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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -
さよなら、またね。***
【登場人物】
★神楽 咲夜 (カグラ サクヤ) 弟(受)
高校一年
野球部所属 短髪 日に焼けた肌が健康的な印象

★神楽 浅葱 (カグラ アサギ) 兄(攻)
高校二年
ハーフっぽいモデル系の美形 高身長

★悠里 (ユウリ)
高校一年
咲夜の幼馴染
長めの明るい髪 見た目チャラ男 

全員高校は別の学校。



☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.☆゚+.



 ガチャッとリビングの扉が開くと、一人の男が姿を表した。

「あ! お邪魔してます!!」
「……いらっしゃい」

 俺の幼馴染である悠里が元気良く挨拶をすれば、無愛想ながらにも返す返事。
 冷蔵庫で冷やされたミネラルウォーターをコップに注ぎ一気に飲み干すと、また来た道を引き返す。

「じゃあ、ごゆっくり」

 そう持て成しの言葉をかけて、リビングから出て行った。
 俺には挨拶すらしないのに。

「はぁ〜、浅葱さんまぢでカッコ良いよなぁ!」
「……そう?」
「もぉ〜何言っちゃってんのこの子はぁ〜、自慢のお兄様でしょぉ? いーなー!!」

 半年前、突然紹介された母の再婚相手。
 俺の斜め前に座る、格好良くて優しそうな大人の男性。
 その隣、俺の前にはどっかの海外ファッション誌から抜け出して来た様な、恐ろしいほど綺麗な男が座っていた。

 その男を“お兄さんになる人よ”と紹介して幸せそうに笑っていたのは、母と、父になる人だけだった。

 それから直ぐ共に暮らす様になったけど、同じ家に暮らしているだけ。
 その、兄だと紹介された男とまともに会話した事は一度も無く半年が経った。

 それだけで分かる。
 自分に対してその男は嫌うどころか、なんの感情もない事が。

 存在しないものとして扱われる事が一番辛いと、初めて身に染みて感じた。


 ◇ 


 所属部は野球部。
 それなりに強い。
 だから結構厳しい。
 でも楽しい。

 そこそこ強豪と言われるウチの野球部に休みは殆んど無い。
 体はキツイし、練習は辛い事も多い。
 今だって夏休み真っ只中なのに、朝っぱらからみっちり練習があるのだ。

 だけど部員達はとても仲が良く、練習後の和気藹々とした空気が心地良い。

 プロを目指したいわけでは無く、そもそもそんな能力も無い。
 だけどどんな形であれ、楽しく、ずっと野球を続けられればそれで良い。

 そんな休日の部活中、顧問に急用が出来たとの事で夕方までのはずだった部活は昼過ぎで中止になった。



 予定より数時間早く終わった部活。
 滅多に無い休みに、部員達は浮き足立っていた。
 どっか遊びに行こうと誘われたけど、たまには家でゆっくりするのもいいかなと思い断って真っ直ぐ家に帰った。
 でも、それが間違いだった。

 玄関を開けると見知った靴が置かれている。

 (あれ、また悠里来てる?)

 昔からよくウチに出入りしている幼馴染の悠里は、最近とくに遊びに来る頻度が高くなった。
 しかも前までは俺の部活の終わる時間を聞いて、それに合わせて家へ来ていたのに、最近では帰ると既に居ることが多かった。
 また俺の部屋で暇つぶししてんのかな、何て思いながらも二階に上がる途中で微かな物音に気が付いた。

 話し声の様な、息遣いのような…

 この先に行ってはダメだ。
 今すぐ引き返せ。
 そう頭の中では危険を察知していた。

 ――きっと、何かが壊れてしまう。

 だけど体は止まらなかった。

 物音のしない自分の部屋を通り越し、手をかけたのはあの人の部屋のドアノブ。
 既に少し開いていたドアをそっと引き、その隙間から見えたものは…




 ベッドに腰掛けた兄の首に腕を回し、激しく口付けを交わす幼馴染の姿だった。



 ◇ ◇ ◇



「おい神楽、片付けは終わったか?」
「あ、はい。荷物殆んど無かったんで。今日からよろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそ」

