アウトドアくんとインドアくん
※夏好き+夏嫌いの戦い。
「となりに越してきた、水浦(みずうら)です」
俺の部屋の隣に、新しい住人が入って来た。
大学は違うがどうやら同い年らしい。
挨拶に来たアイツを見たときは、何となく冬っぽい人だと思ったものだ。肌の色がめっぽう白いからそう思っただけなのだけど。
夏嫌いな俺としては、冬っぽいイメージなだけで十分好感が持てた。
本気で夏が嫌いなのだ。
いや、夏というよりも暑さが耐えられない。そして夏が好きな奴は大抵アウトドアが好きだから余計に嫌だった。
アウトドアな奴らは、必ずと言って良いくらいインドアな奴を蔑む。
【暗そう】【不健康そう】【何を楽しみに生きているか分からない】
何なんだそのイメージは。俺からしたら“ほっとけ!!”の一言に尽きる。
部屋の中で本を読むのが好きで悪いか?
人が見が苦手だからって、ネットで買い物を済ます事は罪なのか?
夏だから海水浴? 冬だからスノボ?
はっ、行かねーよッ!
……取り敢えずそれが俺の主張である。
◇
昨夜は遂に“蚊”と言う天敵が現れた。
それも真夜中、熟睡していた俺の耳元で“ンーーーー”みたいな独特の音を立てて飛び回ったのだ。
飛んでいても、かと言って静かになっても気になるのが奴という存在だ。
チクショウ…まだ蚊取り線香用意してねぇよ。
そのお陰で見事俺は寝不足となった。
「あっちぃ…」
五月ともなれば、晴れた日の気温は二十五度を簡単に超える。暑さに弱い俺にとっちゃ死亡フラグが立ち始める気温である。
申し訳程度に引っかかっていた羽毛布団を蹴り飛ばし起き上がると、気怠い体に喝を入れて何とかゴミ出しへ向かった。
前回のゴミ出しが間に合わず、今日を逃すわけには行かなかったのだ。
「あ、日和(ひより)さん。おはようございます!」
玄関のドアを開けた途端にかけられる何とも爽やかな挨拶。
振り返れば先月引っ越してきた隣人が、俺と同じように手にゴミ袋をぶら下げて立っていた。
「おはようございます、水浦さん」
「今日は天気いいですねぇ〜」
「ですねぇ」
先ほど部屋を出る前に付けたテレビでは、今日は日中最高気温二十八度だとかほざいていた。
二十五度で既に死にそうなのに、二十八度て何なんだ? あ? 蒸発しろってか? それにしても、水浦という男は見た目の印象とは違いハツラツとした奴だな…。
チラッと男を伺えば、その涼しげな顔でニッコリと微笑まれ慌てて目を逸らす。
ゴミだし場まで足を進める内にどんどん無くなっていく日陰。
「あっちぃ…」
「これからどんどん暑くなりますね」
涼やかな声で紡がれた事実は、考えただけで俺をゾッとさせた。そして思わず言葉が漏れ。
「最悪ですね」
「最高ですね」
「「……は?」」
思わずお互い見つめ合う。
「え、今なんて?」
「いやだから、最悪だって言ったんですよ」
「……どうして?」
男の笑顔にヒビが入ったのが見えた気がした。
「どうしてって、暑いからに決まってんだろう」
思わず苛立った(既に敬語も飛んでいる)声で答えれば、涼やかな男の眉間がヒクリと動いた。
チクショウ、なんてこった。コイツ絶対アウトドア野郎だ。
「暖かくなれば、楽しみが沢山増えますよ?」
「暖かいっつー次元じゃねぇだろっ。つーか楽しみってなによ」
「キャンプにBBQ、マリンスポーツだって」
「行かねぇし」
「………」
――ボスッ!!
ダストボックスの中で、二部屋分のゴミが勢いよく転がる。
「……部屋に引きこもってばかりいると、健康に良くないですよ?」
「余計なお世話だ! それに必要最低限は学校行くときに日光浴びてるんでだーいじょーぶでーーす」
「にっ、憎たらしいッ!」
涼やかボーイの顔が悔しさで歪んだ。
こうしてアウトドア派な水浦とインドア派な俺は、この先事あるごとに対立することとなるのだった。
「押し入れにでも閉じ込めてキノコ生やしてやろうか」
「いつか灼熱の太陽の下を引きずり回してやるッ」
END
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