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「朱里、時間だ。行って来い」


 あの日、俺たちの生徒会は理事長によって解散を言い渡された。
 
 この学園には、ここ第一棟を始めとする校舎が第四棟まで存在しており、色々な理由で第一棟を離れた生徒は二〜四棟に振り分けられるのだと、あの事件の直後に理事長から打ち明けられた。

 それを知っているのは理事長と教員のみ。生徒たちは誰も知らない。
 会長、副会長、書記、庶務の五名は第三棟へと移動を言い渡され、皇太陽は有無を言わさず退学となった。
 もちろん、それを言い渡された時も何か喚いていたけど、その言葉に耳を傾けるものは誰もいなかった。あの、生徒会役員でさえも。



 俺は和美ちゃんの言葉に背を押され、学園の正門へと足を向けた。
 外はとてもよく晴れていて、心地よい風は秋の訪れを教えてくれる。少しずつ色を変え始めた木々の下を、一人の生徒が歩いているのが見えた。

「副会長!」

 日差しを浴びて煌めく柔らかそうな髪が、風に揺れていた。俺の呼び声に歩みを止めたその背に走り寄る。

「本当に、辞めちゃうの…?」

 副会長の手には、ちょっとしたお出かけには大きすぎる荷物が握られていた。
 理事長から移動を言い渡された会長たちは、当然ながらこの学園の仕組みを教えられた。
 例え過ちを犯してしまってこの第一棟を離れても、もう一度第三棟でやり直すことが出来るのだ。だけど、副会長は…。

「真っ直ぐなお前には…分からないかもしれないね。僕の歪んだ心など」
「副会長!」
「僕はね、例え場所を変えたって、ここに居る限り何度でも過ちを犯すことになる。これは間違いようのない事実なんだ」

 遠い場所を見ている彼の目には、一体何が見えているのだろうか。

「副会長は、俺のこと勘違いしてる。俺は真っ直ぐなんかじゃないし、まして純粋でもないよ」

 向けられることの無かった彼の目がやっとこちらを向いた。

「俺ね、辛かったよ。皆が側を離れちゃって一人で仕事してた時、本当に辛かったし寂しかった。だけどね、途中からは違った。皆が、戻って来なくて良いって思ってた」

 副会長が大きく目を見開いた。

「和美ちゃんと一緒に居られることが、二人でいられる時間の方が大切になってた。気付いたら皆の事忘れちゃってて、寧ろ、戻って来たら和美ちゃんといる時間を壊されちゃうって思った。俺だってみんなと一緒だよ」

 誰もが自分の事を優先に動いたことで、今回の騒動が起きたのだ。

「それでも、お前は真っ直ぐだよ」

 副会長が、逃げずにしっかりと俺を見ていた。

「知らないだろう、皆が本当は誰を見ていたのか」

 俺の怪訝そうな顔をみて、「やっぱりお前は綺麗だね」と、副会長は柔らかく笑った。

「お前はそのままでいてよ。僕たちの分まで、ずっと綺麗でいて」
「副会長?」
「お前と生徒会が出来てよかったよ、ありがとう朱里。…ごめんね」
「副会長っ!!」

 意味を全く理解できない俺を置いて、副会長は再び背を向けて立ち去っていく。だけどその背中は、先ほどとは少し違って見える様だった。
 寂しそうだけど、前に進んでいる感じ。頼りなさなんて感じさせない、かつて俺が見て来た背中。

 俺はそれを…
 引き留めることは出来なかった。


 ◇


「止められなかった…」

 生徒会室のソファで落ち込んで臥せっている俺の隣に、和美ちゃんが腰を下ろす。

「何か言ってたか?」
「俺は真っ直ぐだって…そんなじゃないのに」
「……そうか」
「あと、俺は知らないだろうって。皆が本当は誰を見てるか知らないって言われた。そのままで居て欲しいって、どういう意味か分かんないよっ」

 副会長が言う意味が分からない。彼は一体何を言いたかったのだろうか。再び落ち込んだ俺の頭を、和美ちゃんが優しく撫でた。

「朱里、それはもう忘れて良い」
「……どうして?」
「あいつはお前に分かって欲しくて言ったんじゃないさ。寧ろ知らないでいて欲しかったんだろうよ」

 その言葉で、和美ちゃんは何かしら知っているのだと悟った。
 知らないことは罪では無いのだろうか。みんな、苦しんでいる様だったから…。でも、あなたがそう言うのなら。

「じゃあ………忘れる」
「あぁ」

 ちょっと不貞腐れた俺に和美ちゃんは優しく笑って、いつもみたいに俺の髪をくしゃりと混ぜた。




 新生徒会が発足され、俺は指導者として残ることになった。
 あまり頻繁に出入りはしないが、指導を求められたり人手が足りない時には手助けに入る。
 まぁ、結構良いように使われて気もしないでは無いが…それでもやる気が出るのは。

「お疲れさん。今日はパウンドケーキだぞ」
「わぁい! じゃあ紅茶入れてくるね!」

 場所は生徒会室から生徒指導室へと変更になったが、相変わらず続いているこの甘い甘い蜂蜜みたいな時間のお陰かもしれない。


END



※庶務は鈍広を、副会長は会長を、書記・会長は朱里を。そして鈍広は蜂川を。
皆、それぞれの気を引きたくて起こした騒動。



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