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×― 西と東 ―


「えっと、あの…この度は本当に、ありがとうございました」

 俺は頭をゴンッとテーブルに付けた。

「なぁに? 急に改まってぇ」
「気持ち悪いな」
「ねぇ〜」

 大学…ではなく、大学近くのカフェに二人を呼び出し、ずっと言いたかった事を口にすればこの始末。

「きもっ、気持ち悪いって! キモイより本気度高いだろ! ひでぇよ!!」
「だって、ねぇ?」
「ズゴゴゴォーーッ」
「東! もう飲むもん無ぇよ! 吸いすぎだよ!!」

 真面目な話をしているのに、西はダラダラするし東はアイスティーすすり過ぎだしでちっとも話にならない。

「もうっ、ちゃんと聞けってば! は、恥ずかしくて直ぐに言えなかったけど、俺、お前らにはすっげぇ感謝してんだからっ」

 あまりの恥ずかしさに二人の顔を見れず、俯きながら言えば何故か前に座る二人からは沈黙が流れる。

「……?」

 沈黙に耐えられずチラッと様子を伺うと、

「〜〜〜ッ、笑ってんなよ!!」

 ブンっと、西と東の間にお手拭きを投げつけてやるが見事に二人はヒョイと避ける。

「笑わせてよ、俺達嬉しいんだからさぁ」
「そうそ、アイツと一緒の時は辛気臭い顔ばっかしてたからな」
「辛気臭いって…」

 そんな風に思われてたなんてショックだ。

「失礼します、アイスコーヒーのお客様」
「あ、こっちでーす」

 小綺麗なウエイトレスのお姉さんが、東を指差す西を見て顔を赤らめた。
 お姉さんが空のグラスを回収し、ぺこりと頭を下げて遠ざかったところで俺はこそりと呟いた。

「綺麗な人だったな」
「そだねー。はい」
「ん」

 西が東にミルクを二つ渡す。

「そう言えば、西、彼女は?」
「んー? 別れたよ」
「え、いつ!?」
「結構前かなぁ」

 ミルク二つをアイスコーヒーに入れた東が、一口だけ飲んで思案した顔をする。

「はい」
「ん」

 西が今度はガムシロを一つ東に渡す。
 東は半分だけで入れるのを止め、無言で出した西の手にソレを戻した。西はソレを使い捨てのお手拭きで包みゴミを纏める。
 全部、会話無しで。

「すごい可愛い子だったじゃん、何で別れたの!? つーか西、これで何人目!? 全然続かないじゃん」
「んー…何かめんどくなって」
「め、面倒って…」
「んで、隼人と先輩はどうなったんだよ」

 漸く良い塩梅になったであろうアイスコーヒーから口を離した東が口を開いた。

「え!」
「もう付き合ってんのか?」
「えっ!?」

 一気に顔に血がのぼる。

「え、なに。まさかハーちゃん、バレて無いとか思ってたの? あんだけラブラブしてて? 超ウケんだけどぉ」
「隼人、天然入ってるもんな」

 ゲラゲラと笑う二人に、俺は火照った頬を自ら掌で包む。

「いや、その…まだ、答えてなくて」
「なんだよ、やっぱ先輩から告られてんのかよ」
「何でオッケーしないのぉ?」
「何でって! だって俺、最近まで昌也と付き合ってたんだぞ!? そんな直ぐに、乗り換えるみたいな事…痛ッ!」

 突然腕を伸ばしてきた東にデコピンを喰らった。

「このクソ真面目が。あんなもんに囚われんな」
「どう見たってハーちゃん、先輩にベタ惚れじゃん」
「うううぅぅ」

 ゴンッ

 俺は再び机に頭を打ち付けた。正直、西の言う通り俺は新太さんにベタ惚れだ。キスをされたあの日だって、本当は直ぐにでも全部奪われてしまいたかった。
 でも、怖かった。

 直ぐに受け入れたりして、淫乱な奴だと、軽い奴だと思われないか怖かった。怖いんだ、今でも。どれだけ大丈夫だと言われても、その恐怖が拭えない。

「なぁ隼人。何を心配してんのか知らねぇけど、あの人には全部曝け出して良いと俺は思う」
「東」
「知った風な口聞いて悪いけど、俺は新太先輩は信用できると思ってる」
「俺もそう思うよ。先輩、アイツからハーちゃん守る為に必死だったもん。あんなの偽善だけでは出来ないよ」
「西…」

 あの日から毎日、新太先輩は俺に想いを伝えてくれる。俺はその想いに、そろそろ抗えなくなってる。縋りたくて、側に寄りたくて仕方なくなってる。もう、限界だった。

「先輩も隼人と立場は同じなんだぜ」
「伝えてあげなよ、素直な気持ち」

 俺は唇を噛み締める。目を閉じれば、困った様に笑う新太さんの顔が浮かんだ。テーブルの上にある注文票を手に取り立ち上がる。

「俺、行ってくる。ここは払わせて」

 二人は同時にニヤッと笑った。だから俺もニヤッと笑い返す。
 そのまま振り返らず、俺は店を出た。

「もしもし新太さん…? 今日、俺の部屋に来られますか?」









「あーあ、行っちゃった」
「仕方ねぇよ」
「でも寂しい〜」
「まぁな。でも仕方ねぇんだよ」
「だよねぇ。だって俺たちハーちゃんのこと」
「「大好きだからな(ね)」」


「ところでアズ」
「あ?」
「彼女とはどう? 順調?」
「振られた」
「どうして」
「いつも通り」
「あらら」

 西が面倒になって彼女と別れるのも、東が「私と西くんのどっちが大切なの!?」と振られるのも…。

 この先まだまだ続くようだ。

END


番外編A



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