだけど、今は俺と同じXまでその性質が上がってる。それを引き出せるのは、俺だけ」
分かる? この喜びが。
伸ばされた要の手に頬をすり寄せれば、要は「いい子だね」と言って更に俺を撫でてくれた。けれど、更にもっとと求めた時には既にその手は引っ込められ、俺の中に不安と不満が溢れる。
「そんな顔してもダメだよ千尋。あんなに言ったのに、俺以外に躰を触らせたね」
「っ、だって、だってそれは…」
「ダメなものはダメ。言いつけを守らなかったんだから、家に帰るまで口もきかないし触ってあげない。これはお仕置き≠セよ」
「やだッ、要!!」
悲痛な叫びなど聞こえないとでも言うように踵を返し、俺を置いて要が教室を出て行く。
俺はこの教室に入った理由も、虐められていたSubの存在も、腰を抜かしているDom達の存在も忘れ慌てて要を追いかける。
今の俺はもう、要の温もりを求める重度のSub。要専用のSubでしかなかった。
「要!」
こんな所で俺にSubのスイッチを入れたくせに、きっと本当に一ミリも俺に触れることなく、一言も話すことなく、要は完全に俺を無きものとして無視したまま家へ帰るに違いない。
重度のSubと化した俺にその仕打ちは酷く辛いもので、今すぐにでも泣き喚いて要を引き止めたい衝動に駆られる。けれどそれをすんでのところで思いとどまるのは、お仕置きの後のご褒美が欲しいからだ。
どんなに辛くても、その先がある事を、甘美な喜びを味わえる事を知っているから、俺は…。
「千尋、よく頑張ったね。いい子」
酷く辛い我慢の先で。
親の目も届かぬ部屋の奥、俺は今日も弟に首輪を着けられ、最高に甘い支配を受けるのだ。
END
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