×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
Yes Man


【あらすじ】
龍平の要求に「いいよ」しか言わないイケメン幼馴染、司。そんな彼に彼女ができたと告げられる。何故か焦った龍平は思わず「彼女と別れて俺と付き合え」と要求するが…



☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.



「俺と付き合えっ!!」

 思わず叫んだ言葉に、アイツは躊躇うことなくこう言った。


「いいよ」






 勉強してるところなんて見た事ないのに、常に学年上位へ食い込む頭脳を持った男、渡部司(ワタベ ツカサ)は俺、仲間龍平(ナカマリュウヘイ)の幼馴染だ。

 家がお隣さんで、部屋は真ん前同士なんて。
 いつの時代の少女漫画だっつー状況の俺たちは、漫画みたいに自然と連む様になった。

 昔から割と大人しめの性格だった司をやんちゃな俺が振り回すって言う図式は、周りにも自然と定着していた。
 そうして気付けば司は常に俺の言いなりで、俺のワガママに一切否定も拒否もしない奴になってた。

 それを代表とする事例が、これ。
 俺と司が、同じ高校に通っていることだ。
 何故頭の良い司と俺が同じ高校なのかと言うと、俺の「お前も俺と同じ高校に行けよ」なんて言う一言に、あいつが「いいよ」なんて言うこれまた簡単な返事をしたからだ。

 理由はそれだけ。

 中学では首席だった司がランクのかなり落ちたこの学校へ行く事には、先生達も司の両親も大泣きした。
 でも司は理由を誰にも話すことなく、俺が安全圏内で行けるこの学校を受験したのだ。


 夏休みが明けた途端に別人の様になって学校へ来る奴ってのは、案外何処の世界にも存在するし、割りとよくある話。
 そうして司も、今年の夏、その中の一人に仲間入りした。

 中学まではそれなりの身長で、それこそまだ俺よりも低くて小柄な感じだったはずなのに、今年の夏休み明け、あいつは別人となって学校に現れた。

 休みの間に俺が危惧していた通り、女子はもう、ほんと大騒ぎ。
 元々整った顔立ちではあったが、体の成長と共に『男』が顔を出した。

 女子たちの中の『カッコイイかも』が『マジやばいカッコイイ死ぬっ!』に変貌を遂げた。
 いつもしていた黒縁のメガネも良い具合にスパイスとして司の良さを際立たせた。
 持ち合わせた物の何もかもが、プラスへと働いたのだ。

「司、帰ろう」
「いいよ」

 にっこりと笑うインテリメガネ野郎の顔が、周りを囲んでいた女子達に甘い溜め息を溢させる。
 付き合った女をたった数時間で振ったって、イケメンだと許されるらしい。
 まぁ、振らせたのは俺なんだけど…





 冒頭の様な事になってしまったのは、三日前に突然司から告げられた『彼女出来た』と言う報告が原因だった。

 大変身をした夏から早二ヶ月。
 十月の暑いんだか寒いんだか分からない季節の中でも、あの夏の熱気は収まるどころか加熱し続けていた。
 俺の知る限りでも、片手では足りない程の女子から告白を受けていたはずだ。
 けど、何故か俺は…司は彼女なんか作らないって思っていた。
 そう、思い込んでいた。

 そうして暑いんだか寒いんだかの中で突然告げられた予想外の言葉で、俺は大パニックを起こしたのだ。

 え、何で!?
 は? え、どう言うこと?
 なに? え!?

「その子を好きなのか!?」
「いや、別に」

 は!?
 好きじゃ無いのに付き合えるのか!?

「デートするから、明日は行けない」

 毎週土日は俺と遊んでる。
 そんな習慣を、好きでも無い奴の為に投げ出すのか!?
 付き合う相手なんて誰でも良いんだろ?
 だったら、
 だったら俺でも良いじゃん!

「別れろ」
「え?」
「そんな好きでも無い女、別れろ! そんで、そんで…」

 ――俺と付き合えっ!!


