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- ナノ -
桐嶋玲一と言う男***


「ナナ、風呂に入っておいで」
「はいっ!」

 ルンルンと音がしそうなほどに気分良くバスルームに向かうナナヲを見送り、桐嶋は汚れた食器の片付けに戻った。その顔は笑顔である。
 ナナヲが可愛くて仕方ないのだと言う気持ちが、全身から溢れ出ていた。


 ◇


 桐嶋玲一、三十二歳。

 まだ二十代前半だと言っても誰も疑わない様な整ったその容姿は、芸能人であるナナヲよりも芸能人らしい。だが、彼は昔から自身の容姿が好きではなかった。
 美しいと称されるその造りは本人の意思に関係なく人が寄り付き、無下にすれば謂れのない嫌味を投げ付けられる。

 確かに行かずとも向こうから良い女は寄って来たが、本気になれるような相手は現れなかった。全てが淡々と進み、そこに情熱は生まれない。
 そう考えてみれば、良いことよりも遥かに妬み僻みを持たれるなど、意外と苦労する事の方が多かったのだ。

 芸能関係に携われば携わったで周りには自分に自信のある者が多く、プライドも高い為振り払うのに苦労した。その上、同性にまで誘われる様になった。
 欲で濁った目ばかり見てきた。
 だからこそ、なんの曇りも無い今時珍しい純粋無垢なナナヲの瞳に、桐嶋は一瞬にして心を奪われたのかもしれない。


【真っ白なお前を、俺の手で滅茶苦茶に汚してやりたい】


 潔癖そうな美しい男の頭の中が、そんな恐ろしい考えでいっぱいだと誰が気付けるだろうか…いや、Lumièreの社長だけは気付いていた。阻止することは結局できなかったのだが…。





「今上がりました! いい湯でしたぁ〜」

 大好きな風呂にゆっくりと浸かったナナヲは、はぁ〜と至福の溜息を漏らす。だが、そんなのほほんとした時間がすぐに終わることをナナヲは知らない。

「ナナ、おいで」

 いつもより何倍も甘い声で呼ばれ、ナナヲの身体は無意識に熱くなる。でも、風呂上りのナナヲはそれに気付かない。だから何の危機感も持たず、舌舐めずりする男の元へと無防備に向かってしまったのだ。
 これから何をされるとも知らずに。

「はい、お疲れさん」
「はい〜」
「ドラマの撮影も終わったし、やっとゆっくり出来るな」
「はい! 明日からの二日間は家に篭ります!!」

 ナナヲはいつも通り、ソファに座った桐嶋の足の間に嵌るようにして床に腰を下ろした。ナナヲが定位置に着いたところでドライヤーを当てながら、桐嶋の長い指がナナヲの髪を梳く。
 その優しい刺激が大好きなナナヲは直ぐに目を閉じ桐嶋に身を委ねた。だが…

 ビクッ

(んっ、?)

「どうした?」
「ぁ…いや、あの…ひやっ!」

 どうした? と聞いた癖に、桐嶋はナナヲの状況をよく理解していた。そりゃそうだ、ナナヲの変化は桐嶋が招いた事なのだから。

「んっ、ゃ…桐嶋さっ、擽ったいです」
「ナナは首が弱いんだな」

 擽ったいと身を捩るナナヲに桐嶋はフッと鼻を鳴らす。だがその元凶であるナナヲの首を撫でる指を止めることはしない。

「ぁっ、も…やめっ……ッ!!」

 止めて。そこまで言いかけたところで、桐嶋が持っていたはずのドライヤーが床に転がった。
 そう認識した瞬間にはナナヲの視界は桐嶋でいっぱいになっていた。

「ンむっ、んっ、ん…」

 上を向かされた顔はキッチリと桐嶋の手によって固定され、逃げることは許されそうにない。だが、ナナヲ自身も逃げるつもりなど無かった。
 あの日、二人の心が重なったあの時から…ナナヲは桐嶋に全てを捧げる覚悟が出来ていたから。

「ナナ…」
「ふぅっ、はぁ…ぁ、」

 ナナヲの細身のカラダがラグの上に倒される。その両側には、まるでナナヲを閉じ込めようとするかの様に桐嶋の手が置かれた。
 足りなくなった酸素を取り込もうとナナヲが仰け反る。その拍子に晒された首へ桐嶋が舌を這わせると、更にナナヲの瞳が甘さに蕩けた。

