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神様の遊戯室:中***



 朝飯を抜いたことで何とかいつも通りの時間に学校へついた。不安に感じていたクラスの様子も変わりなくてホッとする。誰かと目を合わせることなく自分の席につくと、唯一とも言える友人が声をかけてきた。

「司波、おはよう」

 スラリと高い身長に、日に焼けてよく引き締まった躰。如何にも運動が得意ですって感じがする爽やかな容姿の北島は、常に黙りこくっている俺にも話しかけてくれる気の良い奴だ。

「おはよう、北島」
「あれ、どうした寝不足か?」
「え…なに、なんか変?」
「顔色がちょっと悪いかもな」
「ちゃんと寝たんだけどなぁ…」

 しっかりと取った睡眠を上回る疲れを、朝から感じたからだろうか。思いのほか昨日の衝撃による疲れは蓄積されているのかもしれない。

「どうかしたのか?」
「いや、それが…その、」

 誰かに話したとして、はたして信じてもらえるんだろうか。家に帰ったら、勝手に部屋に巫が上がり込んでいたとか。飯を作って、風呂を沸かしていたとか、弁当を……いや、絶対信じてくれないだろ。だって、信者には神様みたいな存在の相手だぞ?
 例え信者でなくても、高貴な存在として近寄りがたく思っているのは確かなのだ。そんな雲の上の存在である奴が、こんな底辺の、友達一人作るのに苦労するような男にストーカーまがいのことをするはずがない。

「えーっと、なんでもない」
「え、なんだよ。悩んでることあるなら言えよ、相談のるからさ」

 な? と北島が俺の髪をわしゃわしゃと混ぜた時だった。教室の中の空気が一気に変わる。

(ああ、巫が来た…)

 誰もが会話を止めて、入って来たであろう男の存在に意識を集中させていた。信者は慣れた様子で駆け寄っていくし、そうでない者は黙ってその時をやりすごしている。それが常だった。けど、この日だけは少し様子がおかしかった。周りが妙にザワついているのだ。
 目の前に立ったままの北島に視線を向けると、北島は別の場所を見て固まっていた。

「…北島?」
「呼ぶ名前を間違ってない?」

 澄んだ、清流みたいな声。それは北島の声なんかじゃなくて…、

「巫…」
「おはよう、司波くん」

 俺の席の横に、にっこりと笑んだ巫が立っていた。こんなこと、この一年で一度も無かったはずなのに、なんで…。
 巫は俺の頭に触れたままになっていた北島の右手を払い除ける。

「寝癖、ついてるよ?」
「へ…あ、」

 巫の真っ白な指が俺のくしゃくしゃになった髪に触れた。その瞬間、クラスの殆どの人間が息を呑んだ。巫が、自分から誰かに触れるだなんて。

「巫、あの、」
「少しはマシになったかな? 今日は寝坊しちゃったもんね。はい、お弁当」
「え…えっ、え?」

 目を疑った。俺の前に差し出された、その弁当箱は。

「ダメだよちゃんと持ってこなきゃ。冷蔵庫、見たでしょ?」
「な…」
「持たずに部屋を出るから驚いちゃった。俺が遅刻しそうになっちゃったよ」

 巫が優しく笑う。でも、そんなの俺には恐怖でしかなかった。

「な、なんでこれ…なんで、」
「だって司波くんは俺の恋人だよ? パートナなんだから、しっかりサポートしないとね」
「違う!」

 思わず、差し出されていた弁当箱をなぎ払った。勢いよく手が当たったそれは、見事吹き飛び床に中身をぶちまける。巫の信者が悲鳴を上げた。
 俺は机の横にかけていたカバンを咄嗟に手に取り、弾かれるようにして教室から飛び出した。あの場にいたら、何をされるか分かったもんじゃない。
 とにかく今は逃げるしかない。そう思って全力で、先ほど来たばかりの道を引き返した。




 風呂とトイレが各部屋についているのが奇跡であるような、ボロいアパートに駆け込んだ。扉を閉めたら直ぐに鍵をかける。
 部屋に飛び込んで、窓の鍵も全部確認した。そうして漸く息をついてベッドに腰掛ける。
 怖かった…。何が起きたかサッパリ分からないけど、非常事態であることは確かだった。だって、俺の部屋の冷蔵庫にあったはずの弁当箱を、どうしてか巫が持ってきていたのだ。
 ハッとして、慌てて冷蔵庫を開ける。