 そうして司の「いいよ」って言うたったそれだけの返事で、俺と司は付き合うことになり、その日付き合うことになった彼女は…凡そ数時間で司に振られる羽目になったのだ。






「リュウ、そろそろ寝るよ」
「えぇ? 明日休みだぜ? もっとやろーよぉ」

 金曜の夜。
 新しく買ってきたばかりのゲームを手放したくなくて、俺はジタバタと足を鳴らした。

「俺、明日朝早いんだ。もう寝ないと」
「は? 明日何か用事あんの?」
「クラスの奴らと図書館でテスト勉強」

 何だよそれ、明日も遊ぼうと思ってたのに。つか、俺も同じクラスなのに誘われてねぇし!

「断われよ。明日も俺と遊べ!」

 ムッとして口に出してから、しまったと思った。
 そうだった、こいつは俺の言うこと…

「いいよ」

 ほら来た。
 付き合い出してから三週間。
 今までと何一つ変わらないんだ、こんな所も。

 俺は自分から出た『付き合え』の一言で、あっという間に自分の気持ちを自覚した。
 あぁ、俺は司が好きなんだ。って今まで感じてた違和感から何から全部、ストンと胸に落ちてピッタリと嵌った。
 でも、そんな俺に対して司の『いいよ』は意味が分からない。

 でももしかしたら、司も俺と同じ気持ちかもってドキドキして過ごしたのは約一週間程度だったか…。
 俺のドキドキなんて無意味で、司は別に何も変わらなかった。
 本当に何も、変わらなかったのだ。

「嘘だよバカ。朝早いならいーよ、もう寝ろ」
「…じゃあ、おやすみ。リュウ」
「おー」

 シッシッと手を振って窓から出て行く司を声だけで見送り、一人プレイに切り替えコントローラを握り直す。
 でも、中々ゲームをスタート出来ないバカな俺。

 あいつの『いいよ』には、何にも籠っちゃいない。
 ただ考える事が面倒なんだ。
 俺を怒らせることが、俺と揉めることが、ただ…面倒なだけなんだ。


 ◇

 
 ああぁあああぁぁあっ!
 バカバカバカッ、俺のバカ!
 こんな事してたら単なるストーカーじゃん!

 キャップ被って伊達メガネかけて、上下真っ黒の服を着用とか怪し過ぎる格好で、俺は私立図書館へと足を運んでいた。
 勿論目的は司の覗き見。
 あいつが俺以外と連むところとか、正直全然見た事がなくて気になった。
 そりゃ、今までだって司が俺以外と出かけることはあったけど滅多と無かったし、それに 今は一応付き合ってるんだ。

 でも、直ぐに来るんじゃ無かったと後悔することになった。

「あ、渡部今度泊まりでキャンプ行こーぜ」
「泊まりは嫌だ」
「えー? ケチー!」
「じゃあ日帰りでいーじゃん! 私も行きたい〜」
「あ、じゃあ私もー!」
「まぁ、日帰りなら」
「よし、じゃあ決まり! どこのキャンプ場いくー?」
「河原もありじゃない?」

 図書館の外にあるテラスでランチをしていた司を見つけた。
 でも、それは俺の知る司なんかじゃ無かった。
 ちゃんと会話してる。
 「いいよ」で済んでしまうものじゃなくって、ちゃんと、心のある会話を…






「一日中ゲームしてたの?」
「…………」

 あの後直ぐに家に戻ってゲームに没頭した。でもスコアは散々なもので、ちっとも楽しくなんかなかった。
 最低スコアを叩き出したモニターを見つめていると、カラカラと網戸を開けて司が入ってくる。

「リュウ? …あ、そうだ。明日の買い物、何時に出る?」
「行かない」
「え?」
「行きたくない。だから無しにして」
「ん、いいよ」

 ―――どうして?


