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 俺の村には、神が住むと言われる山がある。
 その山の奥深くには沼が有り、その沼を護るのがその『蛇神(へびがみ)』だと言うのだ。だが、その蛇神を見たものが居るのかと言われれば答えはNO。
 寧ろ、その奥深くに有ると言われる沼さえ見つけた者は居ないらしい。

 とは言え、何故かこの村はその蛇神の存在を強く信じており、作物が不作になったり干ばつに襲われる度にその神へ奉納を行う。
 普段から定期的に森の入り口へ供え物を置いてはいるのだが、この時ばかりは普段のお供えなどと訳が違う。言わば、生贄を捧げるのだ。

 しかも、齢十八の男を。


 ◇


 俺だって男として生まれ落ちたのだから無関係とは言えない。もしものことが有ったらと思い村の歴史書を盗み見たことが有る。
 生贄を捧げることは、何十年に一度しか無い時も有れば、一年に何度も捧げる時も有ったらしい。つまり簡単に言えば、村が苦しくなれば何度だって行うと言うことだ。

 俺が生まれてからこの方、そんな事が行われたことは無かったのだが…
 昨年より殆んど雨が降らず日照り続きで干ばつが酷くなった今年、村はもう限界だと判断され、生贄を捧げることになった。奇しくも俺が十八の年に、だ。

 内心気がきじゃなかったのだが、そんな俺の心配を他所に選ばれたのは、なんと村長の息子だった。名前は『リン』。

 小柄で、全体的に色素の薄い女みたいな奴。
 村の男の中には、リンを組み敷いてヤツのケツに自分の汚ぇイチモツをぶっ込みたい何て思ってる奴も居るって話だ。…気色わりぃ。

 生贄に選ばれたことは気の毒だと思うが、正直俺はリンが苦手だった。いや、嫌い、と言ってもいいかもしれないな。
 見た目から何から軟弱で、男の癖に男にチヤホヤとされている所がまず気に入らない。
それを気にもせず、寧ろそんな奴らに媚びた様な態度を取る姿がもっと気に入らなかった。だが、アイツを嫌う一番の理由はそれでは無い。

 アイツが向けて来る妙な視線が俺は大嫌いだった。
 絡みつく様な、全身を舐める様な…あの何とも言えない心地が気持ち悪かった。

 殆んどまともに口を効いたことは無いが、何故か気付けばアイツは俺を見ていた。
 目が合う度に睨み付けてやるのだが、軟弱な癖にアイツは絶対に目を逸らしたりしないのだ。結果、いつも俺が耐えられなくなり先に逸らすのだが、それもまた負けた様で悔しかった。


「篤史(アツシ)、祠へはお前も同伴しろ」
「はぁ!? 何でだよっ!」

 儀式は明日の夜、村の中心に有る祭壇で行われ、そのまま山の中に作られた祠へと生贄を連れて行くのだそうだ。

「祠までは達郎が行くんだろぉ!? 何で俺まで行かなきゃなんねんだよ!」

 達郎は、リンにご執心な村の男の一人だった。

「理由は分からんが、何でもリン様がお前を指名してんだとよ。お前があの子を嫌ってんのは良く知ってるけどよ、可哀想に…村の為に命捧げるんだぜ? 最後くらい願いを聞いてやれよ」

 確かに、修行をして来いだとかって話ではなく、経緯は知ら無いがリンは間違いなく殺されるのだ。そう言われてしまえば嫌とは言えず、結局明日の儀式の後、俺は松明係として達郎とリンを祠まで連れて行くことになった。


 ◇


 普段は立ち入り禁止として張られている縄を外し、森の中へと足を進める。
 ただでさえ夜の森など不気味だと言うのに、後ろからついて来る二つの足取りは重く鬱々とした雰囲気が増していた。

(くそっ、何で俺なんだよ!!)