「桐嶋さっ、桐嶋さんッ」
「ナナ」

 ナナヲが何かをせがむ様に桐嶋を呼ぶ。それに答えるように首から唇を外すと、桐嶋はナナヲの柔らかい唇にちゅっ、ちゅっ、と啄むだけのキスを与えた。
 初めて進もうとするその先が怖いのかもしれない。だが、そうと分かっていても桐嶋の手は止まろうとしなかった。

 肌蹴た部屋着の裾から手を滑り込ませ、湯上りでしっとりとしている肌を撫でる。
 不安と期待で入り混じったナナヲは普段よりも敏感になっているのか、触れる度にピクピクと肌を震わせた。
 そんな小さな反応ですら、今の桐嶋の加虐心を煽ることなどナナヲが気付く訳がない。

「あっ、あッ! 桐嶋さん、それヤダっ」

 ボタンを外すことなく捲りあげられたシャツの下で色付く二つの粒。それをカリッと引っ掻けばナナヲはビクンとカラダを跳ね上げた。

「嫌じゃないだろ、ここが一気に反応したぞ」

 そう言って桐嶋が膝でナナヲの下半身を押し上げる。

「ぃあっ! やぁっ、あっ」
「ん…」
「んうっ」

 ぺちゃっ、くちゅっ、とナナヲの胸元から厭らしい水音をたてながら、膝で押し上げる事を止めない桐嶋。

「っめて、もう…あっ、桐嶋さん! あっ」
「ああ、もうグチュグチュだな」

 桐嶋の一言にナナヲの顔は今まで以上に真っ赤になった。

「ひっ、酷いです…桐嶋さんのばかぁッ」

 まだ直接的な刺激を与えられていない筈のナナヲの下半身は、もう既にあと一歩で絶頂を迎えそうな程に張り詰め、下着を通り越してズボンまで濡らしていた。
 唯でさえ恥ずかしいのに、それを指摘されれば泣けてくる。だが、ぐすっ、ぐすっと鼻をすすり始めたその姿さえ今は桐嶋のご馳走となった。

「よしよし、ほら泣くな」
「うっ、ぐす」
「ちゃんと全部やるから」
「ふぇ? …ひぁン!」

 泣いて油断したナナヲの下半身は、一瞬の内に曝け出させられ外気に触れていた。ズボンは申し訳程度に両足首に引っかかっている。が…もう無意味な存在だ。
 ズボンの中からは色の薄い、けれどもしっかりと大人を主張しているそれが飛び出した。
 それを見た桐嶋はぺろりと下唇を舐める。

「イキたいだろ? 直ぐにイかせてやるよ」
「ひっ!? うっ、ぅあぁあぁあっ!!」

 じゅっ、じゅぼっ、ジュボボボッ

 只でさえ弾けてしまいそうだったそれを容赦なく吸い上げられ、堪らずナナヲは欲を吐き出した。桐嶋の、口の中に…

「ぁっ、ぁふ…う、」

 滅多と自慰すらしないナナヲにとっては痛みにも似た刺激が全身を襲っていた。ナナヲの視線はウロウロと空中を彷徨っている。
 そんな殆んど意識を飛ばしかけた状態にも容赦の無い桐嶋は、吐き出されたナナヲのソレを口に含んだまま、まだ引っかかったままだったズボンを抜き取ると細く白いナナヲの足を肩に担ぎ上げた。

「ぁ、」

 人目に触れることの無いはずの奥まった場所が曝け出され、そこへ桐嶋の口の中の物を垂らされる。
 人肌に温まったそれは、じんわりとナナヲの奥に馴染み広がった。

「ナナ、気絶するなよ」

 ここからが、本当の宴の始まりだった。



 ◇


「ひぁっ、あうっ! やっ、やぁ!」

 散々桐嶋の舌で舐めあげられた其処は柔らかく解れ、今は指を三本まで咥えこんでいた。桐嶋の長い指は簡単にナナヲの良いところを見つけ出し悪戯に掠めていく。

 ナナヲは頭がどうにかなるんじゃないかと思う程に翻弄され、もう真面に言葉を発する事も出来ない。
 仰向けの状態で全てを晒け出し、奥の奥まで桐嶋に見られているナナヲ。その瞳は快楽の涙で潤み、蜂蜜のように甘く蕩けていた。

「堪らないな…」

 ドロドロに甘やかしたいのに、桐嶋の奥底では今すぐ泣き叫ぶ程に中を突き上げたい衝動に駆られる。
 三本の指を中で開くと、ナナヲの解れた其処が誘うように蠢いた。そのすぐ上には濃いピンクに色付いた男の象徴がトロトロになって揺れている。
 桐嶋の喉がゴクリと鳴った。