「なんなんだよぉ〜!」

 やっぱりそこからは、朝あったはずの弁当箱が消えていた。その上キッチンに置いてあるゴミ箱には、アイツが貼り付けたんだろうあの書置きが丸めて捨ててあった。

「なんでなんでなんでっ、どうして!?」

 あまりの恐ろしさに叫んだその後ろで、ふっ…と空気が動く。その気配に俺は腰を抜かした。

「司波くん」

 清らかな声だなんて嘘だ、大嘘だ。だって、こんなにもドロドロと俺にまとわりついてくる。

「司波くん、髪、汚れちゃったからお清めしようか」
「な…なに…」
「ほら、あの男にあんな荒っぽく触られちゃったでしょう?」

 髪…? 男…北島のことか? 振り返ったことを酷く後悔した。やっぱりそこには巫が立っていて、その手に何か持ってる。

「洗っただけじゃダメだと思って、学校でバリカンを借りてきたんだ」

 生徒指導室に寄ったから、追いかけるのが遅れちゃったよって。なんでお前、部屋に入ってんの? 俺、確かに鍵かけたはずなんだけど。

「なんで…部屋に入れた…?」

 震えた俺の声に、巫は首をかしげる。

「なんでって、一緒に住んでるんだもん、鍵くらい持ってるよ。俺の部屋は上だけど」

 このアパートは一階建てだ、二階なんてない。だとすると、巫が言う上ってのは…。

「は…っ、は…はは、」

 あまりの恐怖に、涙と笑いが零れた。

「あれ、どこいくの?」

 ふらふらと、力の入らない足で壁をつたって玄関に向かう。早く、この頭のオカシイ男から逃げないと。
 だけどそれは、巫によって阻まれてしまう。

「ダメだよ、ちゃんと綺麗にしないと」
「ぐっ!?」

 その細く見える躰からは想像もつかいないほどの力で、鳩尾を殴られて足を折った。
 がくりと倒れた俺の腕を引いて、巫は迷いのない足取りでバスルームへと向かう。

「ジッとしててね? 学校ので古いから、性能良くないんだ」

 ズレたら余計なところ切っちゃうかも、なんて殆ど脅しじみた言葉を吐いて、巫は俺の髪を根こそぎ落としてくれた。


 殴られた腹が痛くてマトモに動けない俺は、巫の肩を借りてベッドまで移動した。丸坊主になった頭は、剃られたその場で綺麗に洗われたから、案の定制服が濡れた。
 着替えさせてあげると、有無を言わさず俺のシャツのボタンに手をかけた奴には、流石に力を振り絞って抵抗した。
 中途半端に脱げた上着がまるで手錠のように絡まって、上手く動けない。だけど足だけでもと巫を蹴り飛ばそうとすれば、それは簡単に捕まってしまう。
 手は背中に纏まったまま抜けず、足は巫につかまり、俺はベッドへ倒れてしまう。それを見ていた巫が信じられないセリフを吐いた。

「もしかして、誘ってるの?」

 そんなわけねぇだろ!! そう反論する間もなく、目の前の真っ白な男は俺の胸元へと顔を埋めた。べろりと片方の突起を舐め上げる。

「ぃやだぁあああっ!」

 初な小娘でもあるまいし、自分がどんな対象として見られているかぐらい直ぐに分かる。それに多分、コイツは俺のことを女みたいに扱おうとしている。それだけは、どうかそれだけは阻止しなければ。
 必死で抵抗するが、躰は壁に当たったりと無駄に痛みが増えるばかりで、腕はますます服が絡まり引き抜けなくなった。

「やだっ! やめろっ、ぃやぁああっ!!」

 早急に制服のスラックスを脱がされ、恐怖で縮こまったソレを巫が迷いなく咥えた。そこから舐める場所が下へと下がり、巫の立派に勃ちあがったオスを俺のあらぬ場所にブチ込まれるまでに、それほど時間はかからなかった。

 隣の部屋から、壁を殴る音と共に怒声が上がっている。そりゃそうだ、確か隣は浪人生で、いつも少しの音を立てるだけで壁をしつこく殴る神経質な奴なんだから。こんな騒音をたてて、黙っているわけがない。
 俺の口からは、揺れる足に合わせて呻きと悲鳴が上がった。その俺の上で、楽しげに腰を揺らす巫。
 涼しい顔をしておきながら、その額に汗なんかかいていて。信者が見たら、その汗一つにも何か御利益があるとか言いそうだなと、自分の状況から目を逸らすために全く関係ないことを考えながら…俺はやがて意識を飛ばした。



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