 俺はあの時、そのままそっとドアを閉めた。
 そのまま立ち去って、夜遅くまで帰らなかった。
 帰った時には流石にもう悠里の姿は無くて、あの人とも顔を合わせる事は無かった。

 俺はその日のうちに、学校の寮に入りたいと母に告げた。
 野球をやるために決めた高校は家から通うには少し遠かった事もあり、部活に打ち込みたいんだと熱弁したら母は寂しそうながらも承諾してくれた。

 元々入寮に関しては母の再婚が決まる前から考えていた。
 でも母を一人にすることは出来なくて、ずっと保留にしていた事だった。
 再婚が決まったあとも、直ぐに言い出せば義父が気にするだろうと思い、言い出すタイミングを測っていたのだが…
 もう、あの家にいたくなかった。

 “兄”との仲は流石に母達も気付いている。
 だから、引越しに関してもギリギリまで隠しておいて欲しいと言えば何も言わずにいてくれた。
 自分でも最低だとは思うが、この時の俺にはこうするしか無かったのだ。

 悠里ともあれ以来会っていない。
 日に日に着信履歴に増えて行く彼奴の名前に、ひたすら目をつむり続けている。


 「お正月くらいは帰って来なさい」

 引越してから四ヶ月、一度も家に帰らずに居たことに痺れを切らせた母から電話が入った。

 流石に年末年始は部活も休みとなり実家に帰る者が多い中、それでも俺は迷っていた。

「何だ神楽、お前手首でも痛めたのか?」
「え? いや、あの…」
「たまには実家に戻ってゆっくりして来い。怪我を拗らせてからじゃ遅いからな。俺のと一緒に届けを出しといてやるよ」
「え、あっ…」

 否定する間もなく扉を閉めらる。
 右手首をさすっていた所を先輩に見られ、痛めたと勘違いされたのだ。
 実際は全く故障などなく、これは単なる癖だった。
 そう、丁度四ヶ月程前から出来た、癖なのだ。
 後を追うにも間を逃し、今更取り消しにも行き辛い。
 これで嫌でも寮から出なくてはならなくなる。
 ふぅ、とため息を吐き、着信履歴の『母』に指をあてた。




「あれ? 車がない…」

 久しぶりに家に戻って来てみれば、駐車場に義父の車が無い。
 帰ると連絡をした時に義父とも話したのだが、それはそれは嬉しそうだったので絶対に外出などせず母と共に出迎えてくれると思っていたのだが…
 少々訝しみながらも玄関のドアノブに手をかけた。

「ん?」

 鍵はあいているのに、物音が何もしない。
 妙に人気のない家の中に入ると、一番にリビングのドアを開けた。

「あ、れ?」

 電気は付いているものの部屋の中には誰もおらず、ますます謎が深まったその時。背後でドアの閉まる音がした。

「っ!」

 そこには、玄関へと続くドアを塞ぐように“兄”が立っていた。

「ぁ…」
「親父達なら居ない」
「え?」
「新婚旅行に行ってる。三日は戻らない」

 どうして…
 あんなに俺が帰って来ることを楽しみにしてるとか言ってたのに、このタイミングで新婚旅行って…何?

「俺がそうするように言った。その間にお前と話し合うって言ってな」
「なん…で……」
「これ、癖か」

 混乱している間にいつの間にか真ん前に立っていた兄は、また無意識にさすっていた俺の手を取った。

「癖になるほど、意識してるのか」
「………離せよ」

 この人にだけは気付かれたくなかったのに、気付かれないようにしようと思っていたのに。それさえも許しては貰えないのか。

「こんな癖、前は無かった。俺が掴んだあの日までは」
「違う! 関係無い!!」

 この家から出たあの日、二人きりになった玄関で掴まれた右手首。
 何も言われていない。
 ただ強い力で手を掴まれ、じっと無言で目を見つめられていただけなのに。両親が呼びに来た事で離された俺の右手は、あの日からずっと疼いて仕方ない。