 嫌いな奴とは言え、この後リンを置き去りにしなければならない。達郎とリンの、涙涙の別れを見るかもしれない事にも気落ちする。
 悶々とした思いの中、無我夢中で歩けばいつしか祠の前へと来ていた。ここまで来たら、やるしか無い。

「おい、着いたぜ」

 掲げた松明で祠の入り口を見るが、岩壁に埋まる形で出来ているそこは、枯葉や蜘蛛の巣まみれでどうにも不気味だ。
 ここへリンを置き去りにするのか…とため息を吐き、未だ黙ったままの後ろの二人を振り返った時だった。

「なぁ、おい……ッ!?」

 左側頭部に鈍痛。
 一瞬にして目は回り、体は重力の虜となった。
 自分が今、どの方向を向いて居るのかもよくわからない。消えゆく意識の中で見たのは、棍棒を持って血走った目を向ける達郎と…達郎の後ろで不気味に笑うリンの顔だった。







 ぴちょん…

 ぴちょん…


「ぅ……ぃつ…」

 暗い闇の中から俺を呼び起こすのは、鈍く痛む頭だった。
 まだクラクラと揺れる頭に霞む目を擦ろうとするが、腕が上手く動かない。その代わりにジャラジャラと不快な音が耳に響いた。

「ん…? ……??」

 漸く冴えて来た視界と思考に、俺はあっけに取られた。

「……!? ぇ、は!?」

 まず目に入ったのは自分の居る場所。
 壁は土や岩が剥き出しの洞窟の様な所で、自分の周りは鉄柵で覆われている。

「檻!? ここは祠ん中か!」

 その上動こうにも俺の両腕は手首の辺りから鎖で拘束され、膝を着いて座る形で吊るし上げられていた。

「何だよこれ!!」

 暴れても檻の中には鎖の音が響くばかりで、ちっとも逃げられる気がしない。

 何だこれ! 何がどうなってんだ!?
 パニックを起こす頭を何とかフル回転させて思い出したのが、最後に見たものの記憶。

 血走った目をした達郎と……リン!! そうだ、俺はあの二人に後ろから殴られて!

「くそ! くそくそくそっ!!」

 詳細は分からないが、二人に陥れられた事だけは理解できた。
 人生最大の大暴れをしてみるが細く見える鎖は思った以上に頑丈で、しかもよく見てみれば真新しい事が分かる。

「今日の為に取り替えやがったのか!!」

 生贄に逃げられては困るとわざわざ新品に取り替えたのだろう。
 その村の意思の強さにおぞましさを覚え、無意識に身体がぶるりと震えた。

「………?」

 一旦落ち着こうと身体を落ち着かせると静寂が生まれる。すると、その静寂の中で微かに、ほんとに微かに音がすることに気付いた。

「なんだ? ……足音、か?」

 もしや、もう蛇神が現れたのか!? 神が居るなどと信じては居なかったが、人の手で殺すので有ればもうヤられていても可笑しくない。だとすれば、餓死を目論んでいるか、後に別の方法で殺されるか…もしくは本当に『蛇神』が現れるかしかない。
 どの予想が当たろうとも、その時点で命は無い。思わずごくりと喉が鳴った。

 ゆっくり、だが確実に近づいて来るその足音に恐怖は募る。
 下手に叫ぶことも出来ず、ただただ闇の中、今から現れるモノの姿を見逃すまいと檻の外へ目を凝らした。

 ズッ、ズッ、ズッ…


 ドクン、ドクン、ドクン


 耳に心臓があるのかと言うほどに緊張が高まる中、ついにそれが姿を表した。

「なっ、」

 檻の外で、無表情に此方を見ているのは。

「テメェッ!! リンッ!!」

 目の前に立ったのは、この中に本来入るはずのリンだった。

「暗くて、寂しかったでしょう? ごめんね?」
「はぁ!?」

 ガチャリと檻の鍵を外し、中へと入ってくるリン。
 何だ? 助けてくれんのか? そう一瞬でも思った自分を殴り殺したくなる。
 目の前で見たリンの目は、まるで底なし沼の様に真っ暗だった。
 その暗い穴からドロドロの闇が這い出して来る様な恐怖に襲われ、俺は思わず身を固くした。

