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続・欲望妄想少年***


「オイ、珈琲」

 ソファに深く腰掛け、長い脚を組んで雑誌を読む兄、葉介。
 その姿は二週間前の、あの淫猥な三日間を経験する前と全く変わらなくて、アレは全て僕の妄想だったんじゃないかと思えてくるほどだ。

「オイ、聞いてんのか? 何ボケっとしてんだチビ」
「…ハイハイ」
「あ? ハイは短く一回だろ」
「はいっ!」

 新たな世界へ進むどころか、甘さなんか一ミリもない奴隷の日々に逆戻り。

「風呂も入れとけよ」
「はいっ!!」

 慌てて兄の為に珈琲をいれて、浴室へと走る。少しでもモタつけば殴られかねない。先日変えたばかりの、真新しい穴ぼこチーズみたいなスポンジを握り締め、僕は盛大な溜め息を吐いた。

 旅行から戻って早々、土産話に花を咲かせる両親と、僕は目を合わせることができなかった。だって無理矢理だったとはいえ、僕は葉兄と、血の繋がった実の兄とあんな事≠してしまったんだ、両親の顔なんて見られるわけがない。それなのに、兄は何事もなかったかのように平然と会話ができるんだから悔しい。

「何なんだよ…クソぉ!」

 力任せに擦った浴槽の壁は、いつもよりずっと綺麗でピカピカになった。





 相変わらず両親は居ないが、学校がないから寝坊を許される日曜の朝。休みだというのに僕は、いつもよりもずっと早い時間に目を覚ました。見なきゃいけない番組があるからだ。

「あ、ガオガオジャー始まったぁ!」

 僕が休日に早起きをしてでも逃したくない番組。それは先週気になるところで終わった、戦隊モノの実写番組だ。
 子供の頃から僕は戦隊モノに目がなくて、絶対にこれだけは朝早く起きて見なきゃ気がすまない。それに今回は、僕の大好きなライオンや熊と言った動物がモチーフにされていて余計に興奮してしまう。

「ふあぁぁ、やっぱりパンサーブラックは味方だったねぇ! 悪そうに見えて実は良い奴、とかほんと何フラグだよ…って、」

 一瞬、頭の中を別の人物がよぎる。

「いや、ナイナイナイ、無いから。アレは良い奴どころか、本当に悪魔だったから」

 そう、それは二週間ほど前のこと。
 両親が家を空けた三日間。僕は実の兄の葉介によって力づくで組み敷かれ、この身を激しく抱き潰された。
 それは今までしてきた妄想のどれをも飛び越えて異質で、今度こそ事実で。
 スマホを壊されて、首を圧迫された。その間に投げられる言葉の半分も頭に入らず、これから振るわれるであろう暴力に震えた。
 僕のよりも遥かに大きな手で首を絞められ、涙が滲む。苦しくて、苦しくて、苦しくて。堪らず兄に縋りついて金魚みたいに口を動かしていたら、そこを兄の唇で塞がれた。

『ンぅうっ!?』

 そうして乱暴にスタートした情交は、しかしながら予想を裏切り酷く丁寧に進められた。
 巧みなキスに全身が熱を持ち、熱い舌と淫猥に動く指によって蕩けさせられた僕の躰は、抵抗も忘れあっと言う間に兄に従順になって…。

『あっあっ、や、ようにっ、』
『ケイ、力抜け。妄想でもヤってたんだろ?』
『むり…むりぃ! こんな…しらなッ』
『ほら、ゆっくり息吐け』
『はっ、はぁ…あ…ああっ、ひっ、ひあぁあ!』
『くッ』

 初めて見た、兄の艶めいた表情に躰が更に熱を持った。
 ゆさゆさと揺さぶられ与えられる痛みと快楽に、永遠に喘ぐ。喘いで、吐き出して、また熱を取り戻して、喘いで。僕らは男同士で、その上兄弟だということも頭からすっ飛ばして、空腹にも気づかず永遠に繋がっていた。
 そうして三日目には、自ら腰を揺するほど僕は、兄とのエッチに没頭していた。

