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となりのクラスのおひめさま:巻波俊平 *



※榛原編と菊川編の一部の、俊平視点



 榛原に手を引かれ、視線の突き刺さる校舎を出た。
 俺を知らない部屋に連れ込んで、ベッドに押し倒して。濁流に飲み込まれたかのように、息の仕方も分からなくなった俺に覆いかぶさった榛原は、あっという間にこの身の服を剥ぎ取った。

「ひぁっ!? んんっ、ンぅ! ンっ、わっ、ぃあぁっ!」

 奪うようにして塞がれた唇。教室で与えられたそれより更に激しく中を蹂躙される。やがてそれは、今まで意識したこともなかった場所へと移動する。
 胸の小さな飾りに熱い唇と舌で吸い付いて、舐めて、甘噛みしてはまた舐める。

「ンあぁあ! あっ、やだっ、やだ、なにっ」
「胸でここまで反応するなら、十分素質ありだな。ここ、勃ってるぞ」

 耳元で笑った榛原が、俺の昂ったそこを握りこんだ。

「ぁあぁああっ!」

 初めて他人に与えられた熱。足の先から、頭のてっぺんまで突き抜けるような刺激。頭の中で何かが破裂したみたいに、視界がチカチカと瞬く。

「あ…ぁ……んぅ…」
「なんだ、今のでイったのか? そんなに気持ちよかったか?」

 俺の体は幼すぎて、それが痛みだったのか、それとも快楽だったのかも分からなかった。未だに治まらない刺激の波に、恐怖で涙が溢れた。

「ひっ、…ぅ、ひっ、」
「おいおい、なんで泣くの。俊平ちゃん?」
「うっ、ひっ……ぃ…」
「うん? どうした?」

 どうした? じゃねぇんだよ。

「こぁ、こあいっ! うっ、こわ……」

 まるで水の中に沈んだかのように、視界は不良だ。それでも、榛原が一瞬瞠目したのが分かった。なんで驚くんだよ。お前が俺を襲ったくせに。どうしてお前が驚くんだよ。
 みっともなくしゃくりあげながら榛原を睨みつけると、榛原がゆっくりとその表情を崩す。

「どんだけ初心なのよ」

 笑った榛原の、困ったように下がった眉。自分が俺を泣かせているくせに、宥めるように顔中にキスを降らせる。妙なところを触っていた手は離れ、俺の頬を優しく撫でた。
 ちゅ…ちゅ…ちゅ…。
 先ほどまでの激しい触れ合いは止み、ただただ優しく落とされるキスの感触に思わず体が震えた。また、榛原が笑う。

「…な、なん…」
「いや、可愛くてたまんねぇなと思って」
「はっ、はぁ!?」

 自分でも、榛原を見上げる顔が真っ赤に染まったことが分かった。なに言ってんだ、コイツ。無理やり俺に触って、泣かせたくせに。そう憎まれ口をたたきたくても、どうしてか俺を見下ろす榛原の顔を見ると言葉が上手く出てこない。

「もう怖いことはしないから、泣くなよ」

 そう言って、榛原はそっと俺の額にキスを落とした。



 ◇



「零二は帰ったから、もう大丈夫」

 握りしめたシャツから伝わる、体温。憎き、男の腕の中。
 みっともなく、馬鹿みたいにひんひん泣いた。菊川に襲われたことが死ぬほど怖かった。だからって、どうして榛原の腕の中がこんなにも落ち着くんだろう?
 前の日にだって、榛原にはとんでもないことをされた。あんなことや、こんなこと。口に出せないような場所をたくさん触られて、いやらしいキスをたくさんされた。
 その時も俺は泣いた。怖かった。でも、菊川に感じた恐怖とは、まったく違うものだった。

「俺……部屋に戻る。…榛原も帰れよ」

 握りしめていた榛原のシャツを離す。そうして立ち上がろうとしたのに、俺の腰は同じ場所にストンと落ちた。

「部屋どこ? 連れてってやるよ」
「ちょ、やめろよ!」
「腰抜けてんだろ? いいからジッとしてろ。で、部屋どこだ?」
「……二階の、突き当り」

 座り込んでしまった俺を、榛原が簡単に抱き上げる。あっという間に部屋まで運ばれてしまった俺は、汚い部屋の中に鎮座するベッドに乗せられた。そのまま帰っていくと思った榛原に、俺は強く抱きしめられた。

「なにすんだよ! ばか! おいっ」
「零二にどこまでされた?」
「なっ、え……」
「大泣きして腰抜かすほど、なにされた?」

 榛原が、泣き腫らして瞼をパンパンに腫らした俺の顔を覗き込む。

「……別に、なにも」
「ここ、凄い色になってる」
「ひっ、」

 指先でつつかれたのは、先ほど菊川に強く吸われた首筋。

「痛かっただろ、これ」
「………」
「かわいそうに、怖かったな。……俺の時も、怖かったろ?」
「榛原の時とは全然違うっ! アイツとお前は、全然ちがっ! …ンうッ!」

 言い終わるよりも早く、噛みつくようにキスをされた。

「ンぅう! んっ、う…ふぅっ、ん…ぁ、」
「……ん…はっ、俺の時も、大泣きしたのに?」
「あ…あれはっ、驚いただけで、今日のとは違う!」
「何が違う?」
「知らねぇよ! 違うもんは違う!」
「『怖い』って泣きべそかいてたのに?」
「お前なんか、もう怖くないッ!」
「本当に?」

 真剣な目だった。

「俺は怖いよ、お前に嫌われるのが。俺より、零二を選ばれることが」
「なに……言ってんだよ」
「俊平ちゃんは、俺のなのにね」
「お前のじゃねぇよ!」

 叫んだ俺を、榛原がベッドに押し倒す。両手の指が、榛原の指に絡み取られシーツに縫い付けられた。
 仰向けになって見上げた榛原の顔に、いつもの余裕の笑みはなかった。

「昨日みたいに、怖いことはしない。でも……頼むから、零二の痕だけ消させてくれ」
「ぅあっ」

 色の濃くなった痕に、榛原がそっと口付けた。ビクンと跳ねた俺の体に、榛原の手の力が強まる。
 榛原の手は俺の手を戒めたまま、俺の肌に自分を刷り込んでいく。

「んぁ…」

 俺の首筋に顔を埋めた榛原。
 両手は、榛原の両手に戒められていた。
 指が絡み合い、シーツに埋まる。

「俊平ちゃん……」

 でも、もしもそれが自由になっていたとしたら…?




 俺の腕は……
 榛原の首に、回されていたかもしれない。



 END


2020/1/14



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