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10年越しヒーロー


「おいっ! お前、柊(ひいらぎ)じゃね!?」
「ん? ……あらら、その美尻はもしかして紗々(ささ)くん?」
「おおっ、覚えてくれてたかー! って…ん、美尻?」

 俺が呼び止めた男の容姿は、流石に髪色は黒に戻されていたものの、高校を卒業して十年経った今でも制服からスーツに着替えただけの様に変わりが無かった。

「紗々くんは今ご帰宅中?」
「おう! 柊もだろ? なぁ、折角再会したんだ、暇なら今からどっか飲みに行こうぜ!」
「俺、美味しい焼き鳥屋さん知ってるよン」
「いーねー!! 行こう行こう!!」

 俺と柊は、まるで少年みたいなノリで共に肩を組み歩き出した。


 ◇


 毎日毎日四、五人から殴られて、罵られて、嘲笑われて。もう死んだ方がマシなんじゃないかと思った高校時代。
 なんの楽しみもない、くだらねぇ人生だったな…なんて、そんなことを考えていたある日のことだった。

「つっまんねーことしてんのねぇ、キミら」

 カリカリくん(らしきアイス)を片手に、俺がボッコボコにやられてる屋上に柊は突然現れた。
 柊と言えば、その一番の特徴は髪の色だ。
 アレはなんつー色だったんだろうか、ピンクベージュっつーのか?
 一旦髪の色を極限まで抜いて、そこにちょっとくすんだ薄いピンクを入れた…みたいな感じ。まぁ、兎に角奇抜って事だ。
 だがその色は、所謂アイドル系な見た目の柊にとても良く似合っていた。

「あ? ンだよ柊。何か文句あんのかよ」

 不良達のリーダー格が、俺を踏みたくっていた足を止めて柊を睨み付ける。

「だってさぁ〜考えてもみてよ。もしも明日で世界が終わるとしたらだよ? 何やるにしたって、もう今日しか無い訳じゃん。そんな時にさぁ、思い出す事が“あぁ俺、同級生蹴っ飛ばしてたなぁ”とか、何か嫌じゃない?」
「「「「………はぁ??」」」」

 俺以外の全員が声を揃え首を傾げ、柊に至ってはブツブツ言いながらそのまま何処かに去って行った。

「なんだ? アイツ」
「さぁ…」

 興が削がれたのか不良達は「なんかシラケた」などと言いながら、俺を転がしたままその日は解散して行った。
 だからと言って次の日からイジメが無くなった訳ではない。
 相変わらず呼び出しはあったし、暴力も振るわれた。勿論柊が助けに来てくれる訳でもなかった。でも…。

『もしも明日で世界が終わるとしたらだよ?』

 そんな柊の言葉が俺の頭の中を占めていた。

 イジメられっ子のまま世界が終わるのか?
 何もしないまま、死んでいくのか?
 それで俺は、悔しくないのか…?

「うわっ!! なんだよオイっ、」
「コイツ気でも狂ったか!? 痛っ!」
「ちょ、待て待て待て待て!」
「ぎゃあ! それ金属バット!!」

 いつ世界が終わるかなんて誰にも分かりゃしない。柊が言う通り、明日かもしれない。そんな日が突然来た時、俺は…。
 誰かの足跡が全身に残ってる様な、そんな惨めなままの姿で消えたくなかった。

「俺を殴りたいならっ、命懸けで来やがれクソがぁああぁっ!!!」

 こうして俺は、脱・イジメられっ子を果たした。そう、全ては柊の言葉が俺の背中を押したのだ。







「って事で! 俺は柊に感謝してるワケよ!!」
「うーん。俺、そんな事言ったかな?」
「………」

 うん、まぁ…言った本人なんてそんなもんだ。
 よく言うだろ? イジメた奴は忘れても、イジメられた方は絶対忘れない。そんな感じ。いや、ちょっと例えが悪過ぎるか…。

「まぁ兎に角さ、俺はお前のお陰で救われたワケよ。大学でも、社会人になった今でもさ、辛い時とか挫けそうな時はいつもあの言葉を思い出すんだ。柊はさ、俺にとっちゃヒーローみたいなモンなんだよな」

 お代わりしたビールを一気に煽り、勢い良くテーブルに戻した。今日は一段と酒が旨い!!

「ふーん? 俺はずっと紗々くんのヒーローだったんだ」
「おうよ!」
「何だぁ、そうだったんだ…へぇ〜」
「ん?」

 柊は俺へ妙な流し目を送りながら、突然体をズイッとこちらに寄せて来た。
 何だこれ、近い。近過ぎるぞ柊。

「ねぇ、紗々くん」
「えっ、ちょ、おい柊」
「俺を紗々くん専用のヒーローにしたくない?」
「はっ!?」

 え!? 何だ!?
 何なんだコイツ!?

「あの頃は尻込みして声かけらん無かったけど…でも良いんだっ! 今の俺なら、ガキの頃よりも断然満足させてやれると思うしね!!」
「え、何をッ!?」

 グイグイ寄ってくる上に、あろうことか柊は俺の尻を撫で始めた。

「ちょっ、おまっ、何やってんの!?」
「俺さぁ〜、あの屋上で自分が何言ったかはぜーんぜん覚えて無いんだけど。でもさぁ、紗々くんのこの美尻だけはこの十年間、一日たりとも忘れた事は無いんだよねぇ〜」
「びじ……は? …え、びじっ!?」

 何かその単語、すっごい初期にも聞いた気がするんですけど!?

「ねぇ、俺にこの尻かいはっ……預けてみない?」
「いま開発って言おうとしたよね!? いま絶対開発って言おうとしたよね!? つか預けませんけどっ!!」
「なんで!? 絶対大事にすんのに!!」
「自分で大事に出来ますからお気遣いなくッ!!」


 俺にとって奇跡の再会は、
 柊の変態(尻フェチ濃厚)にて幕を閉じ……

「俺、紗々くんのヒーローなんでしょ!?」
「今は只の変態だっつの!!」

 また、新たな幕が開いたのだった。




「俺、諦めないよッ!?」
「頼むから諦めてッ!? つか最初の方のテンションどこ行った!?」


END



★有村紗々(アリムラ ササ)→受
平凡、結構夢見がち、美尻
★柊 結衣十(ヒイラギ ユイト)→攻
尻フェチ
高校で紗々(の尻)に一目惚れ



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