「ダメダメダメダメダメッ」

 ブンブンと頭を振る。折角楽しみにしていた番組をリアルタイムで見ているのに、あんな恐ろしいことを思い出している場合ではない。だいたい、僕をあんな目に合わせた張本人である兄はといえば、あの日から今日まで驚く程いつも通りで、相変わらず僕を奴隷として扱ってくれる。あの事を気にする素振りも見せやしないのだ。
 何だか、気にしている僕が馬鹿みたいだ。だから、僕もあの三日間の事はもう考えないことにした。
 本当にとんでもない経験をしたし、実際忘れられるわけがないんだけど…でも、相手が無かったことにしようとしているのだ。僕だけ意識しているなんて虚しいだけじゃないか。だから全て無かったことにしてしまおうと、そう決めた。

 三十分番組は瞬く間に終わってしまう。

「あぁ〜終わっちゃったぁ…。来週まで待てないよぉ。みんなはいつ、パンサーブラックの本当の姿に気付くかなぁ。僕がブラックだったら、ギリギリまで裏切り者として裏で動くよね。だってそれって、孤独だけど凄く格好いいもん! あ、でもでも、敢えてそこでぇ」

 一人で物語の先を妄想していると、テレビから流れていた音楽が一気に色を変えた。

「あ! クレプリ!」

 クレイジープリティ、略してクレプリ。戦隊モノの後に待機している、女の子向けのアニメだ。小学生らしき女の子ふたりが、ナンヤカンヤと友情を深めながら悪と戦う感じのアレだ。

「これも楽しみにしてたんだよねぇ〜」

 初めは見る気なんてなかったのに、一度見てしまえば知らぬ間に虜になっていた。女の子用のアニメも侮れない。しかも今期は仲間が死ぬほど集まるらしい。

「そうだ、先週は友達がひとり増えたんだよね。これで遂に十三人!」

 テレビの前に寝転んで、オープニング曲を一緒に歌う。

「クレップリ♪ クレップリ♪ プリプリッ♪ フンッフフフンフフフフーン♪」

 やっぱり二次元の世界は最高に楽しい。僕をいろんな世界に連れいて行ってくれるし、性別も関係ないし、一時とはいえ全ての悩みから開放してくれる。
 ああ、何て幸せなんだろう…。そうしてうっとりとテレビを見上げたその瞬間。

―――ブツッ!!

「えっ!!」

 テレビの画面が真っ黒になる。

「なっ、なんで!? なんで、なんっ……」

 驚いて床から飛び上がれば、僕の隣にはリモコンを握り締めて立つ兄の姿が…。

「葉兄! なにすんの!?」
「テメェ…朝っぱらからうっせぇんだよ! くだんねぇモン見て騒ぎやがって!」
「やだ! 酷いよ返してよ! 楽しみにしてたのにぃ!!」
「うるせぇ! テメェにチャンネル権はねぇんだよ!」

 リモコンを取り返そうとするが、悔しいかな…身長の差がありすぎて、掲げられた兄の手に自分の手が全く届かない。

「やだやだやだぁ! 新しいクレプリが見たいぃぃ見たいんだよぉぉ!」

 まるで子供みたいに、床に伏せて手足をばたつかせる。完全にアニメの対象年齢に合わさってしまった僕を、兄は物凄く残念な目で見つめていた。

「クレプリが見たいよぉぉ〜」
「…だぁああっ! うっせぇなぁあッ!」
「うわぁあ!?」

 ジタバタしていたら、ふいに腕を掴み上げられた。勢いをつけて引っ張られた躰は、そのまま兄の腕の中へと飛び込む。そして、そのまま振り向いた顔を掴まれて…。

「ふンぅう!?」

 喚き叫ぶ僕の口は、あの日の様にまた、兄によって塞がれたのだ。無遠慮に入り込んできた兄の舌が、僕の口内を荒々しく掻き回し吸い付いて。

「ンッ、んぅ! んむっ、はぁッ」

 ぐちゃぐちゃに荒らされ濡れた唇を漸く解放され、大きく息を吸い込んで兄を見上げる。苦しくて、でも気持ちよくて、訳がわからなくなってる僕の視界は生理的な涙で世界を滲ませている。それでも、性格は置いておいてこの目の前の男は、我が兄ながら男前で本当に良い男だと思う。…見た目だけは。

「ホント、大物だよなテメェはよぉ」
「な…なに…」
「この間俺にあんなことされといて、アニメ見て楽しく歌って妄想してられんだもんなぁ? お前、どういう神経してんの?」