「ぁ…きりっまさ……も、ほしッ」

 そんな桐嶋を誘う様に…ナナヲの蕩けた瞳から一雫の涙が溢れ、“欲しい”と呟いた唇からは赤い舌がチラリと揺れて見せる。それを見た桐嶋の中で、何かがブツリと切れて落ちた。



「ぁああぁあっ!!」
「ッ、ナナ、少し力抜け…」
「痛っ、あ…はぁっ、はうぅ」

 散々時間をかけて解したはずのそこでも、桐嶋の興奮しきった物は大きすぎてナナヲに痛みを与える。

「くっ、ナナ…あと少しだけで良いから」

 余りの圧迫感にハッ、ハッ、と短い呼吸を繰り返すナナヲを見て、やっと桐嶋の中に慈悲が生まれかける。が、

「んうっ、ん、ぜ…んぶっ、ちゃんと…挿れて…? いっ、」

 そんな可愛いことをナナヲが言うものだから。

「ぃ"あ"っ!?」
「っ、…悪い、また育った」

 ナナヲの瞳から更に涙が溢れた。







 ギッ、ギッ、ギッ、ギシッ

 パンッ、パンッ、ぱちゅっ、パンッ

「あっ! はっ、ぁンっ…あっ、ひぁ」
「ナナ…ナナっ」

 リビングのラグの上で散々可愛がられたナナヲは、背中が痛いと泣いたことで今はベッドの上で愛されている。
 獣の様な体制で貫かれているナナヲの太ももには、既に幾度となく中に出された物が溢れ出て伝いベトベトに濡れていた。
 抽送を繰り返される入り口では泡立ってしまっている。そんな姿もまた煽情的に見えて、ますます桐嶋の劣情を煽った。

「はっ、くそっ…止まんねぇ」
「もっ…無理ぃっ、ひっ、あうッあっ、」
「ナナ、顔っ…上げろッ」
「んんっ、ンふ…んあっ、ひんッ!!」
「ッ!!」
「ふぁああっ」

 上からも下からもグチュグチュと粘着質な音がなり、更に胸の突起まで触られたらひとたまりもない。
 ナナヲは中に入っている桐嶋を強く締め付けながら、何度目か数えることすら出来なくなった絶頂に全身を震わせた。
 そのすぐ後に、ナナヲはカラダの中でも焼けるような熱さを感じた。それももう、何度目か分からなくなる程何度も何度も与えられた感覚だった。



 ◇



「…………」
「…………」

 恨めしげに布団から睨むナナヲに向けて、桐嶋が困った様に笑う。
 そんな桐嶋に嫌味の一つでも言いたかったナナヲだったが、残念ながら喘ぎ過ぎた後遺症で喉が枯れ…今は咳一つするのもキツイ状態だった。

「なぁ、そんなに睨むなよ」
「………」
「悪かった、本当に」

 先ほどまで自分を揺さぶりまくっていた男とは思えないほど、桐嶋は優しい手つきでナナヲの髪を撫でた。ナナヲがその行為を好きだと知っているからだ。

「四年前からずっと、ずっとお前に触れたかった。ナオキや五辻に嫉妬しながら我慢してきたから…つい、嬉しくて暴走した」

 ごめんな。髪を撫でていた指が、僅かに布団から覗いているナナヲの目の下をスッと擽る。

「負担かけて悪かった。頼むから機嫌を直してくれ」

 普段は絶対に見せない桐嶋の弱った顔にナナヲの気は思わず緩む。仕方ないなぁ、とでも言うように、ナナヲもまた眉尻を下げて笑ってみせた。

「許してくれるのか?」
「…………」
「そっか、ありがとな」

 お礼を言われたナナヲは、擽ったそうに布団に潜る。そこからはみ出た額に桐嶋は触れるだけの優しい口付けを落とした。

「カラダ、辛いだろう? ゆっくり休みな。休みの二日間、たっぷり甘やかしてやるから」

 声の出ないナナヲは、嬉しそうにコクリと頷いて返事をして見せる。やがて少ししてから、スースーと安らかな眠りに落ちたナナヲの寝息が部屋の中に広がった。

 よっぽどカラダを酷使したのだろう。ナナヲは深い深い眠りに落ちていた。
 だから、知らない。

「可哀想になぁ…お前、もう俺から逃げられないぞ」

 自分を死ぬほど愛する男が、隣でクツクツと喉を震わせ笑っていたことを…。



 あの拷問の様に与えられた快楽が、ただの暴走では無いことを。
 そしてあの喰い殺される様な交わり方こそが、この美しい男のナナヲを可愛がる本来のスタイルだと言うことを。

 夢の中のナナヲは、未だ知らないのだ。


END



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