「あぁ…可哀想に血が出てる。暴れたんだね…」
「ッ!?」

 そう言ってリンは、俺の手首へと舌を這わせてきた。

「ぃ!? なっ、何すんだテメェ! やめろ!!」

 俺の制止なんか全く無視のリンは、ベロベロと気色悪く俺の手首を舐め回し、旨そうに血を舐めとっている。

「変なことしてんじゃねぇよっ! さっさとこれ外せ!!」
「なに、言ってるの?」
「…は?」
「君は、一生ここで暮らすんだよ、篤史くん」

 俺は言葉を失い、目を見開いた。

「君は僕の替わりに生贄になったんだ。でも安心して? 本当に生贄として殺させはしない。あんな迷信で、君を手放したりしないから…」
「な……ぇ?」

 意味が分からずポカンとしていると、リンが不気味に笑う。

「あぁ、どれほど僕がこの日を望んでいたことか…父様も、司祭様も馬鹿ばかりで本当に助かった。これでやっと、やっと君を手に入れられる…」
「おいリン、何言って…」
「君を手に入れる為なら何だってやるよ、何だって…ね」

そう言ってリンが俺の頬を撫でたかと思うと、その手は俺の着ていたシャツを力任せに引き裂いた。

「わぁあっ!?」
「はぁ…何て美しい身体だ」
「ちょっ、ちょっ、ひっ! ひぃ!?」

 女の様なリンの指が首筋から鎖骨、更にするりと胸の飾りを掠めると、今度はそこへ舌を這わせた始めた。

「ひっ、やめろ! やめっ、ぁあ!?」
「んふっ、ちゅぐ、あぁ…夢みたいだ…あぁぁ…」

 恍惚とした表情で勝手に人の乳首を舐めまくるリンに、俺は全身の毛が総毛立った。

(くそっ! くそっ! 何なんだよこいつ!!)

 そうして遂に、リンは俺のズボンへと手をかけた。何をするつもりなのかはもう何と無く分かり、必死に下半身だけを暴れさせて抵抗する。

「嫌だっ! 止めろよこのクソ野郎!!」

 俺の怒声虚しく、リンに下半身を曝け出されそうになったその時。

「こらこら小僧。私の嫁に何をしておるんじゃ」
「「っ!?」」

 不可抗力ながら、リンと同時に声のした方に目を向けた。

「誰だ!!」

 先に声を上げたのはリンだった。普段のあのか弱い雰囲気は何処へ行ったのか、全身からドス黒いオーラが出ている。

「なぁにを言っとるんじゃ、お前らが私を呼んだんじゃろが」

 前髪パッツン、ふくらはぎ程まである長い髪は真っ白で、肌も異様に白い。纏う着物まで白く、全身真っ白だ。
 整った容姿は人形の様だが、リンとは違い女々しさを感じさせず性別が男だと分かる。全身から怪しさが滲み出ているが、一番の特徴はその目だった。
 一際目立つ真っ赤な瞳の中で、縦に開いた瞳孔。

「へび……がみ様?」

 俺の口からぽろりと漏れた。

「そうじゃ。お前が今回の供物なんじゃろ? そこのちっこいの、神への供物に勝手に触れるでないわ馬鹿者が」

 蛇神だと言うその真っ白な男は、檻の中へ入らずして指をひょーいと檻の外へ向けただけなのに、リンの身体が俺から離れ外へ飛んで行った。
 そうして真っ白な蛇神は檻の中へと入って来ると、吊り下げられたままの俺を上から下までじーっくりと観察してこう言った。

「うむ、この丈夫な身体なら上手く子も孕めるじゃろ」
「はぁあっ!?」

 その不穏な発言に反論する間も無く、別口からチャチャが入る。

「ふざけるなぁぁあっ! そいつは僕のモノダァア!!」

 まるで気が触れた様に蛇神へと突進して来たリン。
 しかし再びひょいと動かした蛇神の指の動きの通りに吹っ飛んだリンは、今度こそ壁にぶつかり気絶した様だった。

「さてと、行くかの」

 蛇神の指が今度は俺の額にデコピンを食らわすと、俺の意識はあっという間に闇に包まれた。


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