捕食する者される者
※受けが攻めを抱きたいと思う噺。
「……納得いかない」
なぜ、いつも俺が下なのか。
達哉は抱かれたばかりの甘いカラダを眺め、眉間に皺を寄せた。
達哉の恋人である大和は、スポーツマンである為背も高く筋肉もしっかりとついている。だが、それを言ったら達哉も同じことだった。
僅かに身長は負けているが、筋肉は恋人よりもついてる自信がある。
その上、髪の長い優男である大和よりも随分と自分の方が男らしいとさえ思う。なのにいつも夜の営みでは大和が上を陣取っていた。
俺だって、好きな奴を抱きたいのに。
そう思ってはいても、情事の始まったその場で立場を逆転させるのは中々難しいことだった。
だからいつも次こそはちゃんと相談しようと思いながら抱かれるのに、結局最後はあまりの快楽に前後不覚になってしまい、最大のおねだりタイムであるピロートークすら出来ずにいた。
抱かれることが不満なのではない。
ただ、当たり前のように自分が下だと位置づけられる事が腹に入らなかった。
偶には大和が下でも良いじゃないか。
達哉も男だ、好きな相手を組み敷きたい欲望が有った。
気怠いカラダを何とか起こし、暗がりの中、隣で眠る恋人を見下ろす。
抱かれることは気持ちが良い。
愛されることは気持ちが良い。
それを、お前も知ってみたらどうだ?
そう思って大和の髪を優しく梳くと、そのほんの少しの刺激に目を覚ました大和が達哉を見上げた。
「……珍しいね、起きちゃった?」
達哉は何も答えず髪を梳いていた。
そんな達哉に大和は何を言い重ねるでもなく、髪を梳く達哉の手を捕まえそれを自身の口元へと運んだ。
ちゅ、と可愛らしい音が一つ響く。
「好き。達哉、大好き。俺、達哉を抱けて本当に幸せだ」
少し間は空いているが、紛れも無いピロートークだった。甘い空気が流れ、最高のおねだりタイムが開始される。だが、達哉の口から「次はお前を抱かせてくれ」なんてセリフは出てこなかった。
口付けを落とした手に顔を擦り寄せる大和を見て、達哉の心がぎゅうっと縮んで甘い痛みを齎した。
幸せと言うことがどんな事なのか、達哉はこの時初めて分かった気がした。
「……俺も、お前に抱かれて幸せだ」
大和からの「幸せ」と言う言葉に、男としてのプライドや欲望などどうでも良くなってしまった。大和が自分を組み敷きたいと言うのなら、もうそれで良いじゃないか。
達哉は再び熱を持ち始めたカラダを大和にピッタリと寄せ、その耳元で囁く。
『もう一回、しよう』
大和の口がにんまりと歪んだ。
それは決して純粋なものでは無かったが、達哉にとってそれももう、どうでも良いことだった。
この日以降達哉が下になる事に不満を持つことはなくなり、そのカラダは永遠大和に愛された。
END
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