 ずっと昔から一緒に居たはずの俺と、高校で会ったばかりのあいつらへの対応が違い過ぎて。
 もう俺は耐えられなかった。

「お前、『いいよ』以外に何も言えねーの? 俺にはそれさえ与えておけば安心って? バカにしてんのかよ」
「リュ…」
「“付き合う”なんて選んじまう程に、俺に本音言うのが面倒か? 面倒避ける為なら、俺に言われたこと何でもやるってか?」

 だったら
 だったら…

「キスしろ。好きな奴相手にするみたいな、濃くて深いやつ!」

 そう言って睨みつけてやると、司は無表情のまま俺の顎に手をかけた。

「ンッ! んん!?」

 そのまま勢い良く司の唇が俺のそれに重なって、驚いて開いた拍子に中に進入される。
 噛み付かれている様な、食われている様な感覚さえするそのキスに、甘さを覚えて頭がクラクラした。

 好き…
 司……好き……

 こんな心のないキスでも俺の心は喜んじまう。
 もう、お終いだ。
 こんなのって辛すぎる…

「んっ、や…ぅん、やめっ、ろ! もう良いっ!!」

 無理やり司を離すと、互いの唇に繋がった銀糸がプツリと切れた。

「も、良い。要らない…お前の『いいよ』はもう要らない」

 力が抜けて、ドサリと床に座り込む。

「別れて、司」

 最後に最低最悪な『いいよ』を聞いてやるよ。
 一生忘れらんない、『いいよ』をさ。












「いいよ」


 あぁ、終わった……















「何て言うワケないでしょ」
「え…」

 驚いて司を仰ぎ見れば、見た事もない怖い顔をしていた。

「リュウ、俺が何も考えずに答えてるとでも思ってるの? 面倒ごとを避けてるだけだって?」
「だって、だってそうだろ!? 他の奴にはちゃんと嫌だって言えるじゃねーか! 何で俺には拒否も否定もしないワケ!?」

 涙こそ溢れていないけど、もう殆んど涙声だ。
 そんな俺に司は大きな溜め息をつくと、座り込んだ俺の前に司も座り込む。ついでに情けない俺の顔まで覗き込んできた。

「そんなの、否定する必要も、拒否する必要も無いからに決まってんでしょ?」
「……?」
「気付いてる? お前が俺に求める事は、セリフこそ違っても要約すると結局は『俺の側に居ろ』ってことなの。俺がそれを、断るはずないだろ?」
「でもさっき! 明日行かないって言ったのに『いいよ』って言ったじゃん!」
「だって買い物に行かないだけだろ? 家で遊ぶつもりかと思ったんだけど、違うの? …あのね、リュウ。俺はお前が好きなの。志望校変えてでも側に居たいくらい大好きなの。側に居られるなら、外だって家の中だって、俺はどっちでも構わないよ」

 俺はポカンとした。
 だって、今まで司からそんな素振りを感じたことが無いのだから。その上付き合ってからだって、一度も「好き」だと言われていない。
 大体、言われてたらこんな風に悩んだりしない。

「え、だっ、司…だっ、言わなっ」

 はちゃめちゃな俺の言葉に司はクスッと笑うと、俺の前髪を長く綺麗な指でくしゃりと混ぜた。

「うん、ごめん。リュウから好きって言うまで、絶対に言ってやらないって思ってたから」
「へあ!?」

 何だそれ!?

「だぁってリュウ、俺の必死なアピールは全然分かって無いし、その上子供じみた嫉妬の勢いだけで『付き合え』なんて言うだろ? 流石にちょっとムカついちゃって」
「おっ、おまっ……」

