クリスマス番外編
12月24日(水)
「ぇえ〜? 渡部くん今日来ないのぉ?」
「やだぁ! つまんなーい!!」
「良いじゃん行こうよぉ〜」
猫なで声で話しかけてるが、その目の光は肉食獣そのものだ。
今は外だから辛うじてコートを着てはいるが、きっと上着を脱げば肩は出てるわ胸元開くわで薄着に違いない。
猫は猫でも、飢えた豹ってとこか。
聖なる夜を共にする相手に、司をロックオンしたってとこだろう。
男を落とすための努力は認める。
だがしかし!!
残念ながらアンタらがぶら下がってる男は俺のなんでね。
「司!」
凭れかかっていた壁から離れ、周りに女を侍らせている男の名を呼んだ。
うん、分かってる。
決して侍らせてる訳じゃない事は。
でも、でもさ。
目の前でそれは気に入らねーじゃん?
例えその男が、死んだ魚みたいな目ぇしててもさ。
「え……リュウ?」
俺を認めた瞬間、死んでた目に光が戻る。
司は見事な手さばきで自分の腕からスッと女達の手を外させると、状況を飲み込めてないそいつらを置いて俺の元へ駆けて来る。
「リュウ、どうしたの? お互いマンションに直帰って言ってたでしょ?」
「何だよ…俺来たの、迷惑だった?」
そう言って俺は、態とらしくしゅんとして見せる。
俺を大切に想ってくれてる司に限ってそんなこと思うはずないのは分かってるけど、性格の悪い俺は後ろの方で固まってる女たちに見せ付けたかったのだ。
この男が見てるのは俺なんだって。
聖なる夜を共に過ごすのは、俺だけの権利なんだって。
ほら司、
俺だけだって見せ付けてよ。
お前は俺の物だって分からせてよ。
見つめる俺に、司がにこりと笑う。
「馬鹿だなぁリュウは。迷惑なわけないでしょ?来てくれて嬉しいよ、凄く嬉しい。でも、すれ違ってたらどうすんの?来るならちゃんと連絡して、心配だから」
そうして相変わらず俺に対してYes Manな司は、俺が求めてるものをちゃんと理解して返してくれるのだ。
昔の様に『いいよ』とは言わない代わりに、今は行動で。
俺の頬に落とされたキスで、石のように固まっていた集団から悲鳴が上がった。
「リュウ、手ぇ繋いで帰ろ」
「いいよ」
「ん、もうちょっと俺に寄って」
「うん」
「ねぇ……リュウの隣は、俺だけのものだからね?」
「ははっ、何だよそれ。当たり前じゃん!」
いつの間にか、
俺まで司のYes Man。
END
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