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フローラルな駆け引き


「あ、香り付きが出てる」

 思わず手に取ったのは除菌シート。いつもの地味で如何にも潔癖そうなパッケージが、今だけ限定で花柄になっている。

 長年片想いを募らせていた相手と、隊に恋人として付き合うことになった。付き合うと共に、同棲生活も始まった。

 恋人の名前は純也、極度の潔癖症だ。
 付き合いも長いし、何から何まで知り尽くしていることもあって不便は無い。純也に合わせることで部屋の中が消毒の匂いで溢れることも慣れっこだ。
 けど、偶にふと思う。もう少しいい香りがしても良いんじゃないか、と。

 俺の見る限り、潔癖ってのは一種の思い込みの様なところが有ったりする。
 汚いと思うから汚いのであって、実際がどうなのかは余り関係ない。清潔そうな香り=消毒の香り、だなんてのは分りやすいけど、アイツ自身まで消毒臭いのはちょっとあんまりだ。
 手に取った限定発売の除菌シートを、そっと買い物カゴに追加した。




「何これ、いつもと違う」

 帰ってきた途端、種類の変わったソレに気付いた純也に俺は思わず苦笑を漏らした。
 俺が髪を切ろうが、服装をちょっと変えてみようがちっとも気付かない癖に、除菌関係の物には目敏く気付くのだから困ったものだ。
 絶対女の子に『私の事なんてどうでも良いんでしょ!』とキレられるタイプだ。『除菌と私とどっちが大切なの!?』なんてのは絶対聞いちゃいけない質問だ。答えは“除菌”に決まってんだから…。

「今日買い物行って見つけたんだ。珍しいだろ?」

 除菌シートに香りがつくなんて、本当に珍しい事なのだ。種類は多種あるが、アルコール入りか、ノンアルコールか、除菌率が何%か、枚数は……なんて、何と言うか悲しいバリエーションの多さなのだ。そこに突如現れたフローラルな香りに、俺が思わず飛びついてしまった。
 チラッと純也を見ると、少しだけ物珍しそうにパッケージを見ていた。けど直ぐに興味を失ったのか、元あった場所に戻された。

 純也を喜ばすのは、中々に難しい。好きな人の喜ぶ顔を見たいのに、それを除菌シートなんかで見ようとするのはどうやら間違っていたらしい。


 ――数日後。

 日用品の買い足しのために無くなりそうなものを点検している時だった。

「あれ?」

 まだ買ったばかりだったはずの、例のあの除菌シートが殆んど無くなっていることに気付いた。俺が除菌シートを使うことはそんなにない。と、すれば後は純也しかいない。
 香り付きではない除菌シートは、まだまだ中身がたっぷりと残っていた。案外、言わないだけで気に入っていたのかもしれない。
 買い物リストに“フローラル追加”と書き足した。


 夕食を取った後、無香料の除菌シートを使う純也に新しく詰め替えた花柄のケースを振って見せた。

「これ、また追加で買ったきたからどんどん使って良いよ」

 気に入ったんでしょう? そう言うと純也はカッと顔を赤らめた。それを見て思わず口元が緩む。
 多分、男なのにフローラルな香りを気に入ったとかってのが恥ずかしいんだと思う。こう言うところが、無性に可愛いな…って思う。

「なんだよ、照れることないじゃん」

 クスクス笑っていると、突然純也に両手を掴み取られた。それをきょとんと見詰めていると、純也がそのまま口を開く。

「アレ、良い匂いだった」
「え? あ、うん」
「拭いた後の残り香も、良い感じ」
「うん、俺も好きだよ」
「でも、俺はユキの匂いが一番好き」
「んひゃ!?」

 純也が俺の手に、ちゅっとキスをした。

 俺が腰を抜かすのと、花柄のケースが床に落ちるのは同時だった。


END


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