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【SIDE:斎藤】

 告白を受けたのは、本当に気まぐれ。
 正直見た目のランクも中の中。中田が言うように、ザ・平凡。だけど、俺のことを“格好良い”と言った初めての奴だったから。

 今まで生きてきた十七年間、男なのに“可愛い”としか言われた事が無かった。
 自分でも自覚しているこの女顔。その上身長も低いもんだから、周りからは女扱いばかり受けてきた。
 口調を変えてみたって、「話さなければ可愛いのにね」ってなるだけで誰も男らしいとは言わない。それは友人もしかり。
 それなのにあの平凡、宮田優は、俺を“格好良い”と言った。だから、付き合ってみてもいいと思った。

 一瞬の判断だった。

 でも実際は付き合ったからって何も変わらなかった。いや、変えるつもりがなかった。ただ傍に置いて様子を見てみたかっただけかもしれない。それに対して宮田も何も言わなかったから、そのまま放っておいた。

 宮田からたまにメールが来る。
 もう家着いた? とか今何してる? とか当たり障りないこと。一度だけ、朝一緒に学校行かない? って来てたけど、返信を忘れて放っておいたらそれ以来誘われない。
 面倒だったからそれでいいと思った。

 昼間もいつものメンバーにアイツがひとり増えただけで、特に何ともない。帰りは、最初は途中まで一緒に来ていたみたいだけど、いつの間にか始めから混ざらなくなった。それに対しても、何も言わなかった。
 好きにしたらいいと思ったから。

 一ヶ月が経った頃、朝学校へ行くとなんか騒がしい。
 訝しげに周りを見ていると、崇に女みたいなやつが一人寄ってきて、こっちを見て何か話しているのが見えた。崇の顔色がちょっと変わった。眉間に皺を寄せてこっちに来る。

「ねぇコウちゃん、宮ちゃんと別れたの?」

 ――は?

「…別れて、ないけど」
「てことは、付き合ってるつもりはあったんだね」
「はぁ?」
「宮ちゃん、コウちゃんと付き合ってないって言ってるみたい」

 
 ――どういうことだ?


 あの日、俺は付き合っていいと言ったはずだ。それから一緒にいるようになったんだから、意味は伝わってたはずだ。なのに、付き合ってない…?

「昨日の放課後、みんなの前でそう言ったって」

 付き合っていると言えることは、確かに何もしていない。何もしてやってない自覚もある。だから、そう言われてもおかしくはないとどこかで理解してしまっているのに、何故だか頭は真っ白になってしまって言葉が出てこない。

「ボク、ちょっと宮ちゃんの教室行ってくるわ」

 そう言って崇が教室を出て行く。けど直ぐに戻って来て、まだ来てなかったと言った。
 自分からメールなんて送ったこともないし、変にプライドが許さなくて連絡は取らなかった。自分が動かなくても、先程から崇が動いてるから任せておく。だけどイライラは募るばかりで気分が悪い。

 昼近くになると俺は屋上に向かい、サボりに徹することにした。後ろからはいつも通り崇が付いて来る。
 屋上に向かう途中、どこかの教室に少し顔をだしているようだったけど、また直ぐに後ろに戻ってきた。

 屋上は、俺のお気に入りの場所。何かあっても気分がスッキリするから気に入ってる。なのに今日はずっとイライラする。
 別にあんな奴好きでも何でもない。付き合ってないって言うならそれで良いじゃねぇか。
 最悪な気分でフェンスにもたれ掛かっていると、中田が誰かを引きずりながら屋上に現れた。

 連れてきたのは、宮田優だった。
 思わず心情そのままに睨みつけてやる。だけど思いのほか真っ直ぐなその目を見つめ続けることは、困難なことだった。それから塚原と中田が、宮田に真偽を問い始めたのだが…


 ――――どうして僕を振ってくれなかったの?


 宮田の言葉に息を飲んだ。

 そう、確かにお前の言うとおり俺は、好きじゃない奴はキッパリ振る主義だ。相手に未練を持たれたくないから。期待を持たせたくないから。
 なのにお前の事は、好きじゃないのにOKした。好きになれる要素を見つけた訳でも無いのに、OKしたんだ。

 アイツが俺を好きになった理由。それが俺の主義を認めての事だったなんて、俺の行動を見ての事だったなんて。上辺だけ見ていた訳じゃないって、今更知ってしまった。きっと、だからこそ俺を“格好いい”と男として好いてくれたのだ。
 そんな奴、初めて出会ったのに。ずっとそれを求めて来たのに。

 今になって冷静に考えれば分かる。

 初めて俺の事を外見だけで判断しなかった相手の気持ちを、俺は最悪な形で踏みにじったんだ。だけどあの時は頭が真っ白で。

 元から口は上手い方じゃない。それがパニクれば余計、言いたいことは言えずに終わる。いつもは俺の言いたことを殆んど崇が代弁しているけど、今回ばかりはそうはいかない。
 結局屋上を飛び出していった宮田を追いかけることも出来ず、俺はその場にしゃがみこんだ。

 宮田を追いかけたのは、崇。俺は何をどうしたいのか。どうでもいい奴だと、好きにしたら良いと思っていたはずなのに。
 走り去る宮田を見て、無意識に引き止めようとした自分に気付いた。でも体は上手く動かず失敗に終わる。
 引き止めてどうしたいのかも分からないし、言いたいことも分からない。
 自分がどうしたいのか、こんなに分からないのは初めてで、しゃがみこんだまま無駄に地面を殴ることしか出来なかった。


 その時俺に出来たことは、たったそれだけ。


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