「言えよ、気になるって。気になって気になって仕方ないって」
「煩いっ! 離「言えっ!!」」

 掴まれた手を軸に床に放り投げられ、受け身も取れずに冷たい床に転がる。
 立ち上がる隙も与えられずに、兄は仰向けに倒れた俺の上に覆い被さった。

「何すんだよっ!退けよ!!」

 幾ら普段から鍛えていても、この態勢から大の男を押し退けるのはそう簡単なものではない。
 床に縫い付けられた手はもがいてもビクともしない。

「初めて会った時から、お前は俺を見ていただろ。俺がお前を見ていたように」
「違うっ」
「もう無駄だ。均衡はとっくに崩れてる。お前が…この家を出た時にな」

 知ってるか? 親父は未だに子供離れ出来ない親バカぶりだ。
 俺の一言でこの家族関係をどうとでも出来る。

 ――母親の幸せが大事だったら、大人しくしていろ

 その言葉で俺の身体は、まるで魔法をかけられたように動かなくなった。




「ひっ、ぃあ…ぅ、あっぁあ、あっ」

 深い闇に呑まれて行く

「あぁ! やっ、やめっ」

 (本当にやめて欲しい?)

「はっ、んんっ…ぃやっだ」

 (本当に嫌なの?)

「ぅあっ…はっ、ァ…」
「お前は俺のものだ」
「ぁっ、ぁっ」
「他の誰のものにもならないと誓え」
「ひゃっ!? あっ、んぁあっ!!」

 感じたものは、嫌悪か、歓喜か。
 流れる涙は、狂気の色を映した。




 ◆



『家にいる』

 突然連絡が取れなくなり家まで出てしまった幼馴染から、ただ一言メールが届いた。
 久しぶりに訪れた幼馴染の家はインターホンを押しても誰も出てこず、仕方なく勝手に玄関へ入ってみるものの薄暗く人気が無い。
 おじさんやおばさんは何処に居るのだろうか?
 寮から全く帰ってこないと嘆いていたのだ。
 戻る日にあえて外出するだろうか?

「咲夜?」

 リビングのドアを開けるがやはり誰も居ない様なので、訪れ慣れた彼の部屋へと足を向けた。

「咲夜」

 彼の部屋のドアをノックするが返事がない。
 そっとノブを回せばそれは簡単に開き、無人の室内が視界に入った。
 暫し呆然と部屋を見渡すが、静まり返った室内に物音が響く。

「隣の……部屋…」

 嫌な予感しかしなかった。
 ノックもせずに、あの男の部屋の扉を開ける。

「っ!!」
「思ったより、来るのが早かったな」

 ベッドの上にはぐったりと横たわった咲夜と、その咲夜の髪を撫でる浅葱の姿があった。反対の手には咲夜の携帯が握られており、先ほどのメールはこの男が送ったのだと理解する。
 咲夜の顔にはくっきりと涙の後が付いており、かけられた布団から出ている身体をみれば身に何もつけていないことが嫌でも分かる。

「あんたっ、何を!」
「“あんた”、ね」

 クスリと笑う声が癇に障った。

「どうしてっ!」
「静かにしろ。咲夜が起きる」

 浅葱の指が、咲夜の晒された肌を滑る。

「お前の浅知恵など、俺の計画には歯が立たないって事だ」
「計画…?」
「そんなやっつけ仕事で揺らぐ様なものじゃない。なんせ、三年も前から練ってきたんだ。実行出来たのは、二年前だけどな」

 その言葉にゴクリと唾を飲んだ。
 浅葱と咲夜が出会ったのは、両親の再婚が決まった一年前では無いのか。
 浅葱とは中学も高校も違う咲夜と、一体どうやって知り合うことが出来たのか。

「そうだな…一つだけヒントをやる。二年前、こいつの運命が決まる出来事があったはずだ。家族同然だったお前なら知っているだろうな」

 二年前、二年前、二年前…俺は必死で頭を働かせた。



 ◇ ◇ ◇


「どうしたの?裕子さん、咲夜」

 中学二年生だった二年前。
 休みの日に幼馴染を訪ねてやって来ると、二人は酷く落ち込んでいるようだった。
 
「恥ずかしい話なんだけど、私ね、今日突然解雇通知を受けたのよ」
「理由は経営不振だって話らしいけど、先月はボーナスも結構出てたし…何でそんな急に……」
 
 二人は突然の事に頭を抱えていた。
 親父さんは咲夜が幼い頃に病気で亡くなっている。
 それからと言うもの、裕子さんが女手一つで咲夜を育てて来た。
 裕子さんも頭のいい女性だったから仕事にも恵まれ、子供の俺から見ても会社に必要とさるていると感じていたので尚更信じられなかった。

「俺、親父たちに聞いてみる! 何か紹介出来るかもしれないし!」

 毎日豪遊出来るほど裕福では無かったが、俺の両親は共に会社の役員で生活もそれなりだったから、きっと何かしらツテが有るだろうと思っていた。
 けれど、始めこそ協力的に仕事を探していた両親は何故か突然その手を止めてしまい、ただ「ごめんね」と首を横に振るだけになった。
 子供ながらに不審に思うものの、何も出来はしない。
 そうして裕子さんに仕事が見つからないまま三ヶ月が経った頃、突如状況は変化した。

「母さんに仕事が見つかったんだ! それも、社長秘書で給料も凄く良い!」

 降って湧いたような朗報に、追い詰められていた俺たちは飛びついた。
 良かった、本当に良かった。
 もしかしたら仕事の都合で彼等と離ればなれになってしまうかもしれなかったから、俺は本当に嬉しかった。

 どんなことをしてでも側に居たい大切な存在を失わなくて済む。
 その時の俺は、目先の幸せに目が眩んでしまっていたんだ。

 それから間も無くして裕子さんは社長と恋に落ちる。
 その一年後、彼らは結婚へと進むのだ。

「ま……さか…」
「溺愛する息子が、人生の全て」

 俺は全身に鳥肌が立つのが分かった。

「母が欲しいと呟けば再婚を考え、あんな弟が欲しいと呟けば、彼女を女として見始める。単純な親父で嬉しいよ」

 肩まで滑らせた指を、咲夜の唇へと戻し親指で撫でる。
 
 初めてこの男を見た時から嫌な予感がしていた。
 咲夜を見る目が、他と違っていたから。
 どうにかしてその目を他所へ向けなければ、この男から咲夜を守らなければと必死だった。
 でも、そんな俺の足掻きは無駄だったのか…

「俺の目的に気付いたことは褒めてやる。だが諦めろ。母親の事がある限り、こいつは俺から離れられない」

 そうして暗く瞳を光らせたその男は、俺の前で咲夜に深く口付けた。



 ◆




「すまなかったね、咲夜くん。騙すような事をしてしまって…でも分かって欲しいんだ。私も裕子さんも、二人には仲良くして欲しい。浅葱が何か咲夜くんの気に障ることをしたようだが、どうか許してやってくれないか?」

 どうやら彼から聞いた事は本当だった様だ。
 わざわざ俺たちの仲を改善しようと家を空けていたのだ。

「……いえ、俺も…悪かったから」

 隣でフッと笑う声が聞こえた。
 言われてもいないのに話を合わせた俺が可笑しかったのだろう。
 けど、そうするしか無いじゃないか。
 そうすることを望んでいる癖に。

「心配かけて、すいませんでした」
「俺たちは大丈夫だよ」

 俺の言葉と兄の笑顔に、母たちは嬉しそうに笑った。

 両親の居ない三日間。
 昼夜問わず兄に組み敷かれ啼かされた。

 けれど…

 俺はそれを凌辱と呼べるのだろうか。
 躰はもう兄の味を覚え、与えられる僅かな刺激でも喜ぶ様になった。

 母さんの幸せを盾に俺を脅すこの人を責められるのだろうか。
 卑怯だと呼べるのだろうか。

 本当に卑怯なのは…





 脅され、囚われたふりをしている俺なのかもしれない。


END



書き始めの頃は、わりとちゅーにッポイ名前つけてました。
今も大して変わらないけど…





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