 なにそれ…。
 言われた台詞に驚きすぎて、僕は何も言い返せない。

「もう一回やってやるから、よーく覚えろよ? 妄想なんかしてる暇、与えてやんねぇからなぁ」

 あ、これ死亡フラグだ…。


 ◇


「あっあっあっ、ひやっ、あっ」
「すげぇな。アレから一回も触ってねぇのに、お前のここ、俺のこと覚えてるってよ」
「そ…そんなわけなっ、あっ! 奥ヤダぁあ!」

 兄の下生えがお尻に擦れるほど深く、深く突き刺されて、僕の息はもう絶え絶えだ。
 前の三日間は、丁寧に丁寧に躰を解されたのに、今日の兄は凄く乱暴で…いや、いつも乱暴なんだけど、乱暴なままというか。
 前回は多少感じることができた優しさが、今日は一ミリも感じられなくて。お尻の中の、ビリビリくる一点ばかりを擦ってきて、気持ち良さを通り越して辛い。だけど止めてくれないから、きっと、多分…兄は怒ってるんだ。

「なっ、なで…」
「あ?」
「だって…よに…ぜんぜっ」

 全然気にしてなかったのは、葉兄の方じゃないか。いつもみたいに僕を奴隷扱いして、母さん達とだって普通に話して。僕のことなんて、全然気にもしてなかったじゃないか。
 あんな…あんなエッチなこと…僕にしておいて。

「何だよ」

 グス、と鼻をすすった音に気付いて、兄が漸く腰を止めた。

「なに泣いてんだよ」
「だって…葉兄が無かったことに、しようとしてたんじゃないか!」
「…なに?」
「ぼ、ぼくは、母さん達と普通に話せなかった! 目だって合わせらんなかったのに、葉兄は普通で…なんにも気にしてなくて! いつもみたいに僕のこと、奴隷扱いするし!」

 もしかして葉兄は、僕を女の子の代わりにしてた?

「僕は葉兄の奴隷でもないし、オモチャでもないんだよ! …て、あっ、ヤダ! 何で今おっきくすんの!?」

 僕の中に入ったままの兄が、少し大きくなった。

「だってお前、叫ぶたびにケツ締めるから」
「さ、最低だッ!!」

 振りかざした手が、見事兄のほっぺたにぶち当たった。ベチンと小気味いい音を立てたそれに、兄が青筋を立てる。

「ッテェなぁ」
「ひっ、だ…だって!」
「お前は分かりやす過ぎんだよ。あんな挙動不審になられたら、こっちが普通にしてなきゃ勘付かれンだろうが」
「え、」
「大体、俺が今さら狼狽えるワケねぇだろ。今まで頭ん中で何千回お前のことブチ犯してきたと思ってんだ、このクソちび」

 え…、ブチ犯し…。

「まぁでも、妄想と生身じゃ比べもんになんねぇけどな。流石に頭ブッ飛んで、ついついヤリすぎちまったけど。お前も気持ち悪がって逃げ出すわけでもねぇし、むしろ喜んでるし」
「喜んでないよッ!」
「意識してんだと思いきや、忘れちまったように平然と歌うたうし。ほんとこっちが振り回されるわ」
「よ…葉兄…」
「あ?」

 もしかして…。もしかしてもしかして、もしかして…。

「もしかして葉兄…僕のこと、好きなの?」

 言ってから、それが失言だったと気付いた。ただでさえキツイ兄の目が僕の言葉で一気に吊り上がり、青筋はさっきの百倍増加した。

「お前の頭ん中は、黄色い穴ぼこスポンジで出来てんのかぁあ? ぁあ!?」
「ひぃぃッ!? アァっ! あ…あぁッあ…ぁ…ッ」

 油断していたところでガツンと一気に奥を突き上げられて、僕の視界に星が舞う。

「俺がテメェを性欲処理に使ったとでも思ったか!?」
「あ…あぁあ…ひ…」
「フザケたこと言ってんじゃねぇぞコラァ!」
「ひあぁぁああぁっ!!」


 こうして僕は、あの三日間よりも更に過酷な経験を積み、兄との新たな関係を築くのであった…。


END


2017/05/16






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