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※氷川義経×冴島美咲


 窓側の一番後ろの席が、真っ赤に染めた髪を指で弄ってる俺の席。そのひとつ前の席に座るのは、学校一のモテ男、氷川義経。
 背が高くて、スタイルも良い清潔感バリバリの色男。無口でクール、文武両道のデキる男が女にモテない訳が無い。
 男達からも羨望の眼差しを向けらる、そんな“完璧”な人間をすんなり信じ込める程俺は純粋じゃない。

 それに、何かこいつは危険なニオイがぷんぷんする。アホだアホだと言われる俺も、野生の勘ってやつ? それだけは敏感に働くんだよな。

『キミコ、危ないものにはフタをしろ』だ。こいつには、関わらないのが一番。

「あ…」

 後ろも振り向かず無言で回されるプリントは、いつも目の前にぷらりと下げられる。もちろん、俺も無言で受け取るが…。

「っ、」

 結構な割合で触れる、冷たい指先。

 俺か?
 俺が触っちゃってんのか?

 プリントを受け取る時に触れる指先に、いつからか混ざるようになった不可解な感情。それが何かは分からないけど、これは知らなくていい事だと思ってる。
 だけど、触らない様にしようとすればするほど、動きが不自然になって触ってしまう。どうしたものかとぼうっと窓の外を見ていると、気付けばまたプリントを回されていた。

「あっ、わりぃ」

 いつからぶら下げて居たのか分からないから、取り敢えず謝って慌てて受けとっっ…

「っ!!」

 受け取ろうとした手は、プリントと共に氷川の指を握ってしまう。関わるまいと決めたその場から犯した失態に、頭が痛くなる。

「っ!?」

 慌てて手を離そうとしたら、何故か氷川に掴み直された。
 握る手の力は込められたままなのに、氷川は相変わらず前を向いたままだ。
 
 え、何なのこれ。

 手を引っ込めようとしたらもっと強い力で握りこまれ、少し前に引かれる。前屈みに体制を崩した俺は、思わず氷川を見上げた。

「っ!」

 氷川が肩越しに後ろを振り向いている。
 今まで一度も交わらなかったあいつの視線が、俺の視線に絡みつく。

「っ、っ!っ!?」

 声にならない声を上げてパクパクと鯉化した俺に、氷川がニヤリと笑った。
 何かが、始まる気がする。


(俺って、やっぱりアホなのかも…)


END


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