 単純で単細胞な脳の思考回路はバレバレ。俺は恥ずかしくって顔を真っ赤にした。

「まぁその後直ぐに、俺のこと男として意識してくれてたから…許してあげても良かったんだけど」

 ショゲてるリュウがあんまり可愛くて、とかいけしゃあしゃあと言ってのけたこの男に、俺は手を挙げて降参する。

「お前って……すげぇ性格悪いのな……」
「今更気付いても遅いよ、俺から逃がしてあげないし」

 そんなニンマリと悪い笑みを浮かべた司の顔も格好良いとか思っちゃうんだから、俺が司から逃げるなんてことは絶対に無いのだけど。






「もっ、司! やりにくい!!」

 俺が気持ちを吐露してからと言うもの、一体今までは何だったのかと思う程に司が俺を甘やかす。
 今だってゲームをやる俺を後ろから抱き込んで……

「あっ! 司っ、やめ…あっ」

 うなじに顔を寄せたかと思うと、ワザと音を立ててちゅ、ちゅ、と吸い付いてくる。

「やぁっ、司…あ、」
「リュウ、ホントここ弱いよね」
「もっ、ばか! ちょ、何処触って! ひッ」
「リュウから甘い匂いする。俺来る前に風呂入ったの?」

 俺は後ろに居る司にも分かるくらい、全身を赤く染めた。

「だっ、だだっ、だってお前…来ると直ぐ…触んだもん……」

 最後の方をごにょごにょと言えば、後ろの司がピタリと動きを止めた。

 あれ?
 てっきり笑われるかと思ったのに。
 不思議に思って振り返ろうとしたその時、自分の体がふわりと宙に浮いた。

「わっ!?」
「何でそんな可愛いかな…」

 司の訳のわからない呟きと共に、俺は窓から連れ出され司の部屋に連れ込まれた。
 その後何されたかは……まぁ、想像にお任せします。

 多分、ハズレは無いと思う。



「や、優しくしてね…?」
「ん、……いいよ」



 最上級に甘い『いいよ』、頂きましたー!!!



 END☆


 ↓↓☆おまけ☆↓↓


【SIDE:司】


「で、上手くいったの?」
「まぁ、そうだね」
「怖い男よねぇ…仲間くん可哀想。こんな悪い男に捕まって」

 そうしてシクシクと嘘泣きするのは、隣のクラスの市川香里奈。
 俺とたった数時間だけ付き合ったことになっている女子生徒だ。

 何度か図書館で会ううちに話すようになったのだが、市川には何故か最初から俺の腹黒さはバレていて、それなら丁度良いやと当て馬に使わせて貰ったのだ。

「当て馬に使わせて、何て。面と向かって言われる事はこの先一生無いわよ」

 図書館の外にあるテラスで、市川が細く長い脚を組み替える。
 市川はスタイルも良いし普通に美人だ。だが、俺にとっての市川は、ただそれが事実であるだけでそれ以上の価値は何もない。

「仕組んだこと、バレるんじゃないの?」
「いや、俺が市川と付き合ったってことすらリュウはもう忘れてる」

 言った途端市川は口に含んだ紅茶を吹き出した。

「あ、ごめん。余りに面白くて」
「……いや」

 シャツで濡れたメガネを拭いていると、あまり心地の良くない視線を向けられる。

「ねぇ」
「……何」
「可愛いわね、仲間くん」

 瞬間、空気にピリッと電気が走る。
 自分でも分かるくらい、磨きのかかったメガネが不穏に光った。

「嘘よ、嘘。怖いわねぇ。仲間くんもこんな男、止めたらいいのに」
「良いんだよ、アイツは知らなくても」


 龍平はただ、俺の甘さに浸っていればそれで良い。
 俺の本当に真っ黒い部分なんて見なくても良いんだ。
 未だぶつくさ言う市川を前に、かなり冷えてしまった紅茶を手に取り口に含んだ。

 〜♪

 着信して震える携帯を確認すれば、噂の恋人から。

「やだ、ニヤニヤしてる」
「じゃあ俺は帰るから」
「はいはい、可愛いからって苛めるんじゃないわよ?」

 そんな市川に俺は鼻で笑う。

「俺はそう言う趣向、無いから」

 多少の意地悪はするけれど、泣かせるのは趣味じゃない。
 デロッデロに甘やかして蕩けさせる事こそが、俺の至高の喜び。
 今日はどうやって甘やかしてやろうか。


『まだ帰ってこないの?』なんてメールにいそいそと帰り支度することが既に、甘やかしに入っていることは俺自身気づいちゃいなかった。

「あー…何だか砂吐きそうよ」



 おまけEND★

番外編へ



戻る