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好きと言うこと。***



「元気無いなぁ、どうかしたぁ?」

 ここ最近元気の無い後輩に声を掛けた日置修二。だが、後輩から零れ落ちた言葉を拾い、彼は声を掛けたことを心底後悔した。

「佐和先輩、僕のカラダが目当てだったのかなぁ…」
「ブッッッ!!」


 ◇ ◇


「え〜っと…、何でそうなった?」

 日置は吹き出したジュースを手で拭いながら、何とか平静を保って問いかけた。何故なら、隣の後輩は冗談でも何でもなく真剣な顔をしていたからだ。
 高校時代からの後輩である成美潤は、日置のお気に入りでもあり、親友の佐和要の恋人でもある。

 日置自身の恋愛は至ってノーマルであるが、親友と後輩が結ばれたことは心の底から嬉しく思っている。そして佐和の片思い時代をずっと隣で見て来た彼としては、佐和がカラダ目当てで成美と付き合う何て事は絶対に有り得ない話だ。
 だから「そんな訳ないだろう」と笑い飛ばしてみようかと思ったが、隣で落ち込む成美を見たらそうする訳にはいかなかった。

「アイツ、口は悪いけどそんなことする奴じゃないよ? それはナルナルだって分かってんでしょ?」

 佐和が成美を想うように、また成美も佐和を想っている。だからこそ日置は成美の口からそんな発言が出たことに驚いた。

「分かってるんです。分かってるんですけど…」
「うん?」
「先輩、僕に会うといつもエッチなことしかしないんです」

 日置は再びジュースを吹き出した。

「え"っ!?」
「しかも先輩ってば、エッチしたら直ぐに寝ちゃうんですよ」
「えっ、え…はっ!?」
「僕だって分かってるんですよ、佐和先輩が忙しい事は」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って」
「勉強も大変だし、バイトだって辞めてないし、それにサークルもちゃんと出てますし。でもだからって、エッチだけしてサヨナラなんて寂しいです。僕、もっとデートとか、外に出られないなら家でDVD観たりとか…一緒にまったりしたいんです」

 日置は唸り声をあげ頭を抱えた。
 成美の主張はよく分かる。カラダばかりを求める行為は、恋人の不安を煽るに決まっている。そう、それは理解できるのだが、何にしてもそれを口にしたのは今までずっと可愛がってきた後輩であり、男の子である成美なのだ。
 その上成美潤と言う青年は未だに少年の様な雰囲気を持っており、どこかおぼこい。彼の容姿を馬鹿にする者が多く、友達が余り居ない事が余計にそうさせているのかもしれないが…。

 そんな擦れたところの無い初心な彼から、「セックス」では無いにしろ「エッチ」だなんて単語が出ることに日置は驚愕を覚えた。
 日置は大きな溜め息を吐くと、「ナルナルも大人になっちゃったかぁ…」としみじみ呟いた。それをちゃんと拾った成美は、一瞬にして顔を紅く染め上げる。

「ごっ、ごめんなさい先輩! 僕っ、」
「良い良い、良いよナルナル」

 泣きそうな顔をして謝る成美の頭をポンポンと叩いてやり、にっこり笑って見せれば成美は漸くホッと息をついた。

「うん、ナルナルの不安はよく分かった。全くアイツは…どうしてこうも不器用かな」

 幼馴染と言うには短いが、単なる友人と言うには味気ない程度に日置と佐和の関わりは長い。
 昔から勉強もスポーツも人間関係も、兎に角何でもそつ無くこなす男前、佐和要。
 そんなハイスペックな人間で有りながら、成美に関してだけは酷く不器用になってしまう男を思い浮かべ日置は苦笑した。

「それ、本人には言った事ある?」
「いいえ、なかなかタイミングが無くて…」
「じゃあ取り敢えずそれを伝えるのは置いといて、ちゃんと要の気持ちを聞いてみない?」
「佐和先輩の、気持ちですか?」
「どうせアイツ、恥ずかしがって碌に気持ちを口に出してないんでしょ」
「恥ずかしい? 佐和先輩が?」
「要の奴さ…あ、いやいや、やっぱここは本人の口から聞かないとね!」

 そう言って日置は成美の耳に顔を寄せ、こっそりと作戦を提案した。

「で、そのときに………、………」
「ぇえ!? そ、それバレませんか!?」
「だーーいじょうぶだって!!」


 ◇


 日置が提案した作戦は至って簡単。
 ただ単に、日置と佐和との会話を成美が盗み聞きすると言う話だった。そんな簡単な話なので、作戦はその日の内に決行された。

 盗み聞きの現場は、本日の活動が休みのテニスサークルの部室。そんな誰も居ない部室の中で、長身の男が二人立っていた。

「話ってなんだよ、早く帰りてぇんだけど」
「まぁまぁ、ちょっとだけで良いからさ! それに、これは一応ナルナルの為でもあるんだから」
「……ナルの?」

 成美の名前が出た途端態度を変えた男に日置は思わず吹き出しかけるが、そんな衝動を何とか抑え日置は簡易のベンチに佐和を促し腰かけた。

「で、順調なの?」
「なに?」
「二人の関係だよ。お前は親友、ナルナルは大事な後輩! これでも俺、色々心配してんだからな?」

 本当に心配げな顔をした日置をチラリと見た佐和は、ふっと息を吐き床を見つめた。

「上手くいってる。殆んど毎日会ってるし」
「毎日会って何してんの?」
「野暮な事聞くんじゃねぇよ」

 少々照れたような声音で紡がれた言葉から、日置は成美の主張と一致したことを確認した。

「なぁ要、お前ナルナルの事どう思ってんの? ちゃんと好きなの?」

 そんな日置の問いかけに、佐和は目を見開き些か怒りを滲ませた。

「は? お前何言ってんの?」
「怒んなって、俺も真面目に聞いてんの。まさか、会ってはエロい事ばっかやってんじゃないだろうね」
「…………」

 急に黙り込んだ佐和に日置は態とらしく溜め息を吐いた。

「あのなぁ要、幾らナルナルが可愛いからって、エロい事ばっかやってたら勘違いされるよ?」
「勘違い?」
「そ。カラダ目当てなんじゃないか、とかさ」
「馬鹿言うな!!」

 ガタンと勢いよく立ち上がった佐和は、見なくても分かる程激昂している。

「落ち着けって、例え話なんだから」
「例えだって有り得ねぇだろ! 大体、目当てにする程アイツはすげぇカラダなんかしてねぇよ!」

 その瞬間、今度はロッカーのひとつがガタンと音を立てた。
 ネズミだろ、と日置は誤魔化したけれど、内心爆笑したい気持ちでいっぱいだった。

「だったら何でそんなガキみたいにガッツいてんの。もしナルナルが不安に思ってたらどうすんの? デートだってしたいかもしれないでしょ」

 日置の言葉に、佐和は罰悪そうに俯く。

「すげぇカラダだとか、そう言うんじゃねぇけどさ…どうしようもねんだよ。勉強に追われて、バイトとサークルで時間に追われてさ…疲れて家に帰ってナルの顔見ると…堪んなくなんだよ」

 そのまま佐和は力なくベンチに座った。

「会う直前までどっか連れてってやるつもりだったのに、ナルを見た瞬間全部飛ぶんだ。未だに俺のモンになったなんて信じらんなくて、時間のある限りナルを喰い尽くしたくなる。俺から離れらんなくなるように、アイツに覚え込ませたくなるんだ」
「……好き、なんだな」
「当たり前だろ、好き過ぎて堪んねぇよ」

 それを聞いた日置は肩を揺らして笑った。

「疑ったりして悪かったよ、ごめん。でもまぁ分かってよ。俺にとってもナルナルは大事な子なんだ、悲しんで欲しくない」

 日置がそっと佐和の肩をポンと叩けば、佐和も「分かってる」と言って笑った。

「今日バイト無いんだろ?」
「ああ、」
「じゃあ、早く帰ってやんないとね」

 もう一度佐和の肩をポンポンと叩き立ち上がると、時間を確認した佐和も慌てて立ち上がった。

「やっべ、もうナルが待ってるかもしんねぇ」
「よし、さっさと帰ろう」
「あ、部室の鍵」
「良い良い、後で後輩が閉めに来るって言ってたから」
「ふーん?」

 不思議そうな顔をしながら出て行く佐和に付いて、日置も部室を出た。少しだけ歩いた後にひっそりと後ろを振り返れば、慌てて部室から走り去っていく成美の姿が見えた。
 少しだけ目をこすっている様に見えたから、もしかしたら泣いていたのかもしれない。

 でもきっと、それは悲しみの涙なんかじゃないはずだ。

 愛しいからこそ暴走してしまう親友と、愛しいからこそ不安になっていた後輩。そんな二人を見ていたら、日置はいつも素っ気ない態度の彼女に会いたくなった。

 誰よりも好きなんだ、と…
 今、無性に伝えたくなった。







「遅くなってゴメンなさい!」

 成美は部室の鍵を閉めた後慌てて佐和のマンションへ走ったが、矢張り佐和よりも先に帰ることは難しかった。

「あ、あの……っ、」

 そんな成美は玄関へ飛び込むなり、何か言う前に佐和に抱きしめられた。
 佐和の指は的確に成美の性感帯をなぞって行き、また今日もいつもの流れに持ち込まれようとしている。でも…

「先輩…」

 成美は一切抵抗しなかった。その代わり、いつも佐和の胸に押し当てて体を引きはがそうと働く自身の手を、今日は佐和の背中へと回した。

「ナル」
「先輩…先輩……んっ」

 噛み付くようにして奪われた唇。だけどそれは成美にとって、今までで一番蕩けそうな程甘く感じた。

「んっ、んむ…ん、せんぱっ、ぁむ」

 面と向かってだと、好きだなんて全く言ってくれない佐和。日置いわく“恥ずかしがり屋”らしい彼は、しかしながら奥底には成美に対して重過ぎる程の深い愛情を抱えているのだ。
 佐和が言わないのなら、自分がその分たくさん言えば良い。
 そう思った成美は、とろとろに溶かされた思考の中で何とか言葉を紡ぎ口にした。

「佐和、せんぱっ…ぁ、好きです、好きっ、…好き……ぁあっ!」

 ひたすら呟かれる言葉に目の色を変えた佐和。そんな佐和に、成美はいつも以上に深く甘く…喰い尽くされたのだった。



 ◇



「せんぱっ…も、抜いてください…」

 愛され過ぎてぐったりとした成美は、未だ中に入ったままの佐和に何とか訴える。だが、佐和はサラサラと成美の髪を撫でて笑むばかりだ。

「明日、サークル休んでデートするか」
「聞いてます? って、えっ! 本当ですか!?」
「ああ、偶には良いだろ」
「やったぁ! 佐和先輩だぁい好きぃあぁ"あっ!? ちょっ、ぃや、何でまた大っきくしてっ、ひぁっ!!」
「…可愛いこと言うお前が悪い」
「別に何も言ってなっ、ぎゃあっ! 先輩の馬鹿っ! 大したカラダじゃないって言ってたくせにぃ〜!!」
「はッ